肉体のジェンダーを笑うな /  山崎ナオコーラ

2022年08月03日 | や行の作家


ジェンダーとは?

ウィキペディアによりますと、多義的な概念であり性別に関する社会的規範と性差を指す。
性差とは、個人を性別カテゴリーによって分類し、統計的に集団として見た結果、集団間に認知された差異をいう。
ジェンダーの定義と用法は年代によって変化する。・・・・

何だか、難しくて頭が痛くなりそう~。
でも、物語は、全然難しくないです。夢のような世界が待っています。
夢のような世界は、深いです。

父乳の夢
笑顔と筋肉ロボット
キラキラPMS(または、波乗り太郎)
顔が財布

4編の短編集。

父乳が出たり、顔ひとつで買い物ができたり、部分的なロボットを装着して筋力握力をアップさせて家事を楽にこなせたりして、私たちは便利に便利になっていく。

どんなに便利になったとしても、人間なので身体的にも精神的にも波があって、感情にも左右されてしまいます。
なので、波乗り太郎のお話が沁みてきます。


「父乳の夢」では、赤ちゃんの薫ちゃんの父、哲夫さんが乳を出して与え育てていきますが、生活をうまくコントロールしていくのは母である今日子さん。
今日子さんの正しい判断が神さまのようです。

「笑顔と機械ロボット」では妻の紬さんがロボットの力を利用して過去の自分と決別し暮らしを楽しむことに向かって行きます。
その判断の正しさに神さまもびっくり!!なはず。

「キラキラPMS(または、波乗り太郎)」の夫の太郎さんと妻の床さん。太郎さんに対する床さんの言葉は神さまそのものです。

で、わずか6ページの「顔が財布」のお話に神はいるのか?と考えたら、ロボットが神さまかも?と思えてきて。
えええーーー!?
っと、びっくりなのでした。


科学技術の進歩って、そろそろ神の領域だなと思ったりしました。

昔から日本では子供は神さまからの授かりものというような考えがありますが、母乳だろうとミルクだろうと父乳が可能になったとしても、神さまからの授かりものという考えを忘れずにいたいな、と思います。


本文より

毎日毎日、悩んでいるから、親になっていく。

「役割分担は、もう時代に合わないんだろうね。必要とされていなくても、生きていかなくちゃいけないんだ。他の人でもできることを自分がやっていいんだね。たぶんさ、相手にできないことを自分がやるという仕事でしか自分の存在価値を確認できないと思い込んでいるから、『できない人』を捻出しようとしちゃうんじゃない?自分にしかできないことをやるんじゃないくて、相手にもできることを自分がやるんだね」

「あ、いやいやいや。理解っていらないんだよ。理解は捨てよう。ポーン」

世界にたったひとつしかない顔を見分けて「あなたこそが、どんなに世界を探しても二人目は見つからない、たったひとりの人です。この情報を操れる、ひとりだけの人間です」と、それだけを言ってくれるのだ。




コメント

リボンの男 /  山崎ナオコーラ

2022年07月04日 | や行の作家






難しい言葉も難しい言い回しも難しいからくりもひねりもなく、すらすら素直に読めて気持ち良く読み終えました。
久しぶりの楽しい読後感🎵

確かに、主婦や主夫って小さい世界だと思いがちではあります。
主婦や主夫の世界ってつまりは家庭。
誰でもその小さいと思われる世界、家庭から巣立って、やがては大きいと思われる世界からも巣立って、また小さいと思われる世界へ帰ってくるわけで。
小さい世界は浅い世界かと言えば、無限な深さもあるわけで。
そのあたりの描き方は、主夫である妹子さんの心の中にあたるのですが、感動的でした。

妹子さんの本名は小野常雄さん。妻はみどりさん。子供はタロウ君。
三人の名前、なかなかです。
主夫の妹子さんが常に♂だなんて。
みどりさんはさわやか、三人が住む野川にぴったりです。
そして、タロウ君。カタカナですが漢字ならどんな字だろうと想像してみました。
「多朗」はどうでしょう?「ほがらかがいっぱい」の多朗です。

