――ザザ、ドドッン、ババーン……
サトルが川岸にたどり着くと、サトルの後を追うようにして、すぐに青騎士が姿を現しました。身につけた青い鎧は、川の水で真っ赤に塗りつぶされ、青白かったその顔は、血気せまる形相をしていました。そしてなぜか、青騎士の全身から白煙が立ち上り、酸っぱい匂いが、辺り一面に漂っていました。
「フッフッフッ……ザドル!」と、青騎士は震える声で叫びながら、とうとうと流れる赤の川を、のしのしと、一歩一歩踏みしめるように、サトルに近づいてきました。
「――チッ」
と、サトルは舌打ちをしました。もはや、川岸から這い上がる力もないほど、疲れ果てていました。それでも迫り来る青騎士を、キッとした目で見据えていました。
(ぼくは、ぼくだ……ぼくは青騎士なんかじゃない……こんなやつに、ぼくを取られてたまるか……あれは、本物のぼくじゃない!)
「サトルは、ぼくダーッ!」
と、サトルが叫ぶと、青騎士は放心したようにピタッと立ち止まりました。すると、みるみるうちに、青騎士の頭からドボドボと、黒い液体が流れ出し、赤の川に溶けて流れ出しました。
黒い液体は、青騎士の鼻といわず耳といわず、目といわず口といわず、ありとあらゆる所から流れ出し、しまいには青騎士の体全体が、真っ黒の液体に変わって、ドボンッと赤の川に横倒しになりました。青騎士は、川を流れていくひと筋の黒い帯になってしまいました。
サトルは、なぜか自分が勝ったとは、思えませんでした。青騎士は、赤の川に溶けてしまったかもしれません。けれど、サトルの心の中では、まだ青騎士が叫ぶ「サトルー!」という声が、どこかで聞こえてくるように感じていたのです……。
ヒヒヒーン――……。
と、馬の甲高い嘶きが、サトルのすぐそばで聞こえました。青騎士がまた川から現れるのではないか、と心配していたサトルは、やっぱりまた出たか、と振り返りました。
しかし、そこには青騎士が乗っていた馬ではなく、なぜか真っ白くたくましい馬に変身した馬が、立っていました。白い馬は、サトルがびっくりして見ていると、
「さあ、早く上がってこい!」
と、言わんばかりに何度も足踏みし、サトルが岸から這い上がれないのだとわかると、ボロボロになってしまったサトルの服を噛み、ズルズルと引っ張り上げました。
「あ、ありがとう……」と、サトルはちょっと困ったように言いました。
白い馬は、上下に首を振り、サトルの目の前で飛び上がったり、グルグル回ったりして、なにやらサトルに話しかけているようでした。
「えっ……もしかして、ぼくに乗れって言ってるの――」と、サトルがおずおずと聞くと、白い馬はヒヒーン、とひとつ嘶きました。
「うん」
サトルは、白い馬に手伝ってもらいながら、やっとの事で馬に跨がると、白い馬は待ってましたとばかり、赤の川を飛び越え、いっさんに砂を蹴立てながら、真っ直ぐに死の砂漠を駆けていきました。
「うわーっ、早いや」と、サトルは言いました。そのくらい、馬の背は気持ちがよかったのでした。頭上に輝くお日様が、いくら激しく照りつけても、馬の背に揺られている間は、苦しい熱気も、馬が作った風に吹き飛ばされてしまいそうでした。
馬は、生きているものの力をすべて吸い取ってしまいそうな死の砂漠を、だんだんと加速をつけて走りました。その疲れを知らない走りが、やがて頂点を迎えると、白い馬はフワッ、と宙に浮かび上がりました。
サトルが気づかないうちに、馬の額には螺旋を描いた鋭い一本角が生え、たくましい胸の辺りには、大鷲のような翼が伸びていました。サトルは、突然のことにギョッとしましたが、空を駆ける天馬にしっかりつかまると、大空高く舞い上がっていきました。
サトルが川岸にたどり着くと、サトルの後を追うようにして、すぐに青騎士が姿を現しました。身につけた青い鎧は、川の水で真っ赤に塗りつぶされ、青白かったその顔は、血気せまる形相をしていました。そしてなぜか、青騎士の全身から白煙が立ち上り、酸っぱい匂いが、辺り一面に漂っていました。
「フッフッフッ……ザドル!」と、青騎士は震える声で叫びながら、とうとうと流れる赤の川を、のしのしと、一歩一歩踏みしめるように、サトルに近づいてきました。
「――チッ」
と、サトルは舌打ちをしました。もはや、川岸から這い上がる力もないほど、疲れ果てていました。それでも迫り来る青騎士を、キッとした目で見据えていました。
(ぼくは、ぼくだ……ぼくは青騎士なんかじゃない……こんなやつに、ぼくを取られてたまるか……あれは、本物のぼくじゃない!)
