のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗24(新スケール号の冒険)

2021-05-10 | 物語 のしてんてんのうた

(24)

黒いスケール号がフェルミンの額に止ると本当のハエのように見えました。ところがスケール号の窓から眺めるフェルミンの姿は大きな丘に見えるのです。のぞみ赤ちゃんの額に止ったときは何もない湿地のような平原に見えましたのに、フェルミンの額は乾燥地帯でした。地面はひび割れ、枯れた泉が点在するばかりでした。スケール号はその枯れた泉の水脈をたどりながら縮小を続けていきました。

「どうだ、チュウスケはついてきているか。」

スケール号のモニターには自分の位置を示す緑の点が画面の中心で点滅いていました。そこから離れて点滅するもう一つの点が赤く光っていました。それがチュウスケの位置を示しているのです。スケール号がチュウスケの鼻を蹴とばして飛び立ったとき、チュウスケの鼻頭に目に見えない小さな発信機を注入していたのです。

「はい、発信機をうまく捕えているでヤす。」

「しっかり付いてきているダすよ。」

「しかしどうするつもりなのだ、それであのネズミの魔法を打ち破れるのか?」

「まずは相手を知るだけですね。」

博士は腕組みをしてスケール号の窓から移り変わっていく風景を見ていました。

スケール号がどんどん小さくなっていくと、まわりの風景はどんどん大きくなるのです。フェルミンの枯れた汗腺も巨大な空洞となり、そこを通り抜ける頃には、スケール号はたった一つの細胞の大きさになっていました。自分と同じ大きさに見えるようになった細胞は透明のゼリーに包まれているように見えます。それがいくつも並んで田園の風景に見えるのです。

「博士、この細胞地帯はちょっと変ダすね。」

「どうしたぐうすか。」

「よく見ると、なんだか黒っぽくないダすか。」

「ほんとでヤす。黒く変わって行くのが分かるところがあるでヤすよ。ほらあそこ。」

もこりんの指さした周辺の細胞は確かにじわじわと黒く変色が進んでいるのです。

「博士、これは姫様が飲まされた薬のせいではないでしょうか。」

ぴょんたも話に加わってきました。よく見ると、細胞の中を泳いでいるミトコンドリアがしきりに黒い墨を吐いているではありませんか。

「艦長、あの細胞の中に入ってみよう。」

博士が艦長に言うと、艦長は揺りかごの中で手足をバタバタさせました。

「うっキャーうっきゃー」

「ゴロニャーン」

スケール号が進路を変えて変色し始めている細胞の中に潜り込んでいきました。ミトコンドリアが像のような巨大動物に見えます。その背中にある口からモクモクと黒墨を吐いているのです。スケール号はその墨に一口かぶりつきました。

「フンギャオーン」

あまりの不味さにスケール号は悲鳴を上げたのです。けれどもそのおかげで黒墨の正体を調べることが出来るのです。スケール号が食べたものは自動的にサンプル採取されて操縦室にデーターが送られてきます。

「どうだ、何か分かったか。」

「特に毒性のものは在りませんねぇ。」

「では何なのだ。分かるかぴょんた。」

「おそらくこれは、ミトコンドリアのストレス物質だと思います。」

「細胞の中に住んでいる動物でも、ストレスがあるのダすか。」

「ストレスの無いのって、ぐうすかだけでヤすよ。」

「言ったダすな、わ、わたスだって、眠れない時はストレスダすよ。」

「はいはい二人ともストップ・・。博士、これはきっと間接的な薬のせいだと思います。今姫様の心に妄想が生まれていて、薬はその妄想を生むきっかけを作る道具だったのかもしれません。」

「やはりそうか。ぴょんたありがとう。薬で死ぬことはないということだね。」

「はい。姫様の妄想がミトコンドリアにストレスを与えているのでしょう。」

「つまり、・・フェルミン姫の妄想を取り除いてやればいいということかな。」

「そうです王様、王様の力ならそれが出来るのではないでしょうか。」

「そなたたちのおかげで、少し見えてきた気がする。やってみよう、試してみる価値がある。」

バリオンの王様がおもむろに床に坐り、手を組んで瞑想をはじめました。心を鎮め、心に空を呼び込みますと、エネルギーが浄化され自然のままの波となって王様の手からとびだしてきました。見える訳ではありませんが、その柔らかな安心感がみなの心にも広がってくるのでそれが分かるのです。

王様はその波動を象ほどもあるミトコンドリアに向けて発射しました。すると吐き出されていた黒墨がいつの間にか薄れ、きれいな青空のような色に変って行くではありませんか。やがて紫色に変色していた身体そのものが次第に若木色に変って行ったのです。

「やったでヤす王様、このミトなんとかいう動物が元気になったでヤすよ。」

「ぴょんたの診断が正しかったということだ。王様、ありがとうございます。」

博士は瞑想を解いて坐っている王様に手を差し伸べたのです。

 

