妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

『てるてる家族』22週その2.鐘の音降り注ぐ教会で

2016-09-10 10:01:33 | 朝ドラの感想
BSプレミアム・朝ドラアンコールにて再放送中、2003年BK制作、石原さとみヒロインの『てるてる家族』
22週目のネタバレ感想レビュー、後半。



和ちゃん、神回。


前半はこちら。
『てるてる家族』22週その1.佐世保、はじまりの地へ




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●黒島にて再会


黒島に到着し、旅館あさづきにたどり着いた冬子と春男。
ちょうど外にいた女将さんに和ちゃんの居場所を尋ねます。


「うちら何も知らんとですよ」

事情は何も知らない。
和ちゃんを隠しているわけじゃない、裏にいる、と。



そこに和ちゃんと子どもたちがいました。
無事の再会を喜ぶ冬子。



春男が和ちゃんに「大事な話がある」と切り出した時、冬子が子どもたちをその場から離れさせます。

「話がある」とはいったものの、まずは近況を聞く春男。

「自然が豊かでええとこやな」
「ええ人に会うてよかったな」


どんな人が泊まりに来るんだ?と世間話。
こんなに自然豊かなところが開発されるのは残念だけど、住んでいる人にとっては死活問題。


「人間の生活いうもんは自然に逆ろうたもんなんかもわからへんなあ」

なんてことのない雑談の中に春男の優しさが溢れている。


この何気ない「ええことやな」って言葉。

6週、桑原パパのお葬式のあと、空き地で和ちゃんが四国に行くって話したとき。
冬子が「ええとこやね」って、黒島で春男が和ちゃんにかけた言葉そのまんまのこと言っるんですね。



●そんなん泥棒と一緒や!


