雲上楼閣 砂造宮殿

気ままに自分勝手なブログ。徒然に書いたり、暇潰してみたり、創作してみたり・・・

ヒメタルオモイあとがき

2011-11-29 01:04:20 | 宮 ヒメタルオモイ
かなり暴挙で乱暴で、時間のかかったものになりました。



一応、自白しますが、あらすじ載せて申し訳ありません。

最初からラストは決まっていましたが、皇太后がどう動くかが読めずにズルズルしてました。

創でなく、降で書いているので、いつも判断に迷います。

パク皇太后、彼女は彼女なりに幸せだったと思います。
孫子に囲まれた幸せな晩年を送るでしょう。

心残りはパク皇太后。
名字を安易に着けたから…


では、またお会いする日まで。

ヒメタルオモイ8

2011-11-29 00:48:08 | 宮 ヒメタルオモイ
パクはゆっくりとシンの横顔を眺めた。
その頬に一筋、清らかな物が流れた。
パクは慌ておさえようとしたが、叶わなかった。
シンはパクの肩に手を回すと、そっと抱き寄せたのだった。

別れの日は、突然だった。
寒さ厳しい日が続き、幾日振りかの穏やかな陽気の日だった。
シンは微睡みの中で微笑んでいた。
何かを見るように、目が動いた。そして、彼の頬にゆっくりと形作られた微かな笑みは、今まで、見たこともない本当に幸せそうなものに変化した。
その顔に、その場にいた誰もが胸を震わせた。
そして、何かつぶやくと、彼は天に召されて行った。

「ようございました」
皇太后はそうつぶやくと肩を小さく震わせたのだった。


それからすぐに、上皇であるシンの国葬がしめやかに行われた。
テレビ局各局が中継する異例の事態が、彼の人気の高さを物語っていた。
歴代の皇帝と皇后が眠る霊廟には、既にシンが眠る場所が用意されている事に皇帝たちは驚いた。さらには、母である皇后が眠るはずの場所には既に別の名が刻まれていた。
シン・チェギョン。
パク皇太后はもう一度「ようございました」と呟くと目を細めたのだった。

ヒメタルオモイ7

2011-11-29 00:47:35 | 宮 ヒメタルオモイ
春の嵐が吹き荒れる晩だった。突然の凶報に上殿は騒然となり、事実は翌日まで世間には伏せられた。
一時とはいえ、シンは死の淵をさ迷ったのだった。

それを見舞う皇太后の目には涙が光り、床に体を起こしたシンは弱々しく微笑んでいた。

夏の離宮で療養を始めると、皇太后は足繁く通った。
皇帝夫婦は、ジュンの婚儀をシンが元気なうちにと頑張った。
だが、そこは人のこと、話はようとして進まなかった。
また、シンも自分のために無理に進めることを良しとしなかった。

そうこうしている間に、一時は快方に向かったはずのシンの病状が悪化した。
多くを語らず、首を振るばかりの侍医に、皇帝は苛立った。
だが、皇太后でさえ「御心のままに」そう言うばかりだった。

薬の為か、シンが微睡む時間が増えていた。
夢現をさ迷う姿は、見る者の胸をつかえさせたが、シンは楽しそうだった。

皇太后はたまに、隠れて泣いていた。

季節は、冬を迎えようとしていた。
窓の外には晩秋の景色が広がっていた。
体を起こしたシンと、傍らに座るパクは並んで窓の外を眺めていた。
穏やかな時間だった。
不意に、シンが感謝と詫びの言葉を口にした。

ヒメタルオモイ6

2011-09-24 22:07:02 | 宮 ヒメタルオモイ
それから、上皇となったシンが上殿を訪れるのは2ヶ月に1度か2度、昌徳宮に泊まって行く日もあれば、帰る時の方が多かった。
添えば仲の良い上皇夫婦だった。

共にある姿はまさに「理想の夫婦」で、周囲の側近や子どもたちは、二人がまた添う事を願っていた。
そして、平穏に流れる時間は唐突に終わりを告げた。

まさに青天の霹靂、昌徳宮にいた皇太后が倒れたのだ。

決して病弱では無いが、もともと華奢で線の細い皇太后は、入院を余儀無くされた。

シンは足繁く彼女を見舞った。
周囲は再び彼らが住居を共にすると予想したが、それが叶えられることは無かった。
皇后が皇太后を見舞った時、上皇がこのまま昌徳宮に入ってくれるよう願う旨を伝えると、皇太后は微笑んで軽く首を横に振った。
皇后はその儚げな微笑に胸が痛かったという。

皇太后が無事に退院し、昌徳宮に戻ると、シンは3日だけ滞在し、離宮に戻った。

周囲は密かに落胆していたが、誰もその事に関しては触れなかった。


ジュンに結婚の話が出始めた頃、今度はシンが体調を崩して床に伏せた。

ヒメタルオモイ5

2011-09-06 17:47:39 | 宮 ヒメタルオモイ
末期癌と診断されたユルは、王立病院の特別室で過ごした後、下宮に居を移した。
半年の間にジュンが誕生日を迎え、ジェウの希望で家族写真を撮影した。

