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ゴロゴロとどこか遠くで雷の音がした。暗く垂れ込めた空から雨粒の落ちてくる気配はしない。
シンは東宮殿のバルコニーから空を見上げると、まるで己の心のようだと思った。
今日、ヘミョンに、チェギョンの帰国はしばらく難しいだろうと聞かされた。 度重なるスキャンダルを沈静化させるための妃宮の国外行き、そして無罪が証明されたものの、皇太子への疑惑に、大君の罪の告白。
権威が失墜したその理由を、民間から迎えた妃宮に求める王族会に、シンは心底馬鹿らしいて思った。
(たった一つ、小石を投じただけで揺らぐようならば、所詮それだけだったと言うことだろう)
長い歴史のある皇族にとって、己たちなど、もしかしたら砂粒でしかないかもしれないと思う。
「…フゥ」
軽く吐息が漏れた時、シンの目端に一閃の光が映った。
「空雷、か…」
珍しい物だと思った。
シンはベンチから立ち上がると、部屋からデジタルカメラを持ち出した。
2度目の稲光を見てから3度目の稲光までのタイミングを計る。
今度はシャッターを切るために、光の見えた方角の空にレンズを向けた。
ファインダー越しに見る空は、何だか明るかった。
今と思うより先に、シンは連写でシャッターを切っていた。
その日、シンからチェギョンに送られたメールには、雨が降らずに雷が鳴っていた事を伝える内容が記されていた。添付された写真には、東宮殿で撮ったと分かる横に走る稲妻が写っていた。
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