木刀おやじに急襲された日から、耕一と夏子は頑固おやじの気配を気にしながら夜を過ごすことになった。
しかし、木刀おやじが来るたびに窓から逃げるのは面倒くさいし、雨の日などにはずぶ濡れになる。
ましてや、二階の寝室にいる時に、慌てて窓から逃げ出したら、屋根から落っこちる可能性もある。
どこか安全に隠れる場所はないか・・・・と、耕一は思案した。
さて、どこが良いか・・・・と、家中探してみたが、小さな一軒屋では隠れる場所など、どこにもない。
押入れに隠れても、その戸を開けられれば、中は丸見えだ。
畳の下の床下はどうかと、もぐってみたが、寒くて湿っぽくて長居できるものではない。
ある日、耕一は船で使っている大工道具を持って、夏子のところへやってきた。
そして居間の押入れにもぐり込み、その天井板をはずして、すぐ上にある二階寝室の押入れに上がった。
更にその天井板をはずし、屋根裏へ上がるルートを確保した。
忍者が屋敷へ忍び込む時に利用する屋根裏を思い出したのだ。
この逃走ルートを確保しておけば、一階居間で食事中でも、二階寝室で休んでいても、おやじの急襲にはなんとか対応できるはずだ。
それにしても、まさか機関長が屋根裏へ逃げ込むとは、木刀おやじには想像も出来ないであろう。
人間、必死になって考えたら、妙案は出てくるものだ。
それから数日後のことだ。
夕食を終えた二人が、「今晩は大丈夫かなぁ・・・」と云いながら二階に上がり、一緒の寝床に入った。
早めに寝かしつけた恵みは、もうスヤスヤと気持ち良さそうな寝息をたてている。
敷き布団に腹ばいになった耕一が、タバコを吸おうとして灰皿を引き寄せた時だ。
ギシギシと、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
合鍵を持っている父親が、裏口の戸を開けて家の中へ入ってきたようだ。
「おい、夏子、おやじさんが来たぞ!」
耕一は低い声で囁くと、下着姿のまま布団から抜け出し、脱いだ衣類を抱えて押入れに飛び込み、素早くその戸を閉めた。
耕一が押入れの戸を閉めると同時に、寝室の反対側の戸がガラガラと開けられた。
夏子が慌ててその方を見ると、左手に愛用の木刀を持った父親が、暗い廊下で仁王立ちしているのが見えた。
続く・・・・・。