17年ぶりの理瀬シリーズです。
確か、「黄昏の百合の骨」を読んだような…。
あまり記憶はないのですが、百合の香りを覚えているのです。
この本を読んで、半ばまでなかなか読むスピードがあがりませんでした。
でも、後半はすらすら~っと読めました。
前半は文字から私の頭の中でイメージが出てくるまで時間がかかったのが、原因のひとつかなと思います。
そもそも、ブラックローズハウス、五館からなる薔薇をかたどった館、というのがイメージするのが難しい。
理瀬はブラックローズを日本の家紋の「陰桔梗」だと言いますが、花の形というより、私の頭の中では星形☆になってしまいます。
陰桔梗紋、その花びらの真ん中は建物ならどうなっているのか?
もしかして、オズワルド・レミントンが隠れていた煙突とか?
星形の中心は五角形、ペンタゴンです。
本の中には北見隆さんの挿絵が何枚かあるのですが、ブラックローズハウスの全容の絵は皆無。
五館からなる館の絵が見たいです。
さて、物語の中では二人が亡くなります。
「祭壇殺人事件」と呼ばれる血生臭い凄惨な事件なのですが、殺された人についてはほとんど描かれていません。
殺人事件なら、誰が殺されたのかが重要な問題だと思うのですが、ヨハンのさらりとした言葉だけで終わりです。
思うに、この殺された人物やなぜ殺されたのかを想像することこそが、蛇。
物語という薔薇のなかにある描かれていない、蛇。
それから、もう一人。クスリのオーバードーズで亡くなった人。こちらも気になります。
殺された人が、たった数行で終わりだなんて何だか可哀想過ぎます。
物語の始まりは霧雨。
この霧や雨が、とても効果的です。
読んでいる間、私の住むところは夏だというのに梅雨のような天気。
雨が降ったり、雷が鳴ったり、どんよりとした曇り空だったり。
この物語を楽しむには最適な空模様でした。
本文より
「なんか、不思議よね。イギリスの紋章とは全然違う。省略の仕方がハンパないっていうか、ものすごい洗練されてる。もしかすると、昔の日本人は、『本当に』ああいう形を自然の中に見てたんじゃないかって気がするわ。あたし、時々考えるの。昔の人と自分たちって同じものを見ても全く違うものを見てるんじゃないかって。今、隣に昔の人がいたら、同じ犬や花を見ても、目に映っているものは違うんじゃないかって」