春男は本題を切り出しました。


「あのお金はな…なんていうか…あの子らの親父さん見捨てた会社から…いわゆる黙って持ってきたもんやて」

黙って持ってきたお金、つまりそれは盗んだお金。
春男はオブラートに包むのですが、『盗んだお金』に嫌悪感を示す和ちゃん。


無理もありません。
少年時代の和ちゃん、冬子が政也に頼まれてくすねてきた朝食のパンを「そんなん泥棒と一緒や!」と魚のエサにしていました。


4週

あくまでも春男は政也をかばおうとします。
子どもたちを助けようとしたからだ、と。

「その気持ちだけは判ってやってもええんやないか」
「政也もぎりぎりんとこでやったことや…」


春男、政也には前日に激怒したばかり。
それでも守りたいのは兄弟の絆だとわかっているんでしょう。

それでも和ちゃん。

「昔賢作兄ちゃんが俺らのためにやったこととおんなじや」

和ちゃんだけじゃない。
政也だけじゃない。
亡き賢作兄ちゃんも、親の愛を知らなかったのかもしれない。

繰り返される悲しい歴史。


しかし今は警察に行くしかない。
追手が佐世保にくるかもわからない。
政也のことを思っているのは判るけれど、警察に助けを求めよう、と説得するも。


「わかりました。大将は冬ちゃんと大阪戻ってください」

薪の燃える音、埃っぽい冬の空気。
頑なな和ちゃんの心。




●方言問題


ところで、冬子は子どもたちを連れて海にいっていました。
海岸では宿のご主人(ポール牧)が釣りの真っ最中。

誰だと聞かれて「この子たちの友達」と答える冬子。
米原さんが「和人君の友達です」と答えたように。


「おじさんとも友達になりたいなあ」

ポールさん、石原さとみが友達になりたいってよ。


といいたいのですがこのご主人はなかなかの頑固者。

「なんばとごゆるっとか!」
「とごゆる?」
「『ふざけるとや』と言いよっとたい」
「別にふざけてません。釣り見てるだけたい。
あっこれタイ?」


冬子www何言ってんのwww


「やぐらしか!」
「やぐらしか?」
「『うるさか』って言いよっとたい!」

「もう大阪弁で話して!」


無理を言うなwwww

と思わず笑ってしまうやりとりでしたが。

「なんや、拓ちゃんも光ちゃんも、言葉の壁でおっちゃんと友達になられへんだけやったんか」

冬子のコミュ力はんぱねえ。
さすが春男と照子の娘よ。


(おそらく初めて)子どもたちの事情を聞くご主人。
親はいない、と答える冬子。

「あっ、そやからいうて、かわいそうに思わんといて。あの子ら強いねんから」
「かわいそうに思わんと友達になったげて。ねっ、ええでしょ?」


冬子は兄弟の力強さを見守ってきていました。
桑原兄弟のそれも、木塚兄弟のそれも。
信じてるんだろうな、人の力を。
好きなんだろうな、人を。




きっとその気持ちがご主人の心を溶かしたんだろうなあ。



●ほなね。また明日ね


結局みんなで釣りをして帰ってきました。



ご主人、女将さん、子どもたち。
打ち解ける一同。


「そしたら和人。明日いっぺん恒の店おいで。ええな?」
「これからの事はそん時や。ええな?」


今日のところは一旦黒島から帰る。
その代わり明日話そう、と。

「ほなね。また明日ね」

子どもの頃、言えなかったまた明日。
ローリーにしか言えなかったまた明日。
明日が来ることを信じて。




てるてる坊主を兄弟に渡す冬子。
お守りだ、と。



●愛されヒロイン


帰り道。
そういえばお店はどうなっているんだ、と気にする冬子。

工場長と喜介が守ってくれていました。


「みんなそないして冬子と和人のこと心配してんねん。力になってくれてんねんで」

冬子が職場でもある岩田製パンを気にするのがまた大人。
(見ていても本筋ばかり気になった忘れた)


さらに「冬ちゃんの店守らな」と言っていた工場長や、ヘルプに来た喜介さんが店番をしてくれているのもまたいいところ。
和ちゃんもみんなに愛されてるけど、冬子も同じくらいかそれ以上に愛されてる。



●照子襲来警報


また場面は変わり、お疲れ夏子の楽屋。
何やら超多忙の様子。

これが斉藤さんの手帖なのですが。



アップにしてみると。

 

元旦から八戸、岩手、千葉。
5日には新潟、6日はまた東京に戻って『MHK』『大日本テレビ』で収録。

……年明けから休みなしか!

月後半は和歌山、東京、夕張、弘前、仙台。
1日置いて東京。また呉、米子、山口。

1月30日にやっとオフとは。

『500万人のリクエスト』『的場政行の6千万人リクエスト』『キャバレー深作』が気になるあたりなのですが。
斉藤さんの台詞から、長崎の公開収録を翌日に控えた今日は1月8日。

ここから逆算すると、春男が夜行で大阪を発ったのが1月7日。
政也がシャトーに来たのも1月7日。
冬子が夜行で大阪を発ったのが1月6日。
春男が和ちゃんの勤め先に行ったのも1月6日。
和ちゃんが行方不明になったのが前年の12月24日。
3週間弱のスパンで流れてるんですね。

その長崎での公開収録は午後3時に終わる予定、ということで。


「せや夏子!久しぶりに佐世保に行ってみえへん?」

照子襲来警報、照子襲来警報。
照子の上陸に警戒ください。


しかしここで偶然ながら全国行脚をしている夏子と照子が佐世保へ。
そもそも和ちゃんのストーリーに2人はあまり入ってきていません。
冬子と和ちゃんか、春男と和ちゃんか、といったあたり。

さて、どうなることやら。



●もう大丈夫。


春男と冬子が一段落して、空天歌でハンバーガーを食べていた頃。
大阪の秋子から電話がかかってきました。



政也と米原さんが一緒に警察に行ったという。
政也は警察に全てを伝えた、と。
一両日中に警察関係者が佐世保に向かうだろう。
事情は分かってるから和人のことは安心するように、とのことでした。

