雲上楼閣 砂造宮殿

気ままに自分勝手なブログ。徒然に書いたり、暇潰してみたり、創作してみたり・・・

暇潰し090823_3

2011-01-21 20:47:08 | 夏空(完)
ガンダムの背中からの記念写真をカメラに収めて、埃の砂利道を二人は歩き出した。
「ほら、早く早く」
哲は手招きしてアヤを呼んだ。
好きなもの相手だと、まるで子どものような哲。
可愛い、なんて見てたはずが、今では頼りなく見える。
なんで、気付いてくれないんだろう。
アヤはついに、その言葉を口にする事は一度も無かった。
会場は人で混雑していた。
子供から大人まで、カップルに家族連れ、友人同士。
男女問わず、実物大ガンダムを下から眺める列に並んでいた。
他にも模擬店や便乗出店で賑わい、まるでお祭りだった。
「アヤ、間近で見るとすごいな!!」
哲は興奮している。目をキラキラさせて、ガンダムに見とれている。
「哲、本当にガンダムが好きだね」
アヤは呆れながらそうつぶやいた。
「あぁ!ガンダムは俺にとって理想だから」
アヤには何が理想なのか分からなかった。また、最早、分かろうとは思わなかった。
「アヤ、並ぼう」
哲に手招きされて、アヤは重い足をノロノロと動かした。
ガンダムを直に見上げる列は長い。蛇のように曲がり、この炎天下にも関わらず、我先にと人びとの間隔は狭かった。
太陽の光を跳ね返す巨大なガンダムは何も映さぬ目で群衆を眺めている。

暇潰し090823_2

2009-08-23 18:49:40 | 夏空(完)
東京テレポート駅着、10時45分。ホームには溢れんばかりの人がいた。
「凄い人だね」
アヤははぐれないように哲の腕にしがみつきながらそう言った。
「夏休みも残りわずかだからなぁ」
そう言いながら哲は迷わず、エレベーターの右列に並んだ。
アヤの腕をほどいて、軽くステップを踏み、上へ上へと行ってしまう。
遠くなる哲の背中を見ながら、追うのはそろそろ無理かも知れないと、アヤは思った。


改札を出て、人の流れに沿って歩いていく。
交差点を渡って、工事現場らしい白い塀の影をわざと歩いた。
久しぶりのデートだからと頑張った、真っ白なマキシ丈のワンピ-スの裾が足に絡み付く。8月の太陽は容赦無くアヤの肩を焼いた。
何より、アスファルトの照り返しのせいで、サンダルの素足が痛かった。
けれど、哲はずっとガンダムがいかに大きいか、凄いかを話している。
興奮した子どものように、大きな身振り手振りで、休み無く話し続ける。
アヤは哲の話に曖昧に頷くのが精一杯で、人の群れとなって歩いて行くことにしか、注意がいかなかった。
だから、哲がいつもより喋ることに気付いていなかった。
ガンダムは海岸沿いの公園の中の広場にあった。かなりの大きさなのに会場近くまで来ないと見えないのは、木々の中にあるからなのか、アヤに興味が無いからなのかは分からなかった。
公園の突き当たり、海はすぐそこと言う場所で、沢山の人たちがカメラを構えていた。
「後ろだけど、記念に撮ろうアヤ、笑って!」
そう言われ、アヤは笑った。
「可愛く撮ってね」
とか言って笑った。

暇潰し090823_1

2009-08-23 17:21:19 | 夏空(完)
1ヶ月振りのデートなのに、アヤの心は沈んでいた。
「お台場にガンダムを見に行こう」
そう言われ、いつもなら喜んで哲の趣味に付き合うけれど、今回は違った。
付き合って3年。
そろそろ30に手が届きそうな年だ。
結婚の話が出てもおかしくない。第一、会わないこの1ヶ月に色々あった。
メールや電話で話せないことがあったのだ。
だが、楽しそうにガンダムの話をする哲を見ていたら、なんだか、気が引けた。
だから、現実を話すことに気が引けた。
だから、アヤはさっきから流れる窓の外ばかりを眺めていた。