のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗11(新スケール号の冒険)

2021-03-25 | 物語 のしてんてんのうた

 

(11)

「王様、信じられないことですが、ストレンジが敵の手に堕ちました。すでに宮殿が占拠されたようです。」

「星の民たちはどうしておる。無事なのか。」王様はタウ将軍に向き直って言いました。

「何人かは捕えられましたが、ほとんどのものは山中に潜み抵抗を続けております。しかし一緒に捕らえられた姫君が心配です。・・・」

「あの気丈な姫君が捕えられただと? 敵はそんなに強いのか。」

「魔法を使って心を迷わすのです。ストレンジ星の3分の1の民がすでに敵の配下に下ってしまったようです。」

「かつてなかったことだ。このような禍が私の代でやってこようとはの。」

「しかし王様、我ら大陽族の絆は強大です。必ず好機は訪れましょう。」

「戦意を立て直せば状況は変わるだろうが、あの姫君が捉えられたのなら、民の落胆は大きいだろう。」

「ストレンジの姫君はことのほか民に慕われていますから、不安が渦巻いています。国は中心を失った独楽のように揺らいでおりますが、姫君の計らいで王は無事に宮殿を脱出され、山林の地下に潜伏しております。姫君は民のために自ら進んで囚われの身となったということです。現地ではすでに救出作戦は進んでおります。何と言っても彼ら自身の宮殿です。自らの手のひらで行う作戦ですから必ず成功するでしょう。我ら大陽族の連合軍もまもなくストレンジに展開出来るでしょう。必ず勝利して見せまする。」

「頼むぞ、タウ将軍」

「吾ら太陽族の意にかけて。」タウ将軍は胸に手を当てて敬礼をしました。

「吾ら太陽族の意にかけて。」王様は太陽族の符牒を合わせて返礼します。

 

王の間に血相を変えた物見台の伝令が飛び込んで来たのはその時でした。二人がくつろいで肩の力を抜いた矢先でした。慌てふためいたまま礼も忘れて報告したのです。

「申し上げます、王様。」

「どうしたのじゃ。何を狼狽えておるのだ。しっかりしろ。」

「はいっ、」伝令は直立して敬礼しながら続けました。

「四半の空に得体の知れない巨大なか、、怪物が現れました!」

王様とタウ将軍は伝令の話しを聴き終わらないうちに王の間を飛び出し、物見の塔に登りました。伝令は二人の後を追って息を切らせながら天を指さしました。

「あれです!」

「何だ!あれは!」

伝令に言われなくても見上げれば不気味な巨大怪物が空を占有しているのが分かります。全てが靄にかすんでぼんやりとしか見えませんが、タウ将軍は目をこすりながら空を食い入るように見上げました。得体の知れない物体は空気の色に溶けて半透明の幕の広がりにも見えます。王様の星が発する光を受けて点滅を繰り返しているので、辛うじてその輪郭が分かるのです。その大きさたるや、四半の空を覆い尽くすほどです。その物体はまるで生き物のように動いているではありませんか。チカチカしているのは、動く度に反射する光だったのです。眼が慣れてくると、それは猫のようにも見えるのです。そしてこの得体の知れない怪物は明らかにこの星に向かってきているではありませんか。胆力のないものだったら、天を覆うこの化け物の姿を見るだけで腰を抜かして動けなかったでしょう。

しかし王様は決してひるみません。万一に備えて黄金の光芒を最大限に広げました。まるで孔雀が羽根を広げたようにです。そして冷静に相手の動きを見つめている姿は、物見達の目に強い安心感を与えているのです。

「あんな化け猫は見たことがありませんな。」タウ将軍がうめくように言いました。

「巨大すぎる。考えられない大きさだ。あるいは異次元世界の生き物か。それにしても猫に似ているのがなんとも奇妙だ。」

かすみの中を化け猫が進んできます。はるか彼方の宇宙空間にいるはずなのに、その姿は四半の空がいっぱいになるほど巨大な姿をしているのです。この大きさなら、原子系の星々が丸ごと飲み込まれてしまうかもしれません。まぼろしでないのなら恐るべし怪物というほかはないのです。いかに太陽族の王と言えど、そうなったら防ぎようがないでしょう。それは王様もタウ将軍も空を見ただけで分かりました。しかも逃げ道はないのです。