「もう、大丈夫や…」

安堵する春男。
春男もまた糸が張り詰めていたのでしょう。



●逃亡、山狩り、銃撃戦、そして…


その翌日。


島に刑事たちがやってきた。


和ちゃん逃亡。


追いかける刑事たち


現場に残された血の付いたてるてる坊主にこめられた意味は…


山狩り…教会…

そしてはじまる銃撃戦…

※嘘です。




●黒島天主堂にて


道端に落ちていたてるてる坊主(血はついてません)を拾って冬子がおもむろに探し当てたのは教会でした。
黒島天主堂。


扉を開けると、和ちゃんと子どもたちがいました。

駆け寄る子どもたち。
振り向かない和ちゃんはじっと前を見据えて。


冬子は、政也が警察に出頭したことを伝えます。


「捕まったん?」

今にも消えそうなかぼそい声で和ちゃん。
和ちゃんも警察に行こうとは言うものの。


「こいつらはどうなる?」

和ちゃんは少しだけ『笑い』ながら、言い始めました。
誰のためにこんなことをしているのかわからない、と。


「人の為に悩んだり苦しんだり。そういうことほんまは苦手やねん。ほんまは…どうでもええ思てんねん」

だってそれは偽善だから。
誰かのための優しさなんて嘘だから。


政也から預かっていたお金の入った封筒を叩きつけて。
ゆっくりと立ち上がって。
祭壇の前に向かい、まるで赦しを請うように。


「悪い事してでも誰かのために何かする気持ち、俺にはよう分からへんねん…できひんねん」

この言葉、今週序盤に春男が政也に向けた言葉と呼応してるんですね
『あいつはどんなに困っても人に甘えたりせえへんね。…でけへんね!!』
甘えることが出来ないように、誰かのために何かをすることも出来ない。


賢作兄ちゃんが幼い自分たち兄弟を救うために、堅気ではない職に手を染めて大阪から逃げたこと。
政也が木塚兄弟の2人を救うために、会社から裏金を奪って逃走したこと。
内容は確かに『悪い事』ではありますが、2人ともギリギリのところまで追い込まれた末の誤った選択でした。
そして2人とも自分のためではなく誰かのための行動でした。




そういう兄たちを心の中では軽蔑していた。
アホだと思っていた。
いい迷惑だ。
ずっとそう思っていた。


和ちゃんの言葉を黙って聞いている冬子。
冬子の心中も穏やかではないでしょう。
冬子にとっても「兄のような存在」、和ちゃんは「大切な友達」。

「俺は…誰にも優しなれへん人間なんや」

冬子の方を振り返る和ちゃん。
春男も教会にたどりついて、2人のやり取りを聞いていました。

 
「俺が優しい見えるとしたらそれは生きてくためや。人から優しいしてもらうためや。自分の身守ってるだけや」

 
「自分さえよかったらええねん。死んだお父ちゃんや賢作兄ちゃんみたいにはなりたないって…」




●軌跡、桑原兄弟


4週

パン屋の少女。
パンの耳をもらいにきていた幼い少年。



路地裏の奥の奥、小さな穴の向こうの小さな家。
そこに暮らした足を悪くした父親と、3人の兄弟。



見た目は愚連隊だけれども、根は真面目な一番上の兄。
パン屋の少女のことも可愛がってくれた。



自動車工場そばの空き地で夢を語り合った。
懐かしい思い出。

5週

少年と少女が交流を深める中、周囲の大人たちが兄の身体を気遣ってくれた。
ひょんなことから、兄がパン屋で働くことになった。

6週

それは、とてもとても幸せな時間。

でも長くは続かなかった。
兄弟の父親が死んだ。



惨めな思いをさせたくない、と言った兄は賭博に手を出してしまった。
パン屋の面々はいつでも支えるつもりだったが、ある日チンピラたちが家にやってきてその真実を告げた。



追いかけたときにはもう遅かった。
少年は、伝書鳩に手紙を託して四国へ行ってしまった。

12週

それから何年も経って、成長した少年が大坂に帰ってきた。
別れた子どもの頃よりずっと大きくなって帰ってきた。



幼かった少年はどこか兄の雰囲気を纏っている。
しかしその一番上の兄は四国で死んだという。
兄は死の間際、「世の中捨てたもんじゃない」と礼が出来なかったことをずっと悔やんでいた。

