のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗31(新スケール号の冒険)

2021-06-08 | 物語 のしてんてんのうた

(31)

バリオンの王宮では、スケール号とお別れの大宴会が催されていました。いまさらですがバリオンの王様はどうやら派手好みのようです。それは歓迎パーティの比ではありませんでした。国中がお祝いムードのお祭りです。巨大な天空のドームの下に設けられた、円形の舞台では様々な種類の楽団が明るい音楽を披露し、華やかな衣装を身に着けた舞踊集団が競うように踊りだしました。鳴りものの音が絶えず、盆踊りのような国民ダンスが三日三晩続いたのです。外では見たことの無いパフォーマンスや光の祭典がもこりん達を夢中にさせましたし、テーブルに並べられた毎回の料理は日毎ぐうすかの眠りを妨げました。

「王様、ありがとうございました。おかげでのぞみ赤ちゃんの憂いは消えました。一刻も早くその健やかな姿を見たいと思いますので、出発いたします。」

「そうか、礼を云うのはこちらの方だ。スケール号の力がなかったら、バリオンの宇宙はどうなっていたか分からぬ。助けられたのは我々の方だ。」

「王様、これもみな、宇宙語の力だと思います。」

「そなたたちのおかげで、なんとなくその宇宙語というものが分かった気がする。我々は空でつながっているということだな。ひと族として。」

「はい、空は波動で満ちています。そして私達には共有する命の波動があるのです。」

「呪術の奥義はの、冷たい波動の中から心地い波動を選別して増幅させることなのだが、なぜ心地よい波動があるのか、なぜそれを心地よいと思うのか。おかげでその正体が見えたのだ。」

「おうそれは良かったです。それは何か、お聞かせ願えますか王様。」

「心地い波動とはこの命の連鎖のことだったのだ。まさに命の波動。この波に乗れば、心は最初の一滴から最後の一滴が満ちるまで、くまなくいきわたって宇宙そのものになる。つまりの、この宇宙は心地よいということなのだ。」

「宇宙は心地よい、それは命そのものを体感しているからだというのですか。つまり心地よいというのは命そのものが持っている波の味わいだと?」

「そうじゃ、たとえ辛い波動に出逢っても、それは心地よい波動に変えられるという大いなる保障でもあるのだ。」

「どんな心でも、必ず心地よい波動に合成することができると?」

王様は無言で肯きました。

「呪術を行う時、選別して辛い波動を捨ててきた。しかしそうではないと分かったのだ。これは大事な気づきであった。」

「それは?」

「辛い波動こそ逃がしてはならぬ。それをつかまえ、心地よい波動に変える力こそ、よき力を増幅させる真の力なのだ。嫌がるだろうがタウにも教えねばな。」

「今回は嫌がりません。王様。」

「何だ、いたのか。」

「王様の人の悪いのは変わりませぬな。私が後ろにいるのはご存じだったのでしょう。」

「まあそう言うな、それより今回は見事な働きであったぞ。タウ将軍。」

「将軍としてほぼ何もしておりません。しかしそれでよかったと思えるようになりました。」

「ならばもう少し、呪術に力を入れてもよかろう。」

バリオンの王様とタウ将軍の話しが熱を帯びて来たので、博士はそっと二人のもとを離れました。

博士は王様の呪術の話しにだんだん付いて行けなくなって、話を打ち切る思案を始めたところでした。そのタイミングで出してくれた王様とタウ将軍の助け舟だったのかもしれません。二人の話を聞きながら、ふと博士は「宇宙は心地よい」という王様の言葉だけがしっかり心に刻まれているのに気付いたのです。

 

