すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

「答え」を振りかざしたオウム。そしてほりえもんさん

2005-04-03 04:23:48 | 社会分析
「答えを教えてあげるよ」。結論を先に言えば、ほりえもんさんがオウムに近いのはこの一点だ。だから切込隊長の俺様キングダム「ライブドア騒動と、オウム真理教事件が構造的に酷似している件について」は微妙に空振りしてる。よせばいいのに、それ以外の枝葉もふくめて全部オウムに当てはめようとしてるからだ。

 たぶん切込隊長はこう考えたんでしょう。

「なんか似てるよな」

「よし。いっちょう、あいつをオウムに仕立て上げてやれ」

 たしかに切り口はいい線行ってるんだけど、でもこれって小林よしのりと同じ論理だよ(笑)。自分に都合の悪いヤツが出てくると、すぐ「あいつはオウムに近い」って話になっちゃう。それこそ酷似してるよねえ、小林よしのりと切込隊長は。逆にさ。

 例の言説の冒頭近くで、隊長はこう書いてる。

「※ 本稿はライブドアが犯罪性のある集団であるという意図ではなく、メディアでの取り上げられ方や組織の構造が類似していることを示唆するもので、誤解のないようにお願いしたいと思います」

 隊長、煙幕張ってるけどさあ、でも結局、結論はソコに行ってるじゃん。

 わはは。 

 ていうか、実はこの注釈こそが、隊長の発想の原点なんだよね。これが隊長の衣の下の鎧だ。

 で、そのあとからすべてのディテールをほりえもんさんに無理やり当てはめようとするから、論理が破綻しちゃうんだよ。隊長。

 ほりえもんさんとオウムは「答えを教えてあげるよ」の一点で酷似してる。ここで留めときゃいいのに。じゃあ「答えを教えてあげる」ってのは何を意味してるのか? 説明するには20年前にさかのぼらなきゃ。

 このブログのコメント欄でも前にちょっと触れたけど、それまではみんな何も考えずに大学を出て就職し、2、3年たったら結婚してセックスして子供作って、社会の成員としてせせこましく暮らしてたわけだ。ちまちま税金払いながら、こうしてみんな一生終わってた。

 それで世の中はうまく回ってたし、ずっとこいつが人生の「答え」だった。全員でちょっとづつ社会に貢献し、平凡ながらも小さな幸せを糧にして死んで行く。それが答えだった。

 ところが80年代初頭にフリーターって概念が出てきた。この社会思想は、いままでの世の中のメカニズムを根こそぎ壊すカウンター・アタックだった。

 世の中なんてカンケーねえよ。俺は俺のやりたいようにやるぜ。国民年金? んなもん、払うわけねえだろバカヤロー。

 保守陣営にとってはえらい脅威だ。もっと言えばほりえもんさんに代表されるITバブリーな人たちって、明らかにフリーター思想の延長線上にある。

「ネクタイなんかしなくたっていいだろ」

「俺らはやりたいこと(=IT)をやって食ってくぜ」

 ところがフリーター思想を掲げる大多数の人たちは、そんな答えを明確にもってなかった。だいたいごく一部の天才をのぞいて、世の中の80%の人たちは平凡な「普通の人」なんだから、そもそもフリーターなんてキビシイ生き方は似合わないの。でも時代の同調圧力に負けて、みんながこう考えちゃった。

 今の自分は、「本当の自分」じゃないんじゃないか?

 んで、就職せずにひたすら「自分探し」の旅を始めちゃった。

 じゃあ、あのころ旗振り役になった勢力は、大衆をどう煽ったか? たとえば中小企業でお茶汲みやってるOLさんに、こう問いかけた。

 今のあなたって、お茶汲みなんかやってるよねえ。それって「つまらない自分」だと思わない? 実は「本当の自分」はそうじゃなくて、もっとほかにあると思わないか? さあ僕らといっしょに探しに行こうよ。

 で、何の取り得もない平凡なOLさん(に代表される世の中の80%の人たち)が、みーんな、カンちがいしちゃった。

 今のアタシはたしかにつまらないわ。

 もっと輝かしい「本当の自分」を見つけよう。

 本来ならこの人たちって、何も考えずに結婚して税金払いながら世の中に食わせてもらって一生終わる、「つまらない人」なんだよね。誤解を恐れずに言えば。でもさ、それがこの人たちの「役割」なの。

 なのにアジテーターの煽りに乗って、みんながカンちがいしちゃった。で、そこまではいいんだけど、彼らってホントは別段「目標をもつべきじゃない平凡な人たち」なわけだ。だから別の生き方をしようなんて考えても、それがなんだかわかんない。

 答えが見つからないわけ。

 実は「答え」なんて、そんなん、どこにもないんだよ。ないものを探してるから、いつまでたっても見つからない。

 あーあ、余計なことしなきゃ、「そこそこの幸せ」で一生終えられたのに。アジ演説にだまされて踏み外しちゃったよこの人も。そんな感じ。

 これが80年代に起こった変動の第一波だった。

 で、続く90年代には、第二波がやってきた。そんな人たちをだまして、彼らから上がりを巻き上げよう。オウムに代表される新々宗教がぞろぞろ出てきた。

「あなたたち、私が答えを教えてあげますよ」

 ないはずの答えを求めて浮遊してるかなりの人たちが、こうして吸収されていった。つまりオウムは「ひっかけの集団」だったわけだ。冒頭の定義に戻ると、この「ひっかけの集団」って意味でほりえもんさんはオウムに「酷似」してるよね、たしかに(笑)

