テレビ局時代の話。ズームイン!!朝!の熊本のプロデューサー、ディレクターを10年近くやっていました。ズームイン!!朝!は朝から生中継の番組です。
カメラは2つ(時々3つですがその場合はカメラマンなしでカメラが置いてある)で1億円もする中継車に音声、映像、VTRをチェックする技術スタッフがいつもいてキャスター、FD(フロアディレクター:キャスターにディレクターの指示を伝える人)、ディレクターと制作の最低3人をいれていつも総勢スタッフは10人はいます。とはいっても地方の民放ですからスタッフ満足度は日テレの半分、NHKの3分の1です。
あるとき夕方のニュース番組でも中継コーナーをやろうということになりましたが人がいません。そこでカメラは1台だけでやることにしました。キャスターやディレクターからカメラ1台ではどうにもならない、中継するには最低2台ないと切り替えも出来ないなどと文句が出ます。しかし当時のHプロデューサーは頑と譲らずそのまま走りました。わたしはこのときにカメラ1台の面白さを発見しました。2台あるといい所だけを2台で切り替えるという発想です。1台だと切り替えが出来ないのでキャスターとしては手元を紹介している間に次の動きを決めて「はい、2カメへ」といきたいのです。が、切り替えられないので次の手に行くプロセスが見えてしまいます。
今までは現場スタッフしか見えなかったそのおどろおどろしい動きが熊本県内の視聴者に見えるのです。その時の人間的なあまりに人間的なカメラワークを見て「これはいい!」と決めました。今でも住民ディレクターは三脚を使わずカメラを持った人の動きにまかせて撮影するのはこの経験が大きく影響しています。しかも中継ですからやり直しがききません。これほど面白いテレビ中継はなかったのです。キャスターがとちったりかっこつけて澄ましているところに変なものが映って困ってる顔がでたり、「なんてこいつは人間的なんだろう!」とわたしは魅力再発見するのですが当の若手女子アナは困り果てています。
この中継の評判が良かったことも女子アナには不満です。裏返しなんですね発想が。住民ディレクターの豊かな発想はこうしてひとつひとつの困難、艱難を越えて創っていく楽しさから生まれます。これが地域づくりの仮想現場になっているのです。