次の日、スケール号はバリオンの王宮を飛び立ちました。

物見の塔には王様とタウ将軍を先頭に主なる重鎮がスケール号を見送ってくれたのです。

出発間際に、王様がやってきて揺りかごを覗き込みました。

「うっキャー、バブバブ」

北斗艦長は手足を勢いよく振ってとろけるような笑顔になりました。

「北斗、見事な笑顔だの。そなたのことはいつまでも忘れぬぞ。」

「あぶー、ばぶー」

「これを持っていくと良い。」

そう言ってバリオンの王様が二枚の短冊を取り出したのです。

太陽の紋章を刺繍したオレンジ色の小さな短冊でした。

「さあ、これがそなたの分だ。」

王様は北斗の右手に短冊を一枚握らせました。

「そしてこれが、のぞみ赤ちゃんのお守りだ。」

左手にもう一枚の短冊を渡すと、北斗はぎこちない指を動かしてそれを受け取ったのです。

「だめ!」もこりんが思わず声を上げそうになりましたが、思いとどまりました。というのも北斗艦長はとってもいい笑顔で短冊を受け取り、その両手を自分の胸の上に合わせて乗せたからです。いつもなら、手に持ったものはみな、しゃぶしゃぶしてべとべとにしてしまうのですが、もこりんの心配は取り越し苦労だったのです。

 

のぞみ赤ちゃんに戻って行く道筋はスケール号のお手のものです。艦長が眠っていても道を間違うことはありません。

のぞみ赤ちゃんが生まれる最初の一滴となった原子の世界。そのバリオン系宇宙を出発すると、その原子がどのように結び合って命を紡いでいるのかがスケール号の窓から見えるのです。その結び合う空の力が一つのうねりとなって大きな波となり、のぞみ赤ちゃんの身体に達するのです。それらはすべて空の中で起こっている事であり、空だからこそ存在出来る波動と言わねばなりません。次々に一滴一滴と積み上がって行く過程は、やって来た道のりとは明らかに違った、心地よいリズムの満ちた風景でした。

「宇宙は心地よい。」バリオンの王様の言葉が響きました。

北斗が握りしめている短冊は、のぞみ赤ちゃんの最後の一滴が無事に積み上がることを願っているのでしょう。あたたかく柔らかく、そうです。まさに心地よい光を放っていました。

細胞の世界は、青々として瑞々しい潤いを持っていましたし、ミトコンドリアは悠々と細胞の海を泳いでいます。大きな鼓動が聞こえ。赤い道に入ったスケール号はグングン運ばれていくのです。どす黒い体液はすでに浄化されたのでしょう。きれいな流れに乗って、身体を造る一滴一滴が気持ちよさそうに流れて行きます。

のぞみ赤ちゃんの赤黒い、今にも破れそうだった皮膚はどうなったのだろう。

スケール号は正確にもと来た道を帰って来たのです。薄汚れた泉はとても清潔な色をして、汗腺はまるでオアシスのようになっていました。その水面に顔を出したスケール号が見た光景は、イチゴの上にミルクをかけたようなつややかな皮膚の草原でした。

「やったー、こんなにきれいになっているなんて、」

ぴょんたはもうそれ以上言葉が出ませんでした。カメラが部分から全体に画面を引くように、スケール号が大きくなると、のぞみ赤ちゃんはスヤスヤ眠っているところでした。それも赤ちゃん用のベッドの中だったのです。

スケール号帰還の知らせを受けて、元気な赤ちゃん院の院長先生が両親を連れて駆けつけてきました。

「院長先生、すべてうまくいきました。のぞみ赤ちゃんはもう大丈夫です。」

「ありがとうございます。急に体重が増え始めまして、呼吸も血流も正常になりました。昨日からNICU卒業でこの部屋に変りました。元気すぎて、この分だと平均体重をすぐに超えてしまいそうです。こんなうれしいことはありません。なにが原因だったのでしょうか。」

「見込んだ通り原子レベルの不具合でした。しかしすべてうまくいきました。のぞみ赤ちゃんは誰よりも強く育つでしょう。」

「何とお礼を言ったいいのか・・」

母親は涙を流して言いました。

「これを、」

博士はそう言って抱っこした北斗の左手を母親の手に乗せました。

「かわいい子ですね。」

母親が涙を拭きながら言いました。北斗が手を緩めると、母親の手に短冊が残ったのです。

「これは?」

「のぞみ赤ちゃんのお守りです。どうかいつまでも肌身離さず持たせてあげて下さい。それが必ずこの子を守ってくれるでしょう。」

「ありがとございます。」

母親は短冊を押し頂き、父親は手を合わせて頭を下げたのです。

 