「サトルは、ぼくダーッ!」
と、サトルが叫ぶと、青騎士は放心したようにピタッと立ち止まりました。すると、みるみるうちに、青騎士の頭からドボドボと、黒い液体が流れ出し、赤の川に溶けて流れ出しました。
黒い液体は、青騎士の鼻といわず耳といわず、目といわず口といわず、ありとあらゆる所から流れ出し、しまいには青騎士の体全体が、真っ黒の液体に変わって、ドボンッと赤の川に横倒しになりました。青騎士は、川を流れていくひと筋の黒い帯になってしまいました。
サトルは、なぜか自分が勝ったとは、思えませんでした。青騎士は、赤の川に溶けてしまったかもしれません。けれど、サトルの心の中では、まだ青騎士が叫ぶ「サトルー!」という声が、どこかで聞こえてくるように感じていたのです……。
ヒヒヒーン――……。
と、馬の甲高い嘶きが、サトルのすぐそばで聞こえました。青騎士がまた川から現れるのではないか、と心配していたサトルは、やっぱりまた出たか、と振り返りました。
しかし、そこには青騎士が乗っていた馬ではなく、なぜか真っ白くたくましい馬に変身した馬が、立っていました。白い馬は、サトルがびっくりして見ていると、
「さあ、早く上がってこい!」
と、言わんばかりに何度も足踏みし、サトルが岸から這い上がれないのだとわかると、ボロボロになってしまったサトルの服を噛み、ズルズルと引っ張り上げました。
「あ、ありがとう……」と、サトルはちょっと困ったように言いました。
白い馬は、上下に首を振り、サトルの目の前で飛び上がったり、グルグル回ったりして、なにやらサトルに話しかけているようでした。
「えっ……もしかして、ぼくに乗れって言ってるの――」と、サトルがおずおずと聞くと、白い馬はヒヒーン、とひとつ嘶きました。
「うん」
サトルは、白い馬に手伝ってもらいながら、やっとの事で馬に跨がると、白い馬は待ってましたとばかり、赤の川を飛び越え、いっさんに砂を蹴立てながら、真っ直ぐに死の砂漠を駆けていきました。
「うわーっ、早いや」と、サトルは言いました。そのくらい、馬の背は気持ちがよかったのでした。頭上に輝くお日様が、いくら激しく照りつけても、馬の背に揺られている間は、苦しい熱気も、馬が作った風に吹き飛ばされてしまいそうでした。
馬は、生きているものの力をすべて吸い取ってしまいそうな死の砂漠を、だんだんと加速をつけて走りました。その疲れを知らない走りが、やがて頂点を迎えると、白い馬はフワッ、と宙に浮かび上がりました。
サトルが気づかないうちに、馬の額には螺旋を描いた鋭い一本角が生え、たくましい胸の辺りには、大鷲のような翼が伸びていました。サトルは、突然のことにギョッとしましたが、空を駆ける天馬にしっかりつかまると、大空高く舞い上がっていきました。