陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「ゴジラ-1.0」

2024-11-02 | 映画──SF・アクション・戦争

日本ではゴジラを含めた特撮映画はいくつもつくられています。
その国産通算30作目にして、なんと、生誕70周年記念作にあたるのが、2023年11月3日で劇場公開された「ゴジラ-1.0(マイナス ゼロワン)」。「戦後、無(ゼロ)になった日本へ追い打ちをかけるように現れたゴジラがこの国を負(マイナス)に叩き落とす」という意味があるとか。

山崎貴監督がVFXも脚本も手掛け、アカデミー賞で視覚効果賞をアジア・日本映画史上初で受賞したことでも注目されました。この受賞は、「2001年宇宙の旅」のスタンリー・キューブリック以来55年ぶり。

つまり背景などをすべてCG処理しているわけですね。
昨年あたりに、本作の特集番組を見た覚えがあるけれども、たしかに撮影現場で俳優さんが演技しているバックがブルーのシートだけになっていました。

今回、この話題作が早くも金曜ロードショーでノーカット放映。
平素、あまりこの手のパニック映画は好まないのですが、「ただの怪獣映画じゃない、これは人間ドラマだ」の呼び込みに心ひかれて、視聴していみることに。

終戦直前の零戦飛行士・敷島浩一が不時着した大戸島が、とつじょ、巨大な怪獣「呉爾羅(ゴジラ)」に襲われる。委縮して砲撃できなかった敷島と橘をのぞく整備兵たちは全滅。

1945年冬、本土復員を果たした敷島は、行き掛かり上、身寄りを無くした女性大石典子と、血のつながりのない赤子明子と暮らすことに。
米軍の機雷撤去作業の仕事にありつき生計も楽になった1947年の春、日本近海にゴジラが出現。GHQの占領下で日本の軍事力が制限されているさなか、敷島たちは同僚の特設掃海艇・新生丸艇長の秋津らとともに、ゴジラ撲滅に挑むことになるが…。

その昔のゴジラはいかにも着ぐるみですよ、といった動きをしたものですが、ハリウッド版のゴジラやジュラシックパークの恐竜たちがフットワーク軽く飛び跳ねる時代を経たせいか、スマートさと重厚感を増した感があるこのゴジラ。背中のえらが青く光って熱戦を放つのもおぞましい。核攻撃に匹敵する破壊力。米国の核実験で誕生した巨大生物という設定は、ゴジラ映画誕生当時のアイロニーなのでしょうが、原爆を思わせるきのこ雲や瓦礫の山と化した銀座の街並みをみると、ぞっとします。しかも、細胞が再生する不死身だとか、恐ろしすぎるでしょう。

国会議事堂を破壊されたので政治機能は麻痺。
しかも米ソの冷戦まっさかりだったがため、駐留の連合国軍は軍事行動を起こしてくれない! 自衛隊なんてなかった時代、日本人は民間人で組織した(旧海軍所属者中心に)メンバーで、元技術士官の野田の発案のもと、相模湾沖でゴジラを深海に沈めて水圧変化で殲滅させる「海神(わだつみ)作戦」を実行します。

誘導役の戦闘機に登場するのが、銀座で典子を失ってしまった敷島。
自分の中では戦争が終わっていない、特攻も辞さない敷島に、大戸島の全滅でなじった生き残りの橘も整備に協力することに。

海上でのゴジラ掃討作戦は、駆逐艦にくわえ、見習い乗組員だった水島らもはせ参じ、第二次作戦のあわやの失敗を支えることに。
パニック映画ですからもちろん最後にはかろうじて救済があるものの、不穏な気配が残る締めくくりになっています。

ハリウッド映画に多用されているCGがあざとくてあまり好きではなかったのですが、本作のVFXはさほど違和感がなくて、ストーリーに没入できました。ヒーローの犠牲を美化しなかったこと、逃げた者へのリベンジ、戦争賛美への静かな反論、そして政府任せにはできない国防問題。いろいろなメッセージをはらんだ良作だと感じました。

主役が神木隆之介はじめ、ジャニーズ系などのアイドルやお笑い事務所経由のタレントではなくて、朝ドラっぽい、地味目の昭和くささがにじみ出ているキャストがすばらしいなと。
「日輪の遺産」の堺雅人もよかったのだけれども、どうしても、大当たりドラマのあのキャラという箔がついた俳優さんだと、一般人ぽさがなくて。佐々木蔵之介も、声で「まさか、宣孝さま?!(大河ドラマ「光る君へ」の紫式部の夫)」気づけたけれども、顔だけみたときは戦後にいそうなちょっとやんちゃなおじさん、という役になじみ過ぎていて(笑)。安藤サクラ演じる隣のおばさんも息子を空襲で奪われたので、帰還兵の敷島をいびっただけで、厳しいけれど情の深い人に変えてくれたのもよかったです。反面、極端なヒール役がいないせいでスカッとする時代劇的なカタルシスは薄め。エンタメというより、ヒューマンドラマではありますかね。

令和のサブカルの感覚だと女性のシャキシャキした指揮官や戦闘兵が登場したり、あるいは外国人ルーツの人をキャストに混ぜたりして一気に時代性が薄れていく手心を加えがちなのですが、山崎監督は往年のゴジラ映画などを学習して雰囲気を壊さないように努めたのでしょう。私、この監督さんの「ALWAYS 三丁目の夕日」はあまり好きではなかったのですが、本作は、敷島たちゴジラに向かう人間が「七人の侍」みたいな武士道を貫いていて、かっこいいあたりが反響を呼び、世界的な興行収入の記録更新につながったのではないか、と感じます。続編のゴジラシリーズの製作も発表されましたが、監督が意気込んでいる「風の谷のナウシカ」の実写版は観てみたい。

日本のアニメや特撮は、スピルバーグ一はじめハリウッドの大物監督にも称賛されているのはいいことなのですが、「日本政府はあてにならない」という政治批判がこめられた本作のヒットは喜ばしいのか、庶民の憤懣やるかたない思いを娯楽に結集した見事さというべきなのか。

しかし、敷島帰還兵の臆病さ、けっして私はあざ笑えないと思います。
あんなおぞましい怪物を前にしたら、やはり震えて動けなくなるのも道理なのではないでしょうか。絶望でやけっぱちになって英雄めいた行動を起こすのを戒める結末も、万が一のことがあれば最前線に出て国難に立ち向かう勇気があるのか、乏しい食料を隣人とわけあえるのか、を諭す場面も、大災害時を幾度も経験した日本人に刺さる部分があるようです。



(2024.11.01 視聴)



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