世界探査同盟の白いビルが見えてきました。

もこりんもぐうすかも、それにぴょんたも、食堂のおばさんのことを急に思い出しました。

きっと今日は、皆が大好きなシュークリーム!・・だったらいいな。おばさんミルク忘れてないかな。

 

こうしてスケール号の冒険は終わったのです。

 

「おじいちゃん、おばあちゃん、用意できたから北斗もお願い。」

お母さんの声がしました。

テーブルにケーキが飾られていました。今日はお父さんのお誕生日なのです。お祝いカードには、お母さんに助けてもらって北斗もしっかりありがとうと書きました。もちろん宇宙語でね。

みんながおいしそうにケーキを食べるのを不思議そうに見ている北斗でしたが、

「北斗はこっちですよ。」

そう言ってお母さんが離乳食を用意してくれました。

スプーンで運んでくれる重湯は大好きでしたが、他に緑のものがありました。

冒険は、まだ始まったばかりです。

はじめての緑のものはほうれん草だと分かりました。

口に入れてもごもごしている北斗を見てジイジは、ほうれん草が好きになってくれたらいいなと思いました。

そして北斗の短冊を、とても大切なお守りだからと言って、ケーキを食べ終わったお父さんとお母さんに手渡しました。

 

短冊を持った二人がいつか出逢うことがあったらいいのにな。

ジイジはときおりそんなことを思ったりするのです。

 

ー完ー

 

 

 

 

長い間お付き合いありがとうございました。

作者としての感想はコメント欄を利用して書かせてもらう予定です。併せ読んで頂ければ幸いです。

 


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7 コメント

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ありがとうございました (のしてんてん)
2021-06-08 05:46:27
五次元のイメージが生まれたのは学生時代でした。夢に現れた螺旋を忘れないうちにと書き留めたメモが五次元宇宙論につながりました。
これを最後まで読んでアドバイスして頂けたのが京都教育大学名誉教授だった中村二柄先生でした。
この論文に矛盾はない。しかし内容が理解されにくいので、これを誰にでも分かるような童話に書いてみなさい。
そう言われてスケール号の冒険を書いたのですが、第4話まで書いて頓挫していたのです。五次元宇宙の半分がまだ終わっていませんでした。
ところが初孫のおかげで、第5話の構想が生まれてきました。何よりこのブログによって、書き続ける力を頂いたと思っております。読んでいただける方がいて、その方を裏切ってはいけないという思いが、4カ月の間途切れることなく私の意識を完成に導いてくれたと思っております。応援して頂きました皆様に、心より御礼申し上げます。
中村二柄先生に読んでいただいた のしてんてん系宇宙論が五次元でした。それに合わせた訳ではありませんが、今回の新スケール号の冒険で五話となり、五次元の世界観が宇宙論と重なったことに不思議を感じております。
あらためまして、この物語の行方を見守って頂けました皆様に対して心より御礼申し上げます。

北籔 和
遅ればせながら (人生の素人:折師)
2021-06-12 01:39:23
 (先日は、本当に思慮深い配慮と改良案をくださり…心から、ありがとうございました!! ※当該作品記事への再編集:改良案公開!という形で、案を拝借させていただきました。)

 …中々、コメントが形にならず、そして結果的には赴くままに、答えようと。

 前回の小説より、『目的が分かりやすく、また方向性も一貫で…理解性はとても素晴らしい。そして純粋に良い話という強み 「謎の原因で苦しんでいる女の子の子供を救う。」「大きさ:スケールを自在に操れるスケール号による冒険的ファンタジー」』

 粒子・波・光・空間…小さな世界の集まりが大きな世界を形作り、その感覚を更に広げていこう…。その一助として、感覚を広げる概念を描こう。(逆もまた然り)
 ※個人的な感想ですが。
 それに今も挑み続け、そして歩み続けている。…その真摯さに、のしてんてん様に敬意を。
Unknown (桂蓮アップルバウム)
2021-06-12 04:32:14
そうだったのでしたか、大学時代からすでにスケール号は既に存在していたのですね。
ということは、種を蒔かれた時は
その以前だったでしょう。
その種はどこからでてきたのですかね?

