ほどなくして、サトルは竪琴のような綺麗な声に起こされました。誰だろう、と重たいまぶたを上げてみると、金色の髪をした女の人が、川の中から自分を見下ろしているのでした。サトルはあわてて起き上がり、
「――な、なにか用ですか?」
と、顔を赤くして言いました。
「いえ、別に用って事じゃないんだけど、偶然あなた達の近くを通ったものだから、つい声をかけてみたくなったの……」と、女の人が、軽く笑いながら言いました。
サトルは、目の前の女の人が、どうして川の中にいるんだろう、と思い、ちらっとのぞいてみました。すると、水面の下に、大きな尻尾がありました。尻尾は、きらきらと光るうろこに覆われていました。女の人は、人魚でした。
「ねぇ、ぼく――」と、人魚の女の人が言いました。「あたしの家、ここからすぐなんだけど、ちょっと寄っていかない。おいしい物もいっぱいあるわよ」
「えっ」とサトルは驚いて言いました。「でも、ぼく達、早く向こう岸に行かなきゃならないんだ。それに水の中じゃ、息ができないよ……」
「ううん。あたしの家は水の上にあるの。だから、ちゃんと息はできるわ。心配しなくても大丈夫。さぁ、早くいらっしゃいよ」
人魚の女の人は言うと、すーと先へ先導するように泳ぎ、サトルを振り返って、おいでおいで、と手を振りました。
「あっ、ちょっと待って。友達にも聞かないと……」と、サトルは、鼻ちょうちんを膨らませて眠っているガッチを起こしました。そして、まだ眠そうなガッチに、人魚のことを話しました。ガッチは、サトルの話を聞くうちに、だんだんと真剣な顔つきになり、小さな声で言いました。
「おい。また化け物じゃないだろうな。なんか、怪しいぜ。噂によりゃあ、人魚ってのはイタズラ好きなやつが多いっていうから、喜んで着いていくうち、ガオッ! てことにもなりかねぇぜ」
ガッチは、まるで人魚を化け物か怪物の類いのように思っているようでした。けれどもサトルは、優しそうな人魚が悪い人に見えず、自分に話しかけてきたのも、川の上を漂っている二人をかわいそうに思って、親切で話しかけてくれたのだと思っていました。
結局、ガッチとサトルは揉めに揉めましたが、人魚がとにかくごちそうしてくれるというので、ガッチもしぶしぶ人魚の家に行くのを承知しました。
人魚の後について、サトルは板切れのオールで丸太舟を漕いでいきました。ガッチは、まだなにかつまらないことでもあるのか、サトルの前で腕組みをしながらあぐらをかいて、ブツブツと不機嫌そうに言っていました。と、ガッチが急に、背中越しに手招きしながら言いました。
「おい、見ろ。あれ、ほら、そこ。人魚の体の辺りで、なにか光ったろ。あっ、頭の所でも光った。なんだありゃ……」
「うそだよ。なにも見えないよ」と、サトルがガッチが指差す方を見ながら言いました。
「うそじゃねぇよ。確かに光ったんだ。お日様の光にぴかっと細く光ったんだ……」と、ガッチは言うと、なにやらまたブツブツと独り言を言いながら、腕を組み直しました。
「あっ、なにか見えるよ」と、サトルが、手で日差しを遮りながら言いました。「――建物だ。へぇー、小っちゃな島みたいだ。自分で作ったのかな」
「――な、なにか用ですか?」
と、顔を赤くして言いました。
「いえ、別に用って事じゃないんだけど、偶然あなた達の近くを通ったものだから、つい声をかけてみたくなったの……」と、女の人が、軽く笑いながら言いました。
サトルは、目の前の女の人が、どうして川の中にいるんだろう、と思い、ちらっとのぞいてみました。すると、水面の下に、大きな尻尾がありました。尻尾は、きらきらと光るうろこに覆われていました。女の人は、人魚でした。
「ねぇ、ぼく――」と、人魚の女の人が言いました。「あたしの家、ここからすぐなんだけど、ちょっと寄っていかない。おいしい物もいっぱいあるわよ」
「えっ」とサトルは驚いて言いました。「でも、ぼく達、早く向こう岸に行かなきゃならないんだ。それに水の中じゃ、息ができないよ……」
「ううん。あたしの家は水の上にあるの。だから、ちゃんと息はできるわ。心配しなくても大丈夫。さぁ、早くいらっしゃいよ」
人魚の女の人は言うと、すーと先へ先導するように泳ぎ、サトルを振り返って、おいでおいで、と手を振りました。
「あっ、ちょっと待って。友達にも聞かないと……」と、サトルは、鼻ちょうちんを膨らませて眠っているガッチを起こしました。そして、まだ眠そうなガッチに、人魚のことを話しました。ガッチは、サトルの話を聞くうちに、だんだんと真剣な顔つきになり、小さな声で言いました。
「おい。また化け物じゃないだろうな。なんか、怪しいぜ。噂によりゃあ、人魚ってのはイタズラ好きなやつが多いっていうから、喜んで着いていくうち、ガオッ! てことにもなりかねぇぜ」
ガッチは、まるで人魚を化け物か怪物の類いのように思っているようでした。けれどもサトルは、優しそうな人魚が悪い人に見えず、自分に話しかけてきたのも、川の上を漂っている二人をかわいそうに思って、親切で話しかけてくれたのだと思っていました。
結局、ガッチとサトルは揉めに揉めましたが、人魚がとにかくごちそうしてくれるというので、ガッチもしぶしぶ人魚の家に行くのを承知しました。
人魚の後について、サトルは板切れのオールで丸太舟を漕いでいきました。ガッチは、まだなにかつまらないことでもあるのか、サトルの前で腕組みをしながらあぐらをかいて、ブツブツと不機嫌そうに言っていました。と、ガッチが急に、背中越しに手招きしながら言いました。
「おい、見ろ。あれ、ほら、そこ。人魚の体の辺りで、なにか光ったろ。あっ、頭の所でも光った。なんだありゃ……」
「うそだよ。なにも見えないよ」と、サトルがガッチが指差す方を見ながら言いました。
「うそじゃねぇよ。確かに光ったんだ。お日様の光にぴかっと細く光ったんだ……」と、ガッチは言うと、なにやらまたブツブツと独り言を言いながら、腕を組み直しました。
「あっ、なにか見えるよ」と、サトルが、手で日差しを遮りながら言いました。「――建物だ。へぇー、小っちゃな島みたいだ。自分で作ったのかな」