埋まった空席に、ジェウは満足そうだった。
撮影後、病床から何かを伝えるユルに、シンが首を横に振る姿を、尚宮が見ていた。

数日後、尚宮と内官に看取られて、ユルが息を引き取った。
シンは公務先で報せを受け取ると「そうか」とだけ呟いた。

年若いユルの死に、ミン皇太后も深い追悼の意を表した。

シンの皇帝即位40年を目前に、そのミン皇太后も天に召された。

ジュンが王立学校幼稚舎に入学した年、シンはジェウへの譲位を発表した。
国民は未だ健康なシンに残念がったが、シンの決意は固かった。

譲位と同時に閉鎖していた東宮殿を解放し、ジュンのために改築した。
それが、皇帝として最後の仕事だった。

譲位後、シンは一人、夏の離宮に移り住み、パク皇太后は昌徳宮で過ごすことになった。

彼女が共に離宮に来ない事を、シンは分かっていた。

ヒメタルオモイ4

2011-09-04 08:28:22 | 宮 ヒメタルオモイ
元皇太后の死は大きく報道され、宮家も家族の死として悼み、葬儀を行った。
ユルは約20年振りに帰国し、1か月の滞在で、また渡英した。


緩やかに、しっかりと時は流れて行く。

温陽で隠居生活を送っていたヒョンが亡くなったのは、雪融け間近だった。上皇崩御に国中が喪章に染まった。
シンは、どんなに慕われた皇帝であったのか、改めて知ることとなった。

一人になったミン皇太后が上宮離宮に移り住むと、ミンジの懐妊が分かった。
孫息子夫婦の子どもにミン皇太后は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「太皇太后様のお気持ちが分かりました」
嬉しそうにそう言う母の顔に、シンは目を細め、微かな笑みを浮かべた。
皇孫の誕生に宮家はもとより、国民も喜びにわいた。
生まれたのが男の子だと分かると、さらに盛り上がった。
ジュンと名付けられ、皇太孫に柵封されても、ジェウ同様に親元で育てられることが決まった。

皇帝即位30年の春、ヘミョンたちも呼んで、記念撮影をした。
未だシンの手元にはアルフレッドたちがいた。

その直後、香港に移り住んでいたユルが緊急帰国した。
「最期の時を家族と過ごしたい」。
それがユルの願いだった。

ヒメタルオモイ3

2011-09-02 21:18:07 | 宮 ヒメタルオモイ
太皇太后はいまわの際に皇帝を呼ばれ、何事かを囁かれると、笑顔で天に召された。
シンは思わず「おばあ様…」と呟いていた。
遺影は、孫や曾孫に囲まれて撮影された笑顔の写真だった。
撮影される時に一つ、座る人のない椅子が用意されていた。


それから10余年。
ジェウが高校に進学し、シン同様に皇太子妃を迎える事が議題にのぼり出した。

ジェウに許嫁はいない。
ジェウに事実を話すと、まだ結婚は考えられないと言う。
当然と言えば当然の反応に、王族の顔をたてるため、ジェウの半公式誕生会を開いたのだった。

ジェウが大学2年の秋、皇帝夫婦はリュ・ミンジと言う女性を紹介された。
ジェウより1歳年上で、父は教師、母は会社員という一般家庭の娘に、皇后は当初、余り良い顔はできなかった。
だが、彼女の遠戚にリュ財閥と王族の名を見付けると、態度は軟化した。
そして、大学卒業の冬、ジェウはミンジと、婚礼の儀を行った。

翌年、ギュリが降嫁すると、異例ながらミンスが大君に柵封された。
そして、夏のある日、イギリスからソ・ファヨンの訃報が届いた。

ヒメタルオモイ2

2011-09-01 01:19:20 | 宮 ヒメタルオモイ
時間はゆっくりと、だが確実に流れて行く。
シンは再び皇太子に柵封され、ヘミョン女王の結婚の日取りが発表されると同時に、シンへの譲位が公表された。
報道は賛否両論を巻き起こしたが、年若い皇太子夫婦に期待する声に後押しされる形で、譲位は加速度的な早さで行われた。

そしてヘミョンは、外から宮家を支えると、ボランティア時代に知り合った男性へと嫁いだのだった。

それから2年、皇帝夫婦の初めての子ども、ギュリに世間はわいた。
更に3年後、男子ジェウの誕生に、国民はお祭り騒ぎだった。太皇太后がその小さな手で小さな子を抱いた幸せの笑みを、シンは撮影した。

ジェウは生まれて間もなく、皇太子に柵封された。
だが、手元で我が子を育てる決意をした夫婦に、国民は新たな宮を見い出した。

ギュリが王立学校幼稚舎に入学した年、ヘミョンが二卵性双生児を生んだ。ミンスとユンナと名付けられた。


明くる年、初春「もう一人孫を抱かねば」と言いながら、太皇太后が崩御した。

ヒメタルオモイ1

2011-08-23 23:34:32 | 宮 ヒメタルオモイ
それは、余りにも呆気ない現実だった。
チェギョンが、マカオで帰らぬ人となったのだった。
その一方は直ぐ様、宮に伝えられた。
シンは耳にした刹那、呆然とすると、執務室を飛び出し、追いかけたコン内官の叫び声に対応した数多のイギサや内人によって取り押さえられたのだった。

それから数日後、無言の帰宅をしたチェギョンはシン皇太弟の妃として柵封された後、国葬が執り行われたのだった。
その日は雨だった。
その黒衣をゆっくりと、だが確実に濡らす銀糸の雨が誰の上にも降り注いだ。
シンはその中、傘も差さずに立ち尽くしていた。
彼の頬に伝うのが雨なのか、涙なのか、誰にも分からなかった。

時は過ぎ行く。
思いがけない早さで流れ、ヘミョン女王の婚約と同時にシンの婚約も発表された。
人々は思い出した。庶民から嫁ぎ、亡くなった年若く明朗な妃のことを。
だが、今度の妃は、彼女とは似てもにつかぬ女性だった。
控え目に口元に湛えた微笑、細い首に華奢な手足、儚げなイメージ。何より、彼女は王族の娘であった。

数ヵ月後、前回より規模は小さいものの、厳かに婚礼の儀が執り行われた。