読みながら想像力、創作力の根源を見てきたような感じになりました。
一つのことに長年、粘り続ける持久力には、感服感嘆、尊敬します。
よかったです (のしてんてん)
2021-06-12 08:58:07
意志だけを伝える方法が分からず、でも伝えたいという思いが、あんな形でコメントさせていただいたのですが、正直不安がありました。自分がよしと思っても、それが正しいと限らない。
でも、とても安心いたしましたし、その分喜びが半端ありませんでしたよ。
純粋に、よきものを作るという折師さんの心が、こんなにも人を幸せにするという実証例です。ありがとうございました。
改良作品、楽しみで^す^

スケール号の感想もありがとうございました。今回は書きながら自分の成長する思考が実感できてなかなか充実した創作空間を楽しめました。

胸のつかえがとれた感じです。
良きコメントに感謝申し上げます。
最初の一滴 (のしてんてん)
2021-06-12 09:21:09
自分の中にある世界観を伝えるむつかしさは、60年を経ても実感する難問ですね。今回の創作で光を得たのは、命が生まれる「最初の一滴」という言葉が生まれてくれたことです。これはまさに何度も挑戦する経験がなければなかったものだと思います。
私の思考の種は、おそらく小学生時代の不登校に陥った時代にあります。なぜこんな自分がいるのか。という思いが今も私の心の芯にありますので、この観察は間違いないと思います。
様々な答えが外には用意されていますが、結局自分の心が納得して同意できるかが全てですから、自分で答えを見つけるしかない。
そう思うねですね。
その種のさらに先、を尋ねたら、空に至る。佳蓮さんの進んでおられる道もまた、同じ匂いがいたします^よ^。
感想ありがとうございました。
Unknown (桂蓮アップルバウム)
2021-06-14 01:45:07
最初の一滴
その一滴の前は空だと、
そう言い切ってもらうと、なんだかスッキリしますね。

哲学が美術と混合すると
なんだか、理屈で乾燥した感じを与えますが、
その割合に趣をおくと、
そこに、のしてんてんさまの
匂い、暖かさが表れるでしょうね。

私が進む道、燃えるには
まだまだ道のり遠いのですが、
通訳と平行して
行きたい脇道を見つけました。

いつか、その道のいただきに至れたら
形 を見せることができると思います。


不登校のこと
必然に通るべき道だったのでしょうか。

私も不登校歴史持ってますが、
あの時に持てた罪意識は今も強烈で、
みんなが学校に行っている時間の流れが
長く遅かった覚えがあります。

普通、言いたいこと
出すべきことを全部出したら
魂の抜け殻のようになるのですが、
のしてんてんさまは
既にあった種を長年育て
実になっているものを
世間にただ落としている感じかな。
だから、抜け殻にならないんだ、と思います。

これらのシリースは後世の若者達に、食べるにいいものになるでしょうね。

彼らの心に5次元の空間を与える、その使命はまだまだ燃え続けるでしょうけど。
暖かいお言葉ありがとうございます (のしてんてん)
2021-06-14 09:07:40
正直に申しますと、私の芯には美術や哲学という言葉はないのですね。
ただ知りたい、納得したいという思いだけなのです。絵があって、言葉があって、究極、そんなものもいらない納得だけの境地まで行きたい。うまく言えませんが、自分の心の流れを考えるとそんなことになります。
自分を言葉でとらえると、抜け殻になる体験は何度もありますし、今回の物語も完結すると抜け殻状態ですね。でも、抜け殻になっても、それを見ている自分があるのですから、その自分の方を取って、抜け殻を落としていくのが大事かなと思っています。

でも、今回の物語を、実と言っていただけたことは本当にうれしいです。この実が持っている五次元の味を、新しい味わいだと気づいてもらえたら、私の使命は終わりです。私のやろうとしていることはたったっそれだけのことなのです。


人は時間で見る世界観に留まらないで、スケールで見る世界観を加えた五次元思考に進化できる。
その気づきが伝わればいいのですけれどね。

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