クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー末松の踊り

2014-11-12 22:51:14 | 物語

智子は、大きな澄んだ瞳で耕一を見つめながら云った。

「耕一さんは、お暇な時は何をしていらっしゃるのですか?」

「まあ、色々だね」

耕一はタバコを吸いながらボソッと云った。

 

耕一は、智子のような若い女が苦手であった。

苦手というか、話をしていてもドキドキしないのである。

穢れを知らぬ、苦労知らずの智子のような箱入り娘には、全く興味が湧かないのだ。

相手がいくら美人で愛嬌があっても、心のどこかが覚(さ)めていた。

耕一と智子はほぼ同年代であったが、その育ってきた環境はあまりにも違い過ぎた。

 

天蓋孤独の耕一は、12歳で女を知った。

そして18歳で横浜の遊郭で女と生活した。

短期間とは云え、ヤクザの世界にも足を踏み入れた。

そんな男が、世間知らずの小娘と話をしていても面白いわけがない。

耕一は、智子と目を合わそうともしなかった。

 

 

だが、そんな二人に関係なく、海の男達の宴会は次第に賑やかになって行った。

酒に酔って良い気分になった船頭が、得意の歌を唄い始めた。

千倉の海祭りの歌だった。

女将さんが歌に併せて、合いの手を入れると、他の男達も手拍子をしながら唄い始めた。

すると、上半身裸になった若い男が、座敷の真ん中へ出て踊り始めた。

陽気に踊り始めたのは、あの末松だった。

他の若い男達も、つられて踊り始めた。

やがて、踊りの中心にいた末松が、次第に智子に近づいて行った。

智子がアレッという顔をした。末松に気が付いたようだ。

「やあ智ちゃん、久しぶりだなぁ。えらいベッピンさんになったなぁ。俺達と一緒に踊ろうぜ」

酒に酔った海の男末松は、気が大きくなってしまったようだ。

踊りながら近づいてくる末松を、智子は呆れ顔で見つめていた。

 

 

 

「おい末松、いい加減にしろ! あんまり調子に乗るんじゃねえぞ」 

それまで赤い顔で歌を唄っていた船頭が、突然唄うのを止めて怒鳴った。

「親父さん、すんません。若い衆が羽目を外しちまったようで・・・・」

船頭は船主に謝ると、末松達の方を向いて云った。

「今日は船主さんのお陰で、すっかり良い気分にさせてもらったな。今夜はこれでお開きとさせて頂くぞ。まだ飲み足りない奴は俺について来い。街へ繰り出すぞ」

 

そんな海の男達の様子を、耕一は覚めた目で眺めていた。

 

  

 

 

続く・・・・・。

 

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする