くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

肉片(ミンチ)な彼女(45)

2016-12-08 20:07:09 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「せっかくの魔法をこんなトリックに費やすなんて、あんたらはほんといい人達だね」と、カリンカがため息混じりに言った。
 二人の顔色がみるみる変わりはじめた。歯を食いしばり、無表情なマスコットのカリンカを見ていた。
「どうしてなんだ」と、ビムルが言った。ぜえぜえと、苦しそうに肩で息をしていた。
「二人の魔力を合わせたのに、どうしておまえには通じないの」マムルも、苦しそうな息をしていた。
「魔法が思うように使えない世界だからって、使う方法がないわけじゃないって事ぐらい、知ってるだろうさ」
 ひどい揺れがぴたりとおさまった。マムルが力なく崩れ落ちた。苦しそうに息をしているビムルが、倒れかけたマムルをしっかりと両手で受け止めた。
「おまえの言うとおりかもな」と、マムルを抱きかかえたまま、ビムルが言った。「私達は、優しすぎたのかもしれない。なまなかな脅しじゃなく、命がけでなくてはならなかったんだ」
 片手でマムルを支えたまま、ビムルは振り向きざまに杖を取り出し、カリンカに向かって振りおろした。
 ズドドン、と青白い火花が走った。
 不意を突かれたカリンカは、爆発の圧力をマスコットの体に受け、軽々とはじき飛ばされた。
「油断したじゃないか」と、宙に浮いて止まったカリンカが、くるりと二人がいる方に向き直った。
「――やめておいた方がいい」と、カリンカが言った。
 杖を頭上に構えたビムルが、二撃目を放とうとしていた。
「貴重な魔力をそれ以上無駄遣いしないでおくれよ。私の取り分が少なくなるじゃないか」

「それより、答えは出たのかい――」

 カリンカの言葉に惑わされ、ビムルは二撃目を放つ機会を逃していた。しかしそれは、正しい選択だったのかもしれない。ゾオンの者なら誰もが知っているおとぎ話の魔物が、目の前に姿を現そうとしていた。
「――あなた」と、ビムルの腕に支えられていたマムルが、大きく目を見開いていた。
 マムルが弱々しく指をさした先。意識を失った叶方があお向けになっている場所だった。しかし、叶方の姿はどこにもなかった。叶方とは違うなにかが、同じ場所に出現していた。
「青い、鎧……」
 クツクツと、宙に浮いたまま笑っているカリンカを気にする余裕もなく、ビムルの目は、あお向けに横たわる鎧にくぎ付けになっていた。
「やっぱり知っているようだね」と、カリンカがビムルの横に来て言った。
「――おまえ、どうやってあれを呼んだんだ」ビムルは杖を振るった。しかし杖は、風を切っただけで、宙を飛ぶカリンカを捕らえられなかった。
「それは教えられないね」ひらり、と宙を舞うカリンカが言った。「けどひとつ言えることは、あの鎧がこんな姿になったのは、みんなあんた達が原因だってことだよ」
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肉片(ミンチ)な彼女(44)

2016-12-08 20:06:19 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「体の一部だって……」と、カリンカが言った。「そんなもんじゃないよ。欲をかいて、バラバラになったそこの女の手を離さなかったのが、悪かったんだ」
「私達の仲間が何人か行方不明になっているけれど――」と、マムルが自分を落ち着かせるように言った。「目的が同じなら、傷つけ合うことなんかないじゃない。もし違うって言うんなら、あんた達がゾオンで吹聴していた新しい価値観とか考えとかっていうのは、人を思い通りに扇動するためだけの甘言じゃないのよ」
「仲間がどうして行方不明になったのか、とっくに感ずいているだろうに、それに目をつぶって仲間に誘おうとする方が、よっぽどあくどいと思うんだけどね」と、カリンカが言った。
「――ちょっと待ってくれ」と、ビムルが額に手をあてながら言った。「どういう事なんだ」

「ククク……」と、カリンカが声をひそめて笑った。

「私達と協力して、ゾオンに帰るべきなのよ」と、マムルがビムルに言った。「互いにいがみ合う必要なんか、ないんだから――」
「違うんだよ」と、ビムルが顔を上げて言った。「嫌な予感がするんだ。仲間が消えているのも、モリルの体がバラバラになったのも、私達がにらんだとおり、こいつの仕業に違いない。きっと、目的が違うんだ。最初から、ゾオンに帰るのは自分一人だけだと決めているんだよ」
「よくできました」と、カリンカが言った。「満点ではないけれど、私が教師なら、合格点を上げているところだよ。あんたらの言うとおり、ゾオンに帰れば、元の体に戻れるかもしれない。だけど、置いてきた体がどうなっているのか、そんなことは誰にもわからないんだ。喜び勇んで帰ったとしても、私には残酷な現実が待っているだけかもしれない。だとすれば、自分の仕事をやり遂げて、どんな形であれ、逃亡者を連れ帰る方が、悔いが残らないと思わないかい」
「――協力できないと言うんなら、好きにするがいい」とビムルが言った。「だが、おまえのやりたいようにはさせないからな。行方がわからなくなった仲間達の居場所も、全部話してもらおうじゃないか」
「ハハハ……やっぱり、合格点はあげられないよ」と、カリンカが大きな声を上げて笑った。「はて、おまえ達の仲間は、どうやって姿を消したのでしょう? こんな姿になった私が、おまえ達をどうやって邪魔しているのでしょう、そしてその方法は?」

「さっさと考えなよ」と、カリンカが急かすように言った。「私一人で、どうやってあんた達からバラバラになった体を奪い取ったのか」

「仲間に誘おうだなんて、最初から反対だったのよ」と、マムルが言った。「二人がいなくなった犯人を目の前にして、許してなんかやれるわけがないんだから」
 部屋がまた揺れ始めた。先ほどの揺れとは、比べられないほど大きな揺れだった。叶方が意識を失っていなければ、目が開けていられないほど激しい地震、と言っていたかもしれない。しかしその中にあってなお、カリンカは無表情なマスコットのまま、小さな体躯でしっかりと床に立っていた。
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肉片(ミンチ)な彼女(43)

2016-12-08 20:05:15 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「あんたらが気にしている仲間なんて、いやしないよ。私一人だけだ」と、カリンカが言った。「ちょっと遅すぎやしないかい。ゾオンを出てから、どのくらい経ってると思ってるのさ。お互い協力しようだなんて気は、これっぽちもなかったくせに。どういう風の吹き回しかねぇ――」
「やむを得ないじゃないか」ビムルが困ったように言った。「きみ達に捕まれば、なにをされるかわからなかったんだ。そう疑われても仕方のないことを、きみ達はゾオンでやってきたんだから」
「――ははん」と、カリンカが言った。「待ち伏せていたくせに、いつまでも襲いかかってこないのはおかしいと思ったけれど、さてはあんたら、扉を探してるんだね」
「……」と、二人はなにも答えなかった。
「扉を持っていないくせに、なにを協力しあおうってんだい――」
 カリンカが言おうとすると、ビムルがあわてて口を開いた。「待ってくれ、扉はちゃんと持っているよ」
「――へぇ、そうかい」カリンカが言うと、マムルがギクリとした様子でビムルの顔を見た。
「心配することなんかないんだ。こちらの世界にやってきた“生きている扉”は、もちろん私達が持っているよ。帰ろうと思えば帰れるんだ。けど、きみも知ってるだろ。この世界では魔法が思うように使えないんだ。仲間達の力を合わせなければ、力が発揮できないんだよ」
「おかしいね」と、カリンカがふわりと宙に浮かんだ。小さなボタンの目が、ビムルの目をまっすぐにとらえていた。
「あの扉を動かすのに、魔法が必要だったかい」
 ビムルの顔色が変わった。笑顔が消え、深いしわが刻まれた顔は、急に年を取ったようだった。
「バラバラになった彼女がどうしても必要なのは――」と、床に下りたカリンカが、ひょこひょこと前に歩き出した。「彼女しか、扉の場所を知らないからだよね」
「いや、そんなことはない」と、ビムルがすぐに首を振った。「扉は私達が持っている。ただ、彼女を助けたいだけだ。そのためにここに来た――」
「そうかもしれないよ」と、カリンカがビムルの言葉をさえぎった。
「あんた達が扉を持っているのが確かだとしても、保管している場所がわからないんだとすれば、それは無くしたのと一緒じゃないのかい。正直になりなよ。バラバラになった彼女を助けるだなんていうのは、聞こえがいい口実で、本当は彼女だけが知っている扉の場所を知りたいだけなんだろ。敵対してる私に近づいてきたのも、仲間に引きこんで魔力を合わせ、たとえ蘇らせることができなくても、扉のありかを聞き出そうとしているからだろ」
「――おまえこそ」と、マムルが憎々しげに言った。「まさかとは思ったけど、その人形の体は、操っているわけじゃないよね。仲間の魔力がみんな弱くなっているのに、一人だけ人形を操れるなんて、どれほど強い魔法が使えるのか恐かったけど、すっかり騙されたわ。私だって、弱くなってはいるけれど、ちゃんと魔法が使えるんだからね。あんたの魂が、そっくりその人形の中に入ってるのが見えるよ。思うように動けないから、無関係な子供を巻きこんでいるんだろ。ミーナが言っていたけど、こちらの世界に来る途中、閉まる扉にはさまれて、体の一部を置き去りにされたんだってね。ゾオンに帰らなければ、元の体には戻れないんじゃないのかい」
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肉片(ミンチ)な彼女(42)

2016-12-08 20:03:42 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「おとなしくしていてくれないか」と、男がやさしく言った。「傷つけるつもりはないんだ。黙って仲間を返してくれればね」
 叶方は、「ふざけるな」と言いかけたが、女に猿ぐつわを噛まされ、もごもごと首を振ったまま、あお向けに転がされてしまった。
「言いたいことはなんとなくわかるが」と、男が額を手でぬぐいながら言った。「君は部外者だからね、少しの間、そこでおとなしくしていてくれないか」
 男が言うのを聞くと、叶方は余計に手足をばたつかせた。
 その様子を見ていた男は、あきれたように首を振った。
「仲間が二人姿を消したんだが、まさか君の仕業じゃないよね?」
 セーターの裾をたくし上げた男は、どこに隠していたのか、短い杖を取りだした。なにやらもごもごと口ずさみながら、男は叶方に向けて小さく杖を振りおろした。
「ぐっ……」と声を洩らした叶方が、体を反らせたまま、ピタリと動きを止めた。
「こういう場合は、眠ってもらうのが定石なんだろうけど、なにぶんこの土地では魔法が思うように使えないんで、許しておくれよ」男は言うと、持っていた杖を大事そうにまたセーターの下にしまった。
「そんなことまで言っていいの……」と、女が男の隣に来て言った。けわしげな表情は、床に立ったまま微動だにしないカリンカに向けられていた。
「お前は心配しなくてもいいよ」と、男が笑みを浮かべながら言った。「魔力が弱くなったのはお互い様さ。ぼく達だけが魔法を使えなくなったわけじゃないんだから」
 男の顔をのぞきこんだ女は、安心したようにうなずいた。
「おやおや、どうやら夫婦みたいだけれど、二人で力を合わせればなんとかなるなんて、考えちゃいないだろうね」と、カリンカが言った。
「二人だけじゃないさ」男が言うと、大きな揺れが徐々に治まっていった。「私はビムル。これは家内のマムルだよ」
「はじめまして」と、マムルがカリンカを見ながら言った。「ゾオンの人にあったのは久しぶりだわ。よろしくね」
「ククク……」と、カリンカは声を出さずに笑った。
「ちっちゃな魔法使いさん」と、男がカリンカを見下ろしながら言った。「ぼく達の国ではいろいろあったが、別の世界に来てまで争う必要はないと思うんだ。仲間が二人、姿を見せなくなった。いやいや、かたきを取ろうなんてつもりはないんだ。単独行動をした彼らのせいでもあるわけだから。きみはどう考えているか知らないが、私は、自分達がいた世界に戻りたい。もしもきみに同じ思いがあるのなら、これ以上互いに傷つけあうのはやめて、協力しあわないか」
 マスコットの姿をしたカリンカは、重そうな四角い頭でビムルを見上げていた。マムルが、笑みを浮かべながら二人を見守っていた。
「ぼく達と協力すれば、ゾオンに帰れるんだよ。そんなに警戒する必要なんかないさ。ぼく達だって姿を出したんだから、君も出てきて、ちゃんと話をしようじゃないか。ほかに仲間がいるのかもしれないけれど、少なくとも、魔法が使えないこの世界の人間に手伝ってもらわなくても、ちゃんとゾオンに帰れるんだ。返事に迷うことなんか、ないと思うけどね」
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肉片(ミンチ)な彼女(41)

2016-12-08 20:02:52 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「まったく、息苦しいったらありゃしない」バッグの外に這い出したカリンカが、憎々しげに言った。
「ごめん、先に体を戻してたんだ」
 叶方が部屋から顔を出すと、カリンカがあごを突き出すように見上げた。
「――フン。わかりやすい嘘つくんじゃないよ。バッグを置くのが面倒だっただけだろ」
 カリンカが、ひょいと身軽に飛びあがり、ちょこんと長椅子の背もたれに腰を下ろした。
「えっ、どうしたんだよ――」と、部屋から出てきた叶方が言った。「いつもより動きが軽いんだけど」
「ああ」と、カリンカが笑いながら言った。「だんだん魔力が戻ってきたんだよ。京卦の体が全部揃うまでには、魔法が元どおりに使えそうだ」
「……」と、叶方が耳をそばだてた。