「危害を加える様子は見えないが。。しかしあれが魔法使いの仕業なら、奴らの本当の目的はここなのかも知れません。しかしそうだったら厄介ですぞ、王様。」

「とにかく、我々に敵意のないことを示すのだ。」王様が重々しい言葉で言いました。

「奴に通じることを祈るばかりです。」

タウ将軍は合掌して王様に一礼すると、台座をしつらえ四隅に結界をはって王様を迎え入れました。王様は台座に座り、両手を膝の上に開いて印を結びました。そして静かに目を閉じたのです。

タウ将軍は王様の瞑想を見守り、やがて自らも台座を背にして、足を組み両手を重ねて瞑想を始めたのです。すると二つの気が絡まりあい増幅されて空間に拡がって行きました。心が甘くほどけて行くような波動が、かすみの怪物に向かって放たれたのです。二人の発する波動は、心を花園に誘うような効果がありました。たとえ怪物に敵意があったとしても、いつの間にかとがった心は丸くなるに違いありません。

けれども、二人の瞑想は長く続きませんでした。空を監視していた物見の声に妨げられたのです。

「怪物の後ろにさらに別の黒い物体が見えます。」

「今度は何だ。」

瞑想を解いて王様が立ち上がりました。タウ将軍も足を解いて王様に従います。物見の指さす手がふるえていました。怪物の背後には、さらにうっすらと巨大な黒いかたまりが見えるのです。もし怪物が先陣部隊だったら、そしてあれが無数の宇宙船だとしたら、ストレンジ星を占拠した反乱軍がついにここまで攻め入ってきたということになります。黒いかたまりは雲のように動いて、奇妙な隊形に変化しながらこちらに向かって来るのです。これでは先発の怪物を懐柔したところで何の意味も無いでしょう。

「王様、あの黒いものは間違いなく魔法使いの船団ですぞ。あのネズミのような隊形がその証拠です。奴らがついにここまでやってきたのです。」

「あれがそうなのか。しかし、わずかな時間であのような船団を組織できるものなのか。一体どれほどの力を持っているのだ。その魔法使いというのは。」王様の眉間に深い皺が刻まれています。

「懐柔策はよもや通用しないでしょう。こうなった以上戦うしかありますまい。王様、一刻も早く全軍の出撃命令を下して戴きたい。全て駆逐して見せましょうぞ。」

「やむおえぬの、タウ将軍。よく言ってくれた。これ以上躊躇することはなかろう。これよりそなたに全軍の指揮を命ずる。一兵たりとも我が原子系圏内に入れてはならぬ。」

「承知。」

タウ将軍は胸に手を当てて敬礼しました。

 

その時でした。三度、物見の声が尖塔に響いたのです。

「怪物の後方、黒い軍団から攻撃が始まりました!」

「何だと!」

タウ将軍が目を向けた四半の宇宙空間に、槍が何本も打ち出され、その金色の航跡が糸を引くように見えているのでした。

「反撃だ、将軍、遅れをとるな。」

「お待ちください、王様。」

「どうしたのだ。」

「あの航跡を見てください。」

「それがどうしたのだ。」

「あの槍はこちらに届きますまい。おそらく目標は・・・」

将軍の目は確かでした。黒い船団から発射された金の槍はその手前にいる化け猫に襲い掛かったのです。

「仲間割れなのか。」

「いえ、明らかに一方的な攻撃のようです。猫の方はふいうちでしょう。防御の体制が見えませぬ。」

「猫は敵ではないということだ。」王様がつぶやきます。

「槍が化け猫に命中しました。深手で、もがいているように見えます!」物見が報告しました。

「猫を助けましょう。」タウ将軍がたたみかけて王様に奏上しました。

「そうだな、目にもの見せてやろうぞ。」

 

王様は扇形に広がった黄金の光芒を自在に操り、迷うことなく全弾を黒い船団に向けて発射したのです。それは中空で黄金の槍となって黒い集団に向かいました。

ところがその刹那、さらに不思議なことが起こりました。巨大な猫が忽然と消えたのです。

「猫が消えました!」物見の声が響きます。

「遅かったか。」助けられなかった悔しさが王様の言葉ににじみ出ていました。

しかし黄金の槍は進路が定まると、目標まで光速で飛ぶのです。黄金色の無数の光芒が、猫のいたはずの上空をかすめてあっという間に黒い船団に襲いかかったのでした。

これが反乱軍に対する太陽族の宣戦布告となったのです。

 

 

 

 


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