それからまた時間が経ち。

21週

少年のもとに、2番目の兄がやってきた。
子ども2人を預かってほしい、とお金を渡していった。
子どもたちは怯えていたが、少年と少女が丁寧に温かく接して、やがて心を開いていった。

幸せなクリスマスが訪れるはずだった。




●佐世保、はじまりの地



桑原兄弟の話は、ノンフィクションが多い『てるてる家族』の中でもフィクションのパートです。
中でも和ちゃんは原作者・なかにし礼の人格を投影させた登場人物だとか。


なかにし礼の年譜(公式HP)を見てみると、北海道小樽市生まれの両親、満州生まれ。
1945年8月、ハルピンで終戦を迎えた年の暮れに、父親が死去。
翌46年10月、引き揚げ船で長崎県佐世保に到着。
なかにし氏、このとき8歳。
この引き揚げのとき何度も命の危険に遭遇したとのこと。

大阪・池田に代わる第二の舞台地、『はじまりの地』として佐世保が選ばれたのも理由がありました。

小樽に身を寄せるも、兄の起こした事業が失敗してしまい、数カ月で東京の小学校に転校。
それも長く続かずまた青森の小学校に転校。
中学校からは東京都品川区に落ち着き、高校、大学に進学。
そこからの活躍は世に知れるところです。

そのなかにし氏の著作のひとつ、『てるてる坊主の照子さん』は、なかにし氏の妻・石田由利子(芸名 石田ゆり)とその家族をモデルにした作品。
『てるてる坊主の照子さん』を元にした『てるてる家族』がどこからどこまで脚色されたものなのかはわかりませんが、桑原兄弟の存在は作品におけるスパイスとも言えるでしょう。



●生きるために勉強した


劇中で賢作兄ちゃんや和ちゃんらの父親の死因は明らかにはされていません。
しかし恵まれた生活を送っていたかどうかと言われると……
経済的に恵まれていない部類に入るのだろう、ということは容易に想像がつきます。


時代は高度経済成長。
しかしその右肩上がりから振り落とされてしまう人もいたのでしょう。

仕事がもう少し楽であれば。
しっかりとした医療を受けることができていれば。
お金にもう少し余裕があったら。
もしかしたら兄も父も死なずに済んだのかもしれません。

だから大手の会社に入って、お金を儲ける。
大きな会社に入るために勉強をする。


青年になった和ちゃんにとって、勉強は生きる手段でした。


「そやけど拓夫に『なんで勉強すんのか?』て聞かれても、答えられへんかった」

21週、拓夫はある質問を和ちゃんにつきつけていました。



この質問の答えに窮していた和ちゃん。
勉強して大きな会社に入って今は幸せなのか?と聞かれて、何もこたえることが出来なかった。




「なれるはずあらへん!!『人のために何かしよ』思わへん人間が心から楽しなれるはずないねん」
「人を信じられへん人間が、人に優しなれるはずないねん」


「そやから俺は、こいつらのことをいっぺんぐらい好きになってみたかってん!こいつらのためやったら何でもできる人間になってみたかってん!
 アホな事でもやってみたかってん!兄ちゃんらのことをほんまに好きになってみたかってん!」


和ちゃんの祈るような叫びが、教会に響きます。


「…にいちゃん!俺な、にいちゃんみてて勉強しよ思た!どこ行かされてもええから勉強しよ思たで!」

短い時間ながらも一緒に過ごした木塚兄弟。
大人たちに捨てられて、弟を守ろうと『毒見』をしていた兄・拓夫。
まだ幼い2人を守ろうとした政也、和人、冬子。
その若い3人を守ろうとした多くの大人たち。