「揺れてない?」

「おや、本当だね」と、カリンカが愉快そうに言った。「揺れてる揺れてる」
 カリンカが言うと、すぐに床が揺れ始めた。はじめは小さかった揺れが、すぐに立っていられないほどの大きさになった。叶方は、たまらずその場に手をついた。立ち上がることができなかった。床に手をついたまま、じっとしているしかなかった。時間の感覚が麻痺しているのか、揺れは、いつになっても治まる気配がなかった。
「――なんだよこれ、本当に地震かよ」と、顔をうつむかせたまま、叶方が言った。
「ああ」と、カリンカが言った。「本物の地震だとしたら、こいつはかなりひどい」
 カリンカは何事もない様子で、長椅子の背もたれから、スルルと宙に浮くように滑り降りてきた。
「今日はずいぶんお客が来る日だね」

「よくわかったな」と、どこからか男の声が聞こえた。
 と、女性の声が続けて聞こえた。
「さすがに、ゾオンの出身だけのことはあるわね」

「いつまでも隠れてるんじゃないよ」カリンカが、怒ったように言った。「もういいだろ、さっさと姿を出しな」
 部屋は、大きく揺れたままだった。カリンカが部屋の隅に顔を向けると、暗闇だった空間がハラリとずれ落ち、二人の男女が姿を現した。
 男は、並んでいる女の肩ほどの高さしかなく、着ているセーターの腹が太鼓のように突き出していた。女は、ジーンズに淡い色のシャツを襟を立てて着ていた。二人とも、近所に買い物に来たような、まるで緊張感のない服装だった。
「――お前ら、何者だよ」と、叶方が四つんばいのまま言った。
 二人は、部屋の揺れを苦にすることなく、滑るように叶方のそばまでやって来た。抵抗しようと歯を食いしばっていた叶方だったが、大きな揺れに立ち上がることができず、二人がどこからか取りだしたロープで、後ろ手に縛り上げられてしまった。
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肉片(ミンチ)な彼女(40)

2016-12-08 20:02:06 | 「肉片(ミンチ)な彼...
 カリンカは、バッグの中でおとなしくしていた。複雑な色に変わった液体をうっとりと眺めたまま、文句のひとつも言わず、叶方に身をまかせて、おとなしくバッグの中に収められた。叶方も、足取りが軽かった。早く戻って、取り返した京卦の体を元の位置に戻してやりたかった。残された体は、あといくつあるのだろうか、早足に歩きながら、そんなことばかりを考えていた。

「――おっと、危ないな」叶方は、不意に足を止めた。

 片足を上げた叶方は、足もとを横切った影を目で追いかけた。
 はたと止まって後ろを振り返ったのは、妖しく光る猫の二つの目だった。長いしっぽをゆるく遊ばせ、叶方の様子をうかがうようにじっとこちらを見ていた。
「びっくりさせるなよ――」叶方はほっと息をつきながら、大きく笑みを浮かべた。野良猫を見たのは久しぶりだった。引っ越してくる前は近所に顔見知りの猫がいたが、この街に来てからは、飼い猫以外ほとんど見かけたことがなかった。
 星空に照らされたのは、灰色がかった虎じま模様の猫だった。手足の先だけが白く、靴下をはいているように見えて、かわいらしかった。叶方は小さく手を振ると、向き直ってまた歩き始めた。
 と、目の端に映った猫が、二本足で立ち上がったように見えた。
「えっ」と驚いて振り返ったが、そこには舗装された冷たい通りが延びているだけで、猫の姿はどこにもなかった。
 見間違いだろう、と叶方は前を向きながら、おかしな錯覚を覚えた自分をくすりと笑った。
 ――――
 叶方は、押し入れに広げられていた布に京卦の体を包み、大事そうに抱きかかえながら、京卦のマンションにやってきた。
 何度も足を運んでいるとはいえ、ほかの住人とは、相変わらずすれ違うことがなかった。玄関ロビーにある管理人室も、人が利用している様子はあるものの、一度として管理人の姿を見たことがなかった。まるで、京卦しか住人のいないマンションのようだった。
 エレベーターが、京卦の部屋のある階で止まった。カリンカがいつになくご機嫌で、肩から提げているメッセンジャーバッグの中、鼻歌がかすかに聞こえてきた。いつもなら、早く下ろせと文句ばかり言っているはずだったが、二人目の追っ手を倒し、京卦の体を取り返したことが、なによりうれしいのかもしれなかった。
「ただいま」と、黙って借りた部屋の鍵を使って中にはいると、叶方は京卦が横たえられている部屋に急いだ。
 途中、足を止めるのももどかしく、肩から提げていたバッグを乱暴に下ろした。長椅子の上に投げ出されたバッグが、どすんと重い音を立てた。
 叶方は、横たわる京卦の前に膝をつくと、取り返した体をそっと下に置いた。巻いていた布を勢いよくはだけると、慎重に持ち上げ、胸の位置にそっと据えた。
「――よしっ」叶方は満足げに言うと、力強くうなずいた。
「……」と、長椅子に放り出したバッグの中から、こもった声が聞こえて来た。
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肉片(ミンチ)な彼女(39)