妹子さんは専業主夫なので稼ぎはありません。
稼げないことを妹子さんは気にしたりします。
稼ぐ立場の妻であるみどりさんの稼がなくてはならないプレッシャーもよくわかるので、稼ぐ稼げない辛さはフィフティフィフティ。
お金を基準に考えるって、何だか世界を狭めますね。
小さい世界を巣立って大きい世界でお金を稼ぐのに、狭める?…
何だか、変です。

家事や育児が女性だけのものでなくなり、働かない男性の主夫の物語が登場するまでになって、そういう時代になったことがうれしくなります。
日本は「こうあるべき」にずいぶん縛られてきました。
生きづらさや息苦しさは「こうあるべき」の縛りなのですね。


で、この物語は家事や育児の問題だけではなく、現代の日本が抱える問題をいろいろ提示しています。
野生の動物と人間の境界
非正規雇用と正規雇用の格差
男性と女性の差別
プラスチックと環境
心の病
外来種…。

いま、こういう社会に住んでいるんだなと思ったら、物語の舞台の野川をのんびりと歩いてみたくなりました。



本文より

「いろいろな形態の書店が進化していってこそ、多様な書店文化が育まれるんだと思います。共存したいな、って思います」

「そうだよね。やりたいことは何個でもやった方がいいよね」

外来種だって、ただの生き物で、一所懸命に生きている。外来種の生き物や植物の多くが在来種より大きくて強いからといって、悪口を言って良いわけではないだろう。








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偽姉妹 / 山崎ナオコーラ

2018年11月08日 | や行の作家

この物語は、宝くじで3億円当たってそれを何に使ったか、というお話だと思います。
当たった正子さんが、誰のためにどう使ったか。
もちろん、いちばんは自分のため、であるのですが。


別の登場人物を主人公にして、このお話の別バージョンを描いてみたらとても面白いと思います。
私なら、主人公は、正子さんの友人でありニセ妹である、あぐりさん。

あぐりさんは、正子さんの友人でありニセ姉である百夜さんを仲間に引き入れ、宝くじで家を建て、まだ億単位のお金を持つ正子さんに寄生することにしました。

正子さんから泊りがけの夕食に誘われたのを良いことに、百夜さんと正子さんの家に住むことにしました。
住むのは、簡単でした。実の姉妹がいても住んでいればいいのです。
正子さんは「帰って」とは言わないことは、何となくわかっていたのです。友人ですから。

帰らないでいると、正子さんは、実の姉妹を追い出し、百夜さんとあぐりさんと姉妹になりたい、と言い出しました。三人とも、ラッキーとばかりに、ニセ姉妹が誕生しました。

そして、あぐりさんは、次の計画のチャンスを待ちました。
ほどなく、チャンスは訪れ、大好きな「パンを焼くこと」を仕事にすることができました。
めでたしめでたし。

百夜さんは、あぐりさんと正子さんに引っ張られる形でしたが、もとの仕事は派遣だったので、やはり住む家と仕事の心配もなくなり、なんと事実婚の夫までゲットしたのでした。めでたしめでたし。事実婚の夫って、やっぱり、ニセ夫?

しかも、ニセ姉妹もニセ夫婦も、喫茶店も40年後も続いているのです。めでたしめでたし。

で、正子さんの実の姉である衿子さんと園子さんの40年後は描かれていません。
なので、とっても気になります。もやもやします。

めでたしめでたし。でしょうか?それとも???

あっ、衿子さんや園子さんを主人公に物語を描けばいいのですね。
ニセ姉妹の三人より、ずっとめでたしめでたしの物語を。


本文より

「そうね、小説だってロボットが書けるようになるらしいね。でも、機械ができないことをやるのが人間じゃないよ。機械ができることでも一所懸命にやるのが人間だよね」

茂と結婚して主婦になったとき、金をもらって生活することの罪悪感を覚えた。宝くじの金で家を建てたとき、茂から苦々しく思われていたと今になってはわかる。・・・・・
ただ、百夜と正子とあぐりの組み合わせの場合、金の遣り取りの緊張が走らない。それが、百夜とあぐりを姉妹に選んだ理由のすべてのような気がする。









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