クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー夏子の父親

2014-11-20 21:28:56 | 物語

その日以来、耕一のネグラは夏子の家になった。

海の男の耕一には、それまで定宿がなかったのだ。

主婦経験のある夏子の作る家庭料理は美味しく、そこには耕一が求める温かい家庭の雰囲気があった。

夕食を食べながら、人生経験を積んだ年上の夏子と世間話をしていると、耕一の心はなぜか安らいだ。

 

 

夏子と出会ってから数日後、耕一はいつものように彼女の家で夕食を取っていた。

娘の恵(めぐみ)も耕一になつき、耕一から時々おかずを食べさせてもらいながら、はしゃいでご飯を食べていた。

その時、勝手口がガラガラと開く音がした。

「あら! 父さんかしら。 あんた、大変、そこから早く逃げて!」

耕一はお膳に慌てて箸を置くと、居間の窓を開け、身を翻して暗闇へ消えた。

夏子は急いで耕一のお膳を片付け、流しに立って何食わぬ顔で食器を洗い始めた。

 

 

「おい、夏子! ここに男が来ていただろう!」

血相を変えた父が木刀を持って入って来た。

恵みがそれを見て、驚いて泣き始めた。

「あら、お父さん、どうしたのよ、そんな怖い顔をして・・・。誰も来なかったわよ」

「ウソをつけ! 最近、若い男がお前のところに入り浸っているって噂だぞ!」

「ウソなんかついてません。誰も来てません」

「噂じゃ、あの機関長らしいじゃないか。あいつは遊び人で評判の男だ。横浜じゃヤクザの組にも入っていたって話だぞ。そんな男と付き合っていたら碌なことが無いぞ!」

「大丈夫よ。私だってもうウブな女じゃないんだから。悪い男に騙されたりはしないわ」

「野良猫のように、コソコソと他人(ひと)の家に出入りする奴は、これで叩き出してやるからな。今度来たらそう言っておけ!」

 

夏子の父は剣道の有段者だった。

戦時中は、陸軍の教練所で兵隊に剣道を教えていた男だ。

彼が木刀で打ち込んできたら、腕の一本など簡単にへし折られるであろう。

いや、急所を狙って本気で打ち込んできたら、命にも及びかねない。 

 

 

 

父が住む屋敷は、夏子が住む家の裏手にあった。県道から30m程奥に入った所だが同じ敷地内である。

何か変な気配がしたら、いつでも飛んで来れるのだ。

娘のことが心配な父親は、夜になるといつも木刀をそばにおいて、過ごすことになった。

 

 

続く・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (4)
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