梅も寂しい思いをしていたのであろう。
女の24歳と云えば、その当時はもう嫁に行っている年頃である。
子供の一人や二人はいる年だ。
嫁の貰い手もなく、女中奉公をしなければならない自分の身を、夜な夜な思い悩んでいたのであろう。
そこへ、利発そうな可愛い男の子が現れた。
自分の弟のような、その少年の生い立ちを聞いて、梅は心から彼を不憫に思ったに違いない。
その子供が、厳しい養父に怒られて、夜中に寒い外へ放り出されてしまった。
「可哀想に・・・」と、梅は思った。
そして、思わず耕一を自分の部屋に引き入れ、そして一緒に寝ることになってしまったのだ。
耕一の冷えた身体を、自分の身体で温めているうちに、若い女の欲情が突然目を覚ましてしまった・・・・。
恵まれぬ人生を生き、寂しい思いをしている二人が、お互いの暗く深い心の闇を慰め合いながら、寒い月夜の晩に抱き合うことになってしまったのだ。
それはやはり、女神様の御計らいであったのかも知れない。
「機関長! 発電機がダウンしそうだぞ!」
いさり火を眺めながら、少年の日の月夜の思い出に耽っていた耕一は、漁師の叫び声で我に返った。
集魚灯に、電気を送り続けている発電機が、異常音を発していた。
腕時計を見ると、時計の針は夜中の12時を回っている。
20数本の集魚灯に、6時間以上も電気を送り続けている老朽化した発電機が、悲鳴を上げているのだ。
耕一は、こんな事もあろうかと思い、 あらかじめ整備していた予備発電機を稼動させた。
集魚灯の明かりが煌々と輝く中で、サバを釣り続ける房丸(ふさまる)の30人近い漁師は、握り飯をほうばりながら、釣竿を更に振り続けた。
この夜も、山本船頭の房丸は大漁であった。
明け方近くまでサバを釣り上げ続けた房丸は、昇る朝日を背に、大漁旗を翻して千倉漁港に向かった。
漁港で水揚げされたサバのほとんどは、仲買人の手配したトラックに積み込まれ、一路、東京の築地市場へと運ばれる。
魚を積んだ10台近くの小型トラック部隊は、房総半島の狭い砂利道を、砂塵を上げて突っ走った。
続く・・・・・。