ゆったりと、流れのままに、拾いもしない、捨てもしない・・・。 おもむくままに・・・そして私がいる。
小指を 絡ませた
時間まで さかのぼり
何か 忘れているような
気がしても 訊ねもしない
それは 信頼なのか
それとも 欺瞞なのか
時が過ぎて いつの日か
確かめれば よかったと
後悔するだろうけれど
信じたいという
気持ちの裏返しなのだから
曖昧を とがめない
不文律のなかで
小さな 約束が
明日の 希望となる
手のひらを 眺めていると
この手に触れた
いくつもの 思い出が
悲しみを 連れてくる
悲しさと 連れ添って
この手で受けた
涙の粒を
思い浮かべることなど
ナンセンスと
判っているのに
隙があれば
過去を 手繰り寄せようとする
心というものは
不自由な 存在だと思う
今 楽しくても
幸せでも
寂しくても
腹立たしくても
そして
自由を手にしてる今も
積み重ねた 過去は
心を 容易には
解放してくれない
この呪縛から
逃れるには
手のひらを 不用意に
眺めて 思い沈む時間を
持たないこと
軽やかな 羽根を
付けてくれる 天使を
ひたすら 待つこと
待つだけで終わる日
の多さを
嘆きて
まるで
恋する少女のように
好きな歌を
口ずさみながら
通りを 抜けて
山手の 植物園へ
あゆみは ほぼスキップ
沢山の花たちと
夢の話を さんざめき
沢山の花たちと
ゆめのひみつ を
すこし わけあう。
それは 恋する少女に似て
たわいもなく
不確かな
約束もない 夢物語
花たちは 曇り空を
忘れて
少女の夢を
さえぎらない
曇り空からは
やがて 涙の粒が
あふれ出すのを
知っているけれど
憧憬に満ちた
時間が 流れて
現実の時間が
夕暮れを 運んでくると
浮かれた思いを
少し 後悔しながら
明日へと
身構える
少女の時間は
瞬く間に 過去になる
傷つくことを 恐れて
すすむことを
戸惑うとき
逸(はや)る轡を
引かれて
前足を 振り上げた
駿馬の姿 そのままだと
思った
人は 誰にも
轡を引かれることはない
心にはめられた
目に見えない轡を
引かれたり
緩められたり
その先の
手綱を 握るものは
姿を見せずに
こころの ありようを
操っている
言葉にするのを
我慢していると
我慢するのが
いいことのように
思えて
どんどん
何も言えなくなる
静寂を 破るのは
罪だというように
責める気配がするので
もう少し
もう少し と
何も言わないでいると
うたを忘れたカナリヤ
になって
言いたかったことも
どこかへ
飛んでいって
我慢する前に 戻って
素直に 話せるには
きっと
大きな決意と
さりげない
きっかけが
必要なのだ
たとえば
おはよう とか
今日の
お茶はおいしいとか
今日一日の
梨のつぶて
持て余して
身の置き所さえ
みうしなう
急に 自分の姿が
滑稽に見え始める
まっすぐ お日様に向かって
顔を 向けて
まるで 向日葵のように
堂々と 生きていると
そんな 自分の姿を
好きなのだと 思っていた
けれど 本当は
木陰がすきで
心の襞を いたわりながら
静かに 憩っているのが
自分らしいということを
しばらく忘れていた
自分らしさを
取り戻すために
少しの 音楽と
優しい言葉と
誰にも邪魔されない時間
それだけが
今 欲しいもの
不確かなことを
確かめるように
覗き込む
覗き込まれた心は
勿忘草の陰で
息をひそめる
不確かなことは
そのままがいい
真実は 思っているより
過酷なことが
多いものです
勿忘草が 耳元で
ささやく
時間が 足りない
沢山やりたいことがある
やりたいことを
できない と思うと
それが さらに
大きな 切望となって
渇望の域になる
まずは 出来ることから と
人は いうだろう
永遠の命が 約束されるのなら
それもいい
今まで 見過ごしてきたこと
或いは 出来ないと
見切りをつけて
投げていたこと
そんな中に 沢山の
後悔がある
後悔と随行している
おろかな 生き方を
潔しとしない心がある
だから
色々なことを
望まない 振りをして
人並みの 生き方をする
時々 自虐の心が
目をさます。
なぜ 生きたいように
生きないのかと
やりたいことから
やらないのかと
それらは
すべて 土の中に
埋めたと 答える
家々の明かりが
ともり始めるころ
人は 疲れを肩に乗せ
家路を急ぐ
帰りたくない 日もある
帰りたくない 人もいる
決められた ルーティンを
成し遂げる ために
ただ、 帰る
いつも 何をすべきか
わからなくなる 若い心は
迷いを抱いて
巷の 明かりを 恋しがる
迷いだした 心たちは
偽りの 慰めのために
夜の街を 彷徨する
それを ルーティンに対する
反乱と 呼ぶべきか
悩める心も 生きている
生きているから
悩むのだろう
梅雨の 晴れ間に
街を走り抜けて
海辺まで 一気に
その向こうに
見たい ものが
あるなら
たとえ 嵐の中でも
駆けつける 勢いで
捨てなければいけないものを
持っているときは
道端の 花 草木に
語りかけながら
ゆるりと あゆみ
自分を 憐れむ心を
持て余して 涙をこぼし
その先で
平静を 取り戻すために
時間旅行を する
疾走する ドライブも
ゆるやかな 時間旅行も
人としての 感性を
充実させて 生きるための
試行錯誤の
お試しに 過ぎない
このまま で と
あなたは言う
いつまでなのか
私は 訊かない
このまま を こわすと
二人も 壊れてしまう
このまま を 壊す時
沢山のものが 壊れる
だけど
いつまでなのか
私は 訊きたい
訊かないことで
私が 壊れることもある
心の中の 蜃気楼を
恋と呼ぶのでしょうか
行けども行けども
果てしない 大地を
ひたすら 前を向いて
進むとき
突然 浮かび上がる
地の果ての
蜃気楼 のように
不毛の人生で
ささやかな 安らぎを
求める心の中に
突然 湧き上がる
少年のような 純粋な心
切ないばかりの 思いを
恋と
名づけるのでしょうか
のうぜんかづらが
咲き誇り
夏を 演出して
梅雨空の 重苦しさを
払拭する
ひとあし
ゆるりと わたしの
ヴァーチャルな恋が
前進して
頭上で 花が喝采をおくると
風が 枝をゆすぶり
冷静に と 静める
風と ささやきを
交わすうちに
恋のエチュード が
ひそかに
はじまる
小林麻央ロス
突然
心のウイークポイントが
目を覚ます。
愛という言葉に 反応する
最後に
さよならではなく
恐いでもなく
苦しいでもなく
愛してる と
一言だけのこして
逝って しまった人
伝え聞いた 心が
無性にさわぎ
その言葉の 重さを
胸に抱く
いつか その日がきたら
別れの言葉の代わりに
愛してる と残して
潔く 去りたいなどと
思ったりする。
§小林麻央さんの訃報に接し§
どんなに 向き合って
手をつくしても
旅立つ時が いつかはくる
この 切ない 現実
病魔から
解き放たれることなく
愛する人と 別れて
旅立った
あなたを
哀しむ
受け入れがたくて
涙は 胸から あふれ
急流となって
奇跡の石を 呑み込んだ
しばらくは
無常の 思いに
身を沈め
あなたを 哀しむ日
となづけて
梅雨空を ながめていよう