【熱帯植物館】父に反抗し医学部を中退し、熱帯植物を繁茂させた裏庭の《ネペンテスの領域》に閉じこもり、思索と奇妙な実験に耽り出した不思議なスフィンクス兄貴。謎めいた兄貴が次々繰り出す難題と、襲いかかる災いの連鎖の中、生と死の両界に別れゆく恋人、月代が蓮池で自死の際仕掛けた複雑な時空間の暗号を解読して行くと、冥界と、兄貴自身患った神経の難病を寛解させる複雑な鍵が瞬間解かれ、神秘とまごう抱擁が、蓮池に射す光の中、実現する。
2019年5月31日(金)母校の医学部同窓会での講演要旨。
偶然の運命に翻弄されるままに生きて
ー騒乱の時代から不安の世の中を生きた一同窓生の絵と小説の世界ー
小山右人
もし、大学紛争に紛れ、別の選択をした場合、人生はどうなっていただろう? 学園紛争で最高学府の入試中止に臨み、全てへの不信と、一方では大きな夢を抱きつつ東京での一人暮らしに投げ出された。結果、医学と同時に、思いもよらなかった絵を描くことにのめり込み始めた。それが縁で、昭和の代表的作家と因縁深い方々と巡り会い、自らも新人賞を受賞し、フランスから小説を出版するようになるとは、また夢にすら思い描いたこともない人生航路だった。しかし振り返ると、偶然の連鎖は、意外にも整然と並んでいる。幼少から雪国で育ち、存分の自然に恵まれていた。父は町医者で、住居と病室は境がなく、誕生と死、病と癒しが渾然一体となっていた。母は、東京芸大出身の音楽家で、幼時から芸術教育に大変厳しかった。東京の無限な世界に多感な若者が投げ出された時、その胸に沸騰したエネルギーは、すでに運命の連鎖への飽くなき挑戦に向かい、破裂していたのかもしれない。
偶然の運命に翻弄されるままに生きて
ー騒乱の時代から不安の世の中を生きた一同窓生の絵と小説の世界ー
小山右人
もし、大学紛争に紛れ、別の選択をした場合、人生はどうなっていただろう? 学園紛争で最高学府の入試中止に臨み、全てへの不信と、一方では大きな夢を抱きつつ東京での一人暮らしに投げ出された。結果、医学と同時に、思いもよらなかった絵を描くことにのめり込み始めた。それが縁で、昭和の代表的作家と因縁深い方々と巡り会い、自らも新人賞を受賞し、フランスから小説を出版するようになるとは、また夢にすら思い描いたこともない人生航路だった。しかし振り返ると、偶然の連鎖は、意外にも整然と並んでいる。幼少から雪国で育ち、存分の自然に恵まれていた。父は町医者で、住居と病室は境がなく、誕生と死、病と癒しが渾然一体となっていた。母は、東京芸大出身の音楽家で、幼時から芸術教育に大変厳しかった。東京の無限な世界に多感な若者が投げ出された時、その胸に沸騰したエネルギーは、すでに運命の連鎖への飽くなき挑戦に向かい、破裂していたのかもしれない。