「勉強なんかしなくてもいい。2人で生きていく」と言っていた拓夫は、和ちゃんを見て勉強をしようと思った。

それはきっと短くも濃い時間の中で、2人を守る和ちゃんの背中を見ていたからなのでしょう。
拓夫と光樹が和ちゃんを信じるように、和ちゃんも2人を信じていいんだ。



●解放、鐘の音


春男が沈黙を破りました。
外で刑事さんが待っている。
行こう、と。


「それから…そない人見くびったらあかんわ。お前がほんまに優しないねやったら誰もお前に優しいなんかせえへん」


「人が優しなれんのは、相手の優しさ感じるからや」
「お前は優しすぎんね。それだけの事や」


人に優しくできるのは自分が優しいから。
ただ和ちゃんは優しすぎる。
心から優しすぎる。
それだけのこと。




春男ののんびりとした口調が和ちゃんの心を揺さぶるように。

楽しい、楽しくない。
優しい、優しくない。
信じられる、信じられない。
幸せになれる、幸せになれない。


少年時代に兄と父と死別した和ちゃんは、そのはざまで揺れていたのでしょう。
「大丈夫、自分を信じていい」
そんな春男の言葉。
「この人は信用できる人や」と兄弟に紹介した春男の言葉。
和ちゃんにとって信用できる大人が、「自分を信じなさい」と言っている。


硬い殻が少しずつ優しく割れていくように、和ちゃんの表情が柔らかくなり──。






外に待っていたのは刑事たちと、宿のご主人と女将さんでした。
特にご主人からは厳しく扱われていた3人。
そのご主人が、涙ぐんで3人を待っている。



和ちゃんが頭を下げて、兄弟も頭を下げて。

ご主人と女将さんの表情を通して、3人は人の優しさを信じることを、今再度知ったのかもしれません。



鐘の音が、和ちゃんたちの心の解放を願うように響く夕暮れ。




●最高のロケーション


それにしても、教会ロケ。
いやそもそもこの終盤でロケぶっこむってのもすごいのだけれど。

和ちゃんと子どもたちが逃げ込んだ黒島天主堂
これ、重要文化財。
しかも、『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』で世界遺産候補。


で、もちろんキリスト教の行事も行われるので、本来なら立ち入りには事前連絡だし、撮影禁止の場所。

なのですが、スタッフが神父に交渉をしてみたところ。
「その内容はまさしく神の教えと同じですからどうぞ撮影してください」
と撮影許可が下りたとのこと。


いや、役者さんも台本も素晴らしいんだけども。
それを盛り立てたっていうのはやっぱりスタッフってのもあったのだろうと。
教会独特の高い天井、装飾、柔らかい光、鐘の音、夕暮れ。

和ちゃんが心の棘を吐き出すには最高のロケーションじゃないか。

本来ならNGの場所で、ドラマの撮影ができたこと。
スタッフが尽力してドラマ制作に挑んでいること。
これが後の石原さんや錦戸さん、さらには子役の森田さんらの大きな糧になったのでしょう。



●涙では終わらせない


和ちゃんと子どもたちは、刑事たちに連れられて警察署にいきました。

もう終わりにしなければならない。
とにかくまずは大阪に帰ろう、と春男は言うものの。


「とにかく…ハンバーガー食べよ」

冬子ぉwww
これも勉強だ、と先ほどの感動を蹴り飛ばしていく冬子www


「ただおなかすいただけやろ」と突っ込まれて、和ちゃんが少しだけ笑いました。

よかった。

拓ちゃんと光ちゃんにも食べさしてあげたい。
あの日届けられなかったクリスマスケーキの代わりに、3人にハンバーガーを食べてほしい。
冬子らしい優しさが染み入ります。




●世の中捨てたもんじゃない


と、ここで現れたハンチング帽子をかぶった男。
帽子を取ってみると……久しぶりのあの人



鬼畜か、この親子www

村田敏司さん、栄町商店街の弁護士さんです。


20週

たこ焼きばっかり食べている人権派弁護士・村田さん。
弘子姉ちゃんと松本さんの結婚のだしになったぐう聖・村田さん。
非の打ち所はないんだけど、残念ながら弘子姉ちゃんに盛大に振られた村田さん。


