「――私も、確かに姿を見たケイコちゃんが、どこに行ってしまったのか、考えてばかりでした」と、アマガエルが言った。「でも、母親の供述を聞いて、がっかりしたのと、しかし反対に、恐ろしさも感じたんです」
「だよな。やっぱり」と、ニンジンは、アマガエルを見ながら言った。「子供達が姿を消したのは、まだあいつらが追いかけてるからだよな、二人を――」
「でしょうね」と、アマガエルは言った。「母親を放火の犯人に仕立てて、子供達が行方不明になれば、ぐっと動きやすいですし、なにより彼らがいうところの“悪魔送り”という名の暗殺も、やりやすくなる」
「――どこまでも行方不明になってりゃ、ムクロが出てくるまで、事件にはならないからな」と、ニンジンは言った。
「入院してる間、あいつらに動きはあったのかい」と、ニンジンは言った。
「――」と、アマガエルは首を振った。「気味が悪いほど、なにもありませんでした。布教活動をしていた外国人の姿も、ピタリと消えてしまいました」
「ん? それは、終わったって、感じなのか」と、ニンジンが言うと、アマガエルは「いいえ」と言って、首を振った。
「教団の建物はそのままですし、調べたところ、“審問官”っていう偉い人が、ヨーロッパから、わざわざこっちにやって来ているそうです」
「――これは推測だぞ」と、ニンジンは言った。「おまえは魔人に会ってないから、ピンとこないかもしれないけど、あの感じから考えれば、子供達はまだ無事でいるはずだ。そして教団は、子供達の行方を追いつつも、逆襲に備えている」
「悪魔って、人類に牙を剥くんじゃなかったでしたっけ」と、アマガエルは言った。「話を聞いてると、悪魔と教団の戦い、みたいに思えてきますね」
「“悪魔”って言ってるのは、教団だろ。あれは、“魔人”だったよ」――神様って書く“魔神”じゃなくって、人間って書いて、“魔人”な。と、ニンジンが宙に字を書きながら言うと、アマガエルはうなずいた。
「悪いヤツには思えなかった」と、ニンジンは言った。「――いや、だからって、いいヤツだってことじゃないぜ。ただ少なくとも、今のところは、人類全体を地獄に落とすなんて、そんな血なまぐさい事をやるような、悪いヤツじゃなかった」
「どこにいるんでしょうね」と、アマガエルは言った。「――すみません。おかわりお願いします」
「ハーイ」
と、返事をした女性の店員が、アマガエルの空になったジョッキを、厨房に下げて行った。
「車の調子はどうだい」と、ニンジンが、店の隅にあるテレビのCMを見て、思いついたように言った。
「クラシックカーですからね」と、アマガエルは言った。「歴史も点数に入れれば、多少の乗り心地は気にならないくらい、調子がいいですよ」
と、アマガエルは、厨房から伸びてきた手から、なみなみとビールが注がれたジョッキを受け取った。