 たとえば宮台真司さんが2002年に出した本も、同じ原理を利用して売ろうとしてた。

「これが答えだ! ―新世紀を生きるための108問108答」(朝日新聞社)

 ほら。宮台さんの本でも、「答えを教えてあげるよ」がキーワードになってる。(実は黒幕は別にいるんだけど)宮台さんは確信犯的に「答え」って言葉を使ってる。

 でもそれ以前の1996年には、「ありし日」(笑)の鶴見済が「人格改造マニュアル」(太田出版)の中ではっきり答えを出してる。ちょっと長いが引用しよう。

『何人かの知人から「(自殺マニュアルの件で/注釈・松岡)インタビュアーに詰問されているのに、なぜニコニコ笑っているのか」と聞かれた。答えは「抗うつ剤を多めに飲んでいたから」だ。こうすれば何を言われたってニコニコしてしまう。こうして僕は、狙いどおりの「にこやかな著者」として多くの人の目に映ることになった。

 もちろん、初めは色々な仮面をつけている気分になっていた。それがだんだんどれが仮面で、どれが“本当の顔”なのかわからなくなってきた。けれども、もともと“本当の顔”などというものがないのだ、と気づくまでにそれほど時間はかからなかった。その時、体が一気に軽くなった気がした』

 本当の自分なんて、実はないんだよ。

 でも相変わらずネクタイせずにテレビに出てきちゃ、ほりえもんさんがなんか正論言ってる。それ見てハマっちゃう人はこう考える。

 ああ、この人について行けば答えが見つかるんじゃないか? 今の自分を決して満たしてくれない、この社会システムを壊してくれるんじゃないか? 

「満たされない自分」を満たしてくれる世の中が、その先にあるにちがいない。俺って今まで「本当の自分」がわかんなかったけど、きっとこのおっさんについて行ったら「ワンダーランド」にたどり着けるんだろう。 

 ほりえもんさんが背負ってるポピュリズムの正体はこれだ。で、ウンカのように「平凡でつまらない人たち」の支持が集まる。この「ひっかけの構造」が、まったくオウムと同じだ。

 じゃあ宮台さんはあんまり叩かれないのに、なんでほりえもんさんは叩かれるのか? それは宮台さんは完全に「わかってやってる」んだけど、ほりえもんさんの場合、半分、ワケわかってないのね。残りの半分は本気なんだよ、あれ。

 100%、ひっかけなんだったら、「ああ、なんかやってるな。ミエミエだな」で終わるのに、ほりえもんさんの場合は衣の下に鎧が見える。その意味では切込隊長のほりえもんバッシングと同じだ。もうね、本気の部分がチラチラしてる。だから保守な人たち、今までの社会のあり方をかろうじて保とうとしてる勢力が危機感をもつ。

「こいつ。ほっといたら、まじでやばいんじゃないか?」

「ホントに世の中を変えちゃうんじゃないか?」

 こう思われてんだよね。あの人。で、叩かれる。そもそもほりえもんさんて、いじられキャだしねえ。叩く人にとっては、いじめるとすごいキモチいいタイプなんだよ。かわいそうに(笑)

 そんなわけで切込隊長も無理くり叩くわけだけど、果たしてどっちが答えをもってるのかな。たぶんほりえもんさんについてっても、ロクなことにゃならないと思うけどね。わかんないけど。

 でもねえ、実はそんなことやってる場合じゃないんだよ。世の中はかなりやばくなってるんだ。もう10年くらい前から、認知心理学の専門家たちはかなり危機感をもってるよ。「21世紀はウツ病の時代だ」ってのが大問題になってるの。

 いったい、どゆことか? 

 自分探しをして答えが見つからない。どっかにもっといい生き方があるんじゃないか? そんなことをずーっと考えてると、常に理想と現実のギャップがつきまとう。これがストレッサーになって、みんなかたっぱしからウツになっちゃうんだよ。

 これって下手に思考する人ほどなりやすい。何も考えずに就職して結婚する人よりもね。

 で、病院で正式に診断されてなくても、ウツ病、あるいは抑ウツ状態にある人がここ10年くらい激増してる。先進国の中で日本の自殺率が飛びぬけて高いのも、実はそのせいだ。長くなるから解説は別の機会にゆずるけど、試しにグーグルに「認知の歪み」って入れて検索してみ。みんな。

「あーっ。これって俺そのものじゃん」

 そんな症例がぞろぞろ出てくるぞ。そのへん普通に歩いてる人たちが、みんな結構当てはまってるはずだ。

 実は今の日本の抱えてる深刻な社会問題って、北朝鮮でもイラクでもなんでもないんだ。

 自分探しの果てにやってきた、「ウツという名の荒れ果てたゴール」なんだよ。

 1980年代以降に激変した現代日本が解決すべき難問は、海の向こうにあるんじゃない。最大のテーマは「内なる自分」だ。まじでやばいよ、この問題は。

 だって答えがないんだもん。

【関連エントリ】

『人生をスルーした人々』

『自分探しシンドロームを超えろ』

自分探しに疲れたあなたに贈る処方箋
コメント (16)
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