でもなぜ村田さんがここに?と疑問を抱いた矢先。
村田さんが言ったのは意外な言葉でした。


「米原さんに頼まれまして、今度お兄さんの弁護を引き受けることになりました」

米原さんから事情を聴いてすぐに飛んできたという。
政也と一緒に警察まで連れ添った米原さんは、そのまま村田さんに連絡したのでしょう。

米原さん、今でこそシャトーの常連になっていますが、初登場の10週のときは、社会に挫折して家族からも仕事からも逃げ出してきた人物でした。



そんな社会経験と挫折、逃亡を経験している米原さんだからこそ。
政也に出頭を促すことができた。
政也の弁護人に村田さんを探すことができた。

村田さんもまた振られた見合い相手、だしに使われるだけではなかった。
きちんとその職業、性格などの設定を生かした活躍の場所が与えられた。

うーん、この登場人物が生きている感。
しかもパズルにはまるような適材適所感。
どんなプロットになってるの、頭おかしい(超褒めてる)



「それからあの子らの父親の事ですが、労災だけでも認めてもらうよう働きかけてみるつもりです」

人権派の敏腕弁護士だということは、岩田家・視聴者には知られるところになっています。
きっと和ちゃんにきちんと説明するんでしょう。
労災訴訟なんて村田さんにぴったりじゃないか。
政也の刑事訴訟だけではなく、子どもたちの父親の労災認定まで。
そこまで気が回るのがすごいな。

いやしかし。

振られた見合い相手をここまで有効活用する朝ドラ初めて見た。




●ありがとう、ありがとう


子どもたちはしばらくのあいだ施設に保護されることになりました。


「大阪池田の栄町商店街やで。そこに私はいてるから。いつでも来るんやで。ええね?」

何か困ったことがあったら、岩田製パンにいる自分を頼ってくれと冬子。


「ほなね。また遊ぼな。絶対遊ぼな、元気でね」

この回、冬子が和ちゃんや子どもたちにかけた言葉はほんのわずかです。
『朝ドラヒロインあるある』な何も説教じみたことは言っていない。


ごくごく自然体の冬子そのままの言葉。
背伸びはしない、でもとても優しい冬子の言葉。



「にいちゃんありがとう」
「元気でな」


兄弟が和ちゃんにも別れを告げたとき──






「坊!坊!坊!」

そこに現れたのは、旅館のご主人。

最初子どもたちを邪険に扱い、疑いの目で見つつも。
冬子の『通訳』で、言葉の壁を乗り越えたご主人。


「おっちゃんありがとう!」
「坊!」


拓夫と光樹を乗せた車が遠ざかっていきます。
ご主人は和ちゃんと冬子に向きなおり、言いました。


「心配せんでよか。おいがあん子らの友達になってやってもよか」

ドラマとしてはここで岩田家もしくは旅館の夫妻が、養子縁組をしたりするのもありなのかもしれません。
でもそうはしない。
冬子は連絡先を教え、ご主人は「友達になる」と。
これくらいの距離がリアリティあるなあ、と。


危機を乗り越えた子どもたち2人は、みんなの友達。
だって2人は強いから。


「ありがとう。ありがとう!」


火サスさながらの逃走劇ではじまったというのに、気が付けば号泣。
たくさんの『ありがとう』が詰め込まれた珠玉の15分でした。



●おかえり



子どもたちやご主人たちと別れ、空天歌に戻ってきた3人。
そこに待っていたのは、照子と夏子でした。
大阪にも連絡が入り、安堵する一同。


「みんな米原さんのおかげです」

しれっといるキツネザルはさておき、端から見守るこの2人。


「何や俺ら目立ちませんね」
「ええんや。わしらはこの店のイースト隊や。これでええねん」


(こなれたカップルかな?)









