「ヒッヒッヒッ……どうだ、驚いたか――」と、もう一人のサトルは、憎々しげに笑いました。「おまえがサトルであったのは、ここまでだ。ここからは、おれがサトルになる……本物のな」
青騎士は言うと、胸に乗ったサトルをはね除け、ゲンコツで殴りかかってきました。サトルは、倒されたまま転がり、すんでの所で、青騎士のゲンコツを避けました。
「いや、おまえになんかぼくはやらない……。ぼくは、ぼくだけだ――」
サトルは素早く立ち上がると、両手にゲンコツを握って、思いきり飛びかかっていきました。青騎士とサトルは、激しくぶつかり、離れてはまたぶつかり、鎧がガシャガシャと音を立て、サトルの骨がギシギシと鳴り、互いに自分自身を傷つけ合いました。
青騎士にぶつかり、ぶつかられる度に、なにか自分の中でうやむやになったものが、少しずつ消えていくような気がしていました。
サトルは、青騎士であるもう一人の自分とぶつかり合いながら、なにか自分の中のもやもやが消えていくような、奇妙な感覚を味わっていました。もちろん、それには苦痛もともないました。叩かれたまぶたは腫れあがり、ほとんど前は見えませんでした。手の皮も剥け、唇からは鉄の味がする血が流れていました。
もう一人の自分のくせに、青騎士は想像以上に強く、サトルは膝ががくがくして、立っていられないほどでした。なのにそれとは逆に、サトルの心はますます晴れ上がり、血を流しながらも、笑顔が湧いてくるほどでした。
「――終わりだな」
青騎士が、固い鎧をはめたゲンコツで、サトルを叩きました。サトルはたまらずよろけると、間髪を入れずに、青騎士がサトルの喉に組みついてきました。
サトルは苦しさに耐えながら、なんとか腕をはずそうと、青騎士の腕の中で激しく暴れました。
「フッハッハッハッ……。早く消えろ、おれの幻。――ハッハッハッ……」と、青騎士が、喉の奥まで見えるほど、大口を開けて笑いました。
勝利を確信した青騎士でしたが、あきらめずに激しく暴れたサトルが、思わず足を踏み外すと、二人共々、赤の川にもんどり打って倒れてしまいました。
ドシャー……。
と、赤の川がしぶきを上げ、あっという間に二人は流されていきました。
赤の川は、ほんの一瞬流れを乱しただけで、すぐに元の静けさを取り戻しました。川の中に落ちた二人は、どちらも浮かび上がって来ませんでした。
と、川岸で手が伸び、必死に岸の砂を握りしめました。
「プハーッ……」
と、川の中から出てきたのは、サトルでした。
赤の川の底に沈んでいたため、すぐには水面に上がれず、砂に突っ伏したまま、苦しそうな息をついていました。
青騎士は言うと、胸に乗ったサトルをはね除け、ゲンコツで殴りかかってきました。サトルは、倒されたまま転がり、すんでの所で、青騎士のゲンコツを避けました。
「いや、おまえになんかぼくはやらない……。ぼくは、ぼくだけだ――」
サトルは素早く立ち上がると、両手にゲンコツを握って、思いきり飛びかかっていきました。青騎士とサトルは、激しくぶつかり、離れてはまたぶつかり、鎧がガシャガシャと音を立て、サトルの骨がギシギシと鳴り、互いに自分自身を傷つけ合いました。
青騎士にぶつかり、ぶつかられる度に、なにか自分の中でうやむやになったものが、少しずつ消えていくような気がしていました。
サトルは、青騎士であるもう一人の自分とぶつかり合いながら、なにか自分の中のもやもやが消えていくような、奇妙な感覚を味わっていました。もちろん、それには苦痛もともないました。叩かれたまぶたは腫れあがり、ほとんど前は見えませんでした。手の皮も剥け、唇からは鉄の味がする血が流れていました。
もう一人の自分のくせに、青騎士は想像以上に強く、サトルは膝ががくがくして、立っていられないほどでした。なのにそれとは逆に、サトルの心はますます晴れ上がり、血を流しながらも、笑顔が湧いてくるほどでした。
「――終わりだな」
青騎士が、固い鎧をはめたゲンコツで、サトルを叩きました。サトルはたまらずよろけると、間髪を入れずに、青騎士がサトルの喉に組みついてきました。
サトルは苦しさに耐えながら、なんとか腕をはずそうと、青騎士の腕の中で激しく暴れました。
「フッハッハッハッ……。早く消えろ、おれの幻。――ハッハッハッ……」と、青騎士が、喉の奥まで見えるほど、大口を開けて笑いました。
勝利を確信した青騎士でしたが、あきらめずに激しく暴れたサトルが、思わず足を踏み外すと、二人共々、赤の川にもんどり打って倒れてしまいました。
ドシャー……。
と、赤の川がしぶきを上げ、あっという間に二人は流されていきました。
赤の川は、ほんの一瞬流れを乱しただけで、すぐに元の静けさを取り戻しました。川の中に落ちた二人は、どちらも浮かび上がって来ませんでした。
と、川岸で手が伸び、必死に岸の砂を握りしめました。
「プハーッ……」
と、川の中から出てきたのは、サトルでした。
赤の川の底に沈んでいたため、すぐには水面に上がれず、砂に突っ伏したまま、苦しそうな息をついていました。