元気になったミトコンドリアの腹をかいくぐっていくつもの壁を越えると、スケール号は血管に入りました。赤いクラゲが押し合いながら流れているその中に紛れて進んでいくと、光の点滅する森の中に投げ出されました。

「艦長、あの森を抜けてさらにもっともっと小さくなって行こう。その先に銀河があるんだ。」

「ハブハブ」

北斗艦長は機嫌よく手を振り上げています。

スケール号は今、のぞみ赤ちゃんの原子の世界から、さらにさらに小さな世界に向かって進んでいるのです。

のぞみ赤ちゃんの身体の中にある原子の世界。その原子の世界を象徴するストレンジ星。そのストレンジ星の住人がフェルミン姫なのです。人間のスケールで見たら、ストレンジ星は素粒子です。その素粒子の上にフェルミン姫は住んでいることになります。そしてそのフェルミン姫の中にもまたさらに小さな原子の世界があるというのです。

スケール号はそのフェルミンの原子の世界に行こうとしているのです。原子に棲む姫フェルミンの中にもさらに小さな銀河があって、その銀河はフェルミンンの心を作っているのです。この世界は艦長は元より、博士自身が初めて見る超ミクロの世界なのです。どんな小さなものでも見逃さないでおきたい。そんな思いで博士はスケール号から見えて来る世界を胸に刻もうとしているのでした。

「一体、これはどういうわけだ。」

バリオンの王様が茫然として立っています。その目前に無数の銀河が姿を現したのです。

「フェルミン姫の体内銀河です。王様。」

「姫はこの星で出来ているというのか。」

「王様、生きるものは皆そうなのです。」

「信じられぬ光景だ。」

「王様、先にのぞみ赤ちゃんに会って頂きましたね。王様はのぞみ赤ちゃんが生まれる「最初の一滴」を支配しておられるのです。そして今見ている銀河は、フェルミンが生まれた「最初の一滴」が集まっている風景なのですよ。この一滴が無数に集まってフェルミンを作っているのです。」

「まるで入り小箱のような世界なのだな。」

「まさにその通りですね。そして王様、この中のどこかにフェルミンの心を作っている銀河があるのです。チュウスケの魔法を解くにはそこに行かなくてはならないのです。」

「分かるのかそこが。」

「スケール号が覚えてくれています。それより王様、これより先、王様の力を借りなければなりません。」

「私の力だと。」

「王様の呪術です。先ほどのこともそうですし、私たちは真っ先にその力の洗礼を受けました。」

「あれか。」

「あの時私達はスケール号の中で、これ以上ない幸せを感じました。まるでとろけるよな喜びであふれたのです。王様は私達を攻撃する前に、、いえ、幸せを武器にスケール号を攻撃されたのです。」

「武器とは聞き捨てならないが、無益な戦いはしない主義だ。」

「言葉足らずで申し訳ありません。ただチュウスケにはそれが武器になると申し上げたかったのです。王様の呪術は、良い心のエネルギーを何万キロ先まで伝える力を持っておられるのです。」

「それが武器になるだと?」

「スケール号には、良い心をエネルギーに変えて発射するビーム砲があるのです。ところがそのエネルギーは限られていて、我が隊員たちの良い心を集めるしかなかったのです。思いつくのはせいぜい家のお手伝いぐらいなものだったのです。分かって頂けますか。王様の呪術をスケール号のビーム砲につないで頂ければ王様の良い心のエネルギー波がさらに増幅されてより強力な武器になるということなのです。」

「私の呪術を武器などと考えたことはなかったが。しかしスケール号のビーム砲のことは分かった。タウ将軍と同じ働きをするのだろう。」

バリオンの王様は、ふとタウ将軍のことを思い出しました。呪術を行うときはいつもタウ将軍と共にあったのです。今頃反乱軍と向かい合って、戦いたくてうずうずしているに違いない。そう思うと、握っている杖に力が入りました。タウ将軍の持っている軍杖とつながっているのです。「無益な戦いをするでない。」その意志は瞬時にタウ将軍に伝わるのでした。

「王様の力は、チュウスケの魔法に対する強力な反対魔法となるのです。」

「よく分からぬが、そなたたちに従おう。私の瞑想があのネズミにも役に立てばいいのだがな。」

「ありがとうございます。王様は自覚されていませんが、のぞみ赤ちゃんが、あのような状態でも命をつないでいられるのは、王様のその力が及んでいるからだと私は思っているのです。太陽族を統べる王様の力をお借りできればこの上の幸せは在りません。」

「たいそうな言い回しだ。」

バリオンの王様はまんだらでもない顔をして笑いました。

全天に銀河の光が散らばって見えます。これがフェルミン姫の身体の中だと思うと不思議な気分になるのでした。

「われら太陽族はさらに深くこの世に存在しているということなのか・・・。」

 

 

 

 

 

 

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