2016-12-08 20:00:35 | 「肉片(ミンチ)な彼...
         4 待ち伏せ
 ミーナの姿が消えた。カリンカの抱える小瓶の液体が、茶色く変わっていた。緑色をしていた液体に、オレンジ色を混ぜたようだった。よく見れば、小さなまぶしい光が、時折はじけるように瞬いた。液体の量はわずかだったが、瓶から溢れ出そうなほど、勢いのあるパワーを秘めていそうだった。
「ククク……」と、カリンカが瓶の蓋を閉めながら、声をひそめて笑った。

「これって……」と、叶方がつぶやいた。

 ミーナが背にしていた壁の横、引き戸が開けられていた押し入れの中だった。白っぽい布が広げられ、棚の上を隠すように覆っていた。叶方が布を引くと、ミーナが手作りしていたアクセサリーと、アクセサリーを飾るディスプレイが乱雑に並べられていた。
 ディスプレイは、形も大きさもバラバラだった。作ったアクセサリーに合わせるためなのだろうか、女性の手首に似せたものや、樹木に見立てたもの、色鮮やかな陶器もあった。叶方がアーケードに行った時に見かけたものもあった。その中心に、ほかとは不釣り合いな、生々しい人の胸像が混ざっていた。首にかけられた何本ものネックレスで、きらびやかに飾り立てられていた。装飾というよりは、お守りや魔除けに近い飾り方にも見えた。
 叶方は、気味の悪さを感じながらも、そっと胸像の肩に手を置いた。手の平から、ほんわかとした温もりが伝わってきた。指先を押し返す柔らかな感触は、探している京卦の体に違いなかった。
「――大丈夫だったか」叶方は、京卦の体に手を触れたまま、静かに言った。
 アクセサリーの束を首からはずすと、温もりのある肌があらわになった。無防備な乳房が、無言のままこちらを向いていた。叶方は、ギクリとして手を止めた。京卦を辱めているのではないか、と強い罪悪感を覚えた。耳が火傷しそうなほど、顔が熱く火照るのがわかった。手で触れるのをためらったが、目の前にある胸は、そんな叶方自身の思いを恥ずかしいと自覚させるほど、いとおしい弱さに充ち満ちていた。
 叶方は、脇の下に両手をかけて持ち上げながら、「きっと、蘇らせてみせるから」と、声に出して京卦に誓った。一刻も早くすべての体を揃え、蘇らせてやりたかった。
「あと少し」と、叶方は小さくうなずいた。体の奥底から、ふつふつと、自分でも驚くほどの力が沸き上がってくるのを感じていた。
 ――――
 戦いを終えたばかりのせいだろうか。ミーナが住んでいたアパートの階段を下りると、夏休みも残り少なくなったとはいえ、体の芯がヒヤリとするほど肌寒かった。とっぷりと日が暮れ、夜が更けたせいか、やって来た時よりも星空がまぶしく、ひとつひとつの星達が綺麗に映った。
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よもよも

2016-12-08 06:25:51 | Weblog
なんとも、

奥尻島に出張して帰ってきたんだけど、

帰りのフェリー最悪だったわ。

1日1便だからだと思うけど

2等船室寒い寒い・・・。

横になれないくらいでずっとあぐら座りしてた。

で、

横にいい年のトーサン来たんだけど、

なんか変に甘い匂いの柔軟剤の臭いプンプンさせててさ、

最初は良かったんだけど、

船が大きく揺れてめずらしく船酔い気味になっちゃったら、

感覚が敏感になったせいか鼻について具合悪かった・・・。

しばらく船は乗りたくねえ。。
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