夏子、照子との再会を喜ぶ面々。
久しぶりの大勢の食卓だけど、四面使いという大胆さも相変わらず。

話題は夏子が生まれたときの話から、冬子が生まれたときの話へ。


「気ぃ付かへんうちにポロ~て生まれてた。手ぇのかからへん子や」

ポロ~ってwww照子www




●親の贅沢


若い夫婦が暮らした部屋で懐かしい時間。
(この2人もだいぶ久しぶりだなあ)

「あいつの好きにさしたんのが一番ええのやろな」

和ちゃんを見ていたら歯がゆくなる。
自分たちは子どもに恵まれ過ぎていたのかもしれない。
そういえば和ちゃんの口から「ああしたい/こうしたい」という言葉を聞いたことがない。


「親っちゅうのは贅沢なもんや。親っちゅうのは贅沢なもんや。いろんな心配してみたいもんなんやな。あいつの親とちゃうのにな」

呟くように言う春男を温かく見守る照子。
「それはわからない」と意味深な言葉を言いつつ、懐かしのベランダへ。

春子を連れて初めて佐世保に来たとき、夏子が生まれるとき、幼い夏子の命が危ういとき。
ここにいつもてるてる坊主をぶら下げていました。


「子どもの心配すんのは親の贅沢や。てるてる坊主はその贅沢の数やね。一つ一つが私らの財産や」

『心配』を『贅沢』に。
てるてる坊主はそれだけ子どものことを思った証。



思えば照子、かつての桑原兄弟が四国へ旅立つその夜。



こんなでかいてるてる坊主をぶらさげていたっけ。


サイズはコンパクトになったけれども。


大阪・佐世保の大人たちがそれぞれ、若者たちと子どもたちを見守ったこの22週。

4姉妹だけではなく政也と和ちゃん、それから拓夫と光樹への『心配』もこめられてるんでしょう。
春男と照子のそれだけではなく、大坂の人たち、佐世保の人たち、それから黒島の夫婦。
画面に映るはずはないけれど、賢作兄ちゃんや桑原兄弟の父、木塚兄弟の父も。
たくさんの人の『親の心配』がこめられてるんだろうなあ




●自分に正直になる


冬子は久しぶりの夏子と。

「どないしたら人は人を好きになれんのやろか」

本当に人を好きになれない人間なんているんだろうか?と冬子が思い浮かべるのは和ちゃん。
兄たちのことを心から好きになってみたかった、と声をあげた和ちゃん。


「そんなん簡単や。自分を好きになったらええねん」
「勇気だして自分に正直になったらええねん。そしたらまた自分を好きになれる」


なべおさみにバカにされていた不遇の時代を乗り越えた夏子の言葉が力強い。




●シン・キスケ爆誕


冬子たちが大阪に帰る朝。


「和人君いうたな?何があっても負けたらあかんで。頑張りや」

藤井の叔父さん。
佐世保に来て苦労もしたんだろう叔父さんの和ちゃんへの激励。


「和人。また困ったことがあったらいつでも言うて来いよ」

恒兄ちゃん。
恒兄ちゃんが佐世保にいてくれたから、和ちゃんは救われた。

さあ大阪に帰ろう、としたそのとき──。



「大将!できたら…俺大将とまたパン作りたいです」

春男と冬子と一緒にいたい。
一緒にパンを作っていたい。
ずっとそう思っていた。
それができたらどれだけいいことか。




笑顔こぼれる冬子。
春男は思わず涙がこぼれて。

「何で言わへんねん?…そんなええこと。なんで…隠しとくねん?」

和ちゃんの心からの気持ち。
それをやっと聞けた喜びがこみ上げる春男。


「今日からお前はうちの工場長や」
「ほな工場長はどないなんの?」
「工場長は元工場長や」
「ほな私はどないなんの?」
「お前は…今日から喜介や」



「新喜介!」


『シン・キスケ』爆誕


放射熱線が繰り広げられる中。



春男さん、よかったね。



●ここから始まる


大阪に帰ってきた3人を迎えた面々。


「しっかり働いて、兄ちゃん待ったらなあかんで!」

改めて和ちゃんを激励する元工場長。
思えば元工場長も、『待っている人』でした。(13週


「翌日から3人の新しいパン作りが始まりました」
「パンを作ることはささやかだけど、私は今の自分を信じることができるのです」


明るい冬子の声で終わる22週。

ごめんね、ありがとう、ただいま、おかえり。
人の、生きた言葉がつまった6日間でした。








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