写真は、キャンパスの図書館。8月27日朝。
新しい読者もおられますので、成年後見と専門職についてこれまでの私の考え方を整理してみました。
(目次)
・ 成年後見ができた背景
・ 使われていない成年後見
・ ドイツとの対比で
・ 成年後見法世界会議
・ 日本に成年後見法の発展はあるか
・ 行政と個人をつなぐゆるやかな専門職
・ サポートの新しいあり方
・ 参考サイト
【成年後見ができた背景】
2000年、介護保険制度の創設と同時に成年後見制度が施行されました。
介護保険の基本がそれまでの「措置」制度に代えて当事者(サービスを受ける高齢者と提供する事業者)間の「契約」を基盤にした制度となったわけですが、契約を結ぶことができない事情のある例えば重度の認知症の高齢者などの意向を反映した「契約」を結ぶことを可能とするために新しく成年後見制度ができたわけです。
【使われていない成年後見】
先週、鹿児島県の南部の地域の認知症関係の組織を訪問調査しました。その折、成年後見の普及の様子をお聞きしましたら、予算には組んでいるが実際の申請はない、ということでした。ネット上でも、成年後見の使いにくくさが指摘されていますね。
想い・思い・おもいver.2 第483 回 2010.06.16
「私は諦めました」快互師 2010.06.16
「厚生労働省と法務省の縄張り争い」平岡祐二 2010.06.17
この2つのコメントは、
第3743号 (2010.06.16)へのコメントです。
【ドイツとの対比で】
介護保険制度と成年後見を両輪として高齢者の介護に向かうという意味では、日本とドイツは類似していますが、成年後見制度の定着という意味では彼我かなりの違いがあります。
・ 利用者数が、日本では年間12万件程度ですが、ドイツでは200万件と1桁違う状況です。
・ 日本における成年後見法の第一人者である新井 誠先生(筑波大学大学院)は、ドイツ法と日本法との相違点を指摘されています。
P5750 2010.07.15
・ ドイツ法ではさらに、2005年改正によって、財産管理から身上監護といわれる分野へ一層重点化する方向に踏み切っています。
【成年後見法世界会議】
このようなドイツ法の動向は、世界における成年後見法の潮流でもあります。
10月2日から4日まで、横浜で成年後見法世界会議が行われます。
この会議の分科会の構成を見ると、成年後見に関して国際的に論議となっているテーマがわかります。(括弧ないはブログ管理者の注記)
分科会1 医療行為の同意(後見人にどの程度の同意権を与えるか)
分科会2 市民後見人(親族による後見から市民による後見へ)
分科会3 任意後見(法定後見から任意後見へ)
分科会4 虐待と成年後見(高齢者虐待の防止策としての成年後見)
分科会5 能力(民法における能力と福祉法の原理とのバランス)
分科会6 後見人への公的支援組織(公的な支援組織の拡充)
分科会7 信託と成年後見(財産管理と成年後見)
分科会8 高次脳機能障害と成年後見(その他知的障害などさまざまな事例と後見)
【日本に成年後見法の発展はあるか】
これまで10年の歩みをみていると、果たして、日本の成年後見法が国際的な法制の動向にすみやかにならうことが可能なのか?不安があります。
このうえ、認知症の場合を考えると、重症化した認知症の場合、短期記憶を次第に喪失していきますので、専門的な知識と技術で武装しても専門職のみによっては十分な対応が難しいように思います。(記憶の中核が急速に昔へ戻っていくため、精神面のケアにおける家族の役割が強まっていく)
従来型の民生委員による高齢者の見守りといった対応にもあきらかに限界があります。
【行政と個人をつなぐゆるやかな専門職】
このように考えてくると、日本の介護現場で大きな役割を果たしている介護福祉士や介護支援専門員の将来的な課題にもつながります。
想い・思い・おもいver.2 第560回 2010.08.29
アローチャートによるケアマネジメント 2010.08.05が提案している「准介護支援専門員」制度と「セルフ・ケアマネジメント士」が注目されます。
北欧における高齢者介護は、公的なサービスのネットワークの充実で知られていますが、スウェーデンの「コンタクト・パーソン」やフィンランドの「ラヒホタイヤ」という専門職ではあるが行政と個人をゆるやかにつなぐというスタイルの専門職が公的サービスの周辺を広く支える役割を果たしていることも興味深いです。《日本でも地域をあげて認知症の支援を進めているところもあります。別途、項を改めてお話します》
その道筋は、
第3841号 2010.08.11 でまとめた「ヒューマン・サービス」
といわれる方向とも重なります。
【サポートの新しいあり方】
もう一度まとめてみますと、
・ 家族の介護力が弱体化している。
・ 地域の介護力も(とくに都市部では)著しく低下している。
・ 認知症の増加が見込まれるが当面医学的な対応のみでは無理がある。
それにもかかわらず、
・ 従来型の民生委員のような仕組みによっては対応できない
・ 法曹の専門職による権利思想の普及になお距離があるために成年後見に当面は大きく期待できない。
・ 欧米流のソーシャルワーカーとしては社会福祉士があるが、高齢者の介護においては、
介護福祉士や介護支援専門員(医療系・看護系の基礎資格からの参入も多かった)に依存してきた。
・成年後見に関しては、都市部における独立型社会福祉士の活躍に活路を見出すことができそうだが、この場合でも、制度の使い易さに関して大幅な改善が必要である。
一筋の光明は、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員の先覚的な人たちを中心に、新しいタイプの専門職の体系を連携しながら模索する流れがあることです。
(「笑福会」の活動がその1例です)
【参考】
介護福祉の話(本ブログ)カテゴリ3項目の「成年後見」 44記事
介護福祉研究 カテゴリ「998 Guardianship」 57記事
新しい読者もおられますので、成年後見と専門職についてこれまでの私の考え方を整理してみました。
(目次)
・ 成年後見ができた背景
・ 使われていない成年後見
・ ドイツとの対比で
・ 成年後見法世界会議
・ 日本に成年後見法の発展はあるか
・ 行政と個人をつなぐゆるやかな専門職
・ サポートの新しいあり方
・ 参考サイト
【成年後見ができた背景】
2000年、介護保険制度の創設と同時に成年後見制度が施行されました。
介護保険の基本がそれまでの「措置」制度に代えて当事者(サービスを受ける高齢者と提供する事業者)間の「契約」を基盤にした制度となったわけですが、契約を結ぶことができない事情のある例えば重度の認知症の高齢者などの意向を反映した「契約」を結ぶことを可能とするために新しく成年後見制度ができたわけです。
【使われていない成年後見】
先週、鹿児島県の南部の地域の認知症関係の組織を訪問調査しました。その折、成年後見の普及の様子をお聞きしましたら、予算には組んでいるが実際の申請はない、ということでした。ネット上でも、成年後見の使いにくくさが指摘されていますね。
想い・思い・おもいver.2 第483 回 2010.06.16
「私は諦めました」快互師 2010.06.16
「厚生労働省と法務省の縄張り争い」平岡祐二 2010.06.17
この2つのコメントは、
第3743号 (2010.06.16)へのコメントです。
【ドイツとの対比で】
介護保険制度と成年後見を両輪として高齢者の介護に向かうという意味では、日本とドイツは類似していますが、成年後見制度の定着という意味では彼我かなりの違いがあります。
・ 利用者数が、日本では年間12万件程度ですが、ドイツでは200万件と1桁違う状況です。
・ 日本における成年後見法の第一人者である新井 誠先生(筑波大学大学院)は、ドイツ法と日本法との相違点を指摘されています。
P5750 2010.07.15
・ ドイツ法ではさらに、2005年改正によって、財産管理から身上監護といわれる分野へ一層重点化する方向に踏み切っています。
【成年後見法世界会議】
このようなドイツ法の動向は、世界における成年後見法の潮流でもあります。
10月2日から4日まで、横浜で成年後見法世界会議が行われます。
この会議の分科会の構成を見ると、成年後見に関して国際的に論議となっているテーマがわかります。(括弧ないはブログ管理者の注記)
分科会1 医療行為の同意(後見人にどの程度の同意権を与えるか)
分科会2 市民後見人(親族による後見から市民による後見へ)
分科会3 任意後見(法定後見から任意後見へ)
分科会4 虐待と成年後見(高齢者虐待の防止策としての成年後見)
分科会5 能力(民法における能力と福祉法の原理とのバランス)
分科会6 後見人への公的支援組織(公的な支援組織の拡充)
分科会7 信託と成年後見(財産管理と成年後見)
分科会8 高次脳機能障害と成年後見(その他知的障害などさまざまな事例と後見)
【日本に成年後見法の発展はあるか】
これまで10年の歩みをみていると、果たして、日本の成年後見法が国際的な法制の動向にすみやかにならうことが可能なのか?不安があります。
このうえ、認知症の場合を考えると、重症化した認知症の場合、短期記憶を次第に喪失していきますので、専門的な知識と技術で武装しても専門職のみによっては十分な対応が難しいように思います。(記憶の中核が急速に昔へ戻っていくため、精神面のケアにおける家族の役割が強まっていく)
従来型の民生委員による高齢者の見守りといった対応にもあきらかに限界があります。
【行政と個人をつなぐゆるやかな専門職】
このように考えてくると、日本の介護現場で大きな役割を果たしている介護福祉士や介護支援専門員の将来的な課題にもつながります。
想い・思い・おもいver.2 第560回 2010.08.29
アローチャートによるケアマネジメント 2010.08.05が提案している「准介護支援専門員」制度と「セルフ・ケアマネジメント士」が注目されます。
北欧における高齢者介護は、公的なサービスのネットワークの充実で知られていますが、スウェーデンの「コンタクト・パーソン」やフィンランドの「ラヒホタイヤ」という専門職ではあるが行政と個人をゆるやかにつなぐというスタイルの専門職が公的サービスの周辺を広く支える役割を果たしていることも興味深いです。《日本でも地域をあげて認知症の支援を進めているところもあります。別途、項を改めてお話します》
その道筋は、
第3841号 2010.08.11 でまとめた「ヒューマン・サービス」
といわれる方向とも重なります。
【サポートの新しいあり方】
もう一度まとめてみますと、
・ 家族の介護力が弱体化している。
・ 地域の介護力も(とくに都市部では)著しく低下している。
・ 認知症の増加が見込まれるが当面医学的な対応のみでは無理がある。
それにもかかわらず、
・ 従来型の民生委員のような仕組みによっては対応できない
・ 法曹の専門職による権利思想の普及になお距離があるために成年後見に当面は大きく期待できない。
・ 欧米流のソーシャルワーカーとしては社会福祉士があるが、高齢者の介護においては、
介護福祉士や介護支援専門員(医療系・看護系の基礎資格からの参入も多かった)に依存してきた。
・成年後見に関しては、都市部における独立型社会福祉士の活躍に活路を見出すことができそうだが、この場合でも、制度の使い易さに関して大幅な改善が必要である。
一筋の光明は、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員の先覚的な人たちを中心に、新しいタイプの専門職の体系を連携しながら模索する流れがあることです。
(「笑福会」の活動がその1例です)
【参考】
介護福祉の話(本ブログ)カテゴリ3項目の「成年後見」 44記事
介護福祉研究 カテゴリ「998 Guardianship」 57記事
介護保険制度と成年後見制度は、
諸々なサービスが措置から契約に変わるにあたり、
車の両輪のようにスタートした制度です。
従って、介護保険制度開始当初は、
本人に契約能力が乏しい場合の「代理人」に
家族はなれるのか?という問題が生じました。
そして、2000年4月に、
滞りなく介護保険制度によりサービスを提供するためには、
家族を代理人にすることもやむなし、と
されたように記憶しています。
そして、それがそのままになってしまっていることも、
成年後見制度の利用が進んでいない一因であるように思います。
今日の研修でも、トヨロ先生が
この10年、技術論がないがしろにされてきたと
おっしゃっていました。
(blogにもさせていただきました)
成年後見制度についても、
どうすれば、その利用に至るのか。
利用を阻んでいる要因はなんなのか。
そのことを、明らかにして、
次に繋いでいくことが必要だと思いました。
コメントありがとうございました。
この記事のあと
同じ内容を
首相発言に関連付けて書きました。
こちらの再コメントの方が
あとになりました。
twitterでの発言を含めると
現段階で共有できる点
課題となる点が
はっきりしてきました。