クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー分け前

2014-11-06 16:30:10 | 物語

4月から6月にかけての、春季出漁期間が終わった。

出漁期間が終わると、船主から船の乗組員(漁師)達に報酬が配られる。

その報酬は、出漁期間の漁獲高(売上金)によって決まる。

山本船長の房丸は、千倉漁港の船の中では一番の水揚げ量であったから、房丸の漁師達は応分の報酬が貰えることになる。30余名の海の男達が嬉々として船主の屋敷に集まって来た。

広い座敷の床の間を背にして、船主が上機嫌で座っていた。

彼の頭上には、大きな大漁旗が張られている。

船主の横で、番頭が帳簿を確認しながら、畳の上に札束の山を作っていた。

真ん中に一番高い山があった。山本船頭の取り分だ。

その右横に、船頭の三分の一くらいの山が作られていた。機関長である耕一の取り分である。

その他の漁師達の山は、耕一の半分程度であった。

因みに、その時の船主の取り分は、水揚げ収入全体の4割であった。

従って、船頭以下乗組員の取り分は、残りの6割ということになる。

その6割を、皆で山分けするのである。

 

 

番頭が札束の山を並べ終えると、船主が立ち上がって挨拶をした。

「皆の衆、大変にご苦労であった。今年の春の漁は、天候にも恵まれ、また、潮の流れも良く、お陰で大漁であった。春サバは東京の市場でいい値で売れたので、満足のいく収入となった。

これから、番頭から手当てを配ってもらうが、前借している者の分は差っ引いてあるから、そのつもりでいてくれよ。

それから、お酒と料理を用意させてあるから、今晩はゆっくりしていってもらいたい」

船主の挨拶が終わると、番頭が報酬を配り始めた。

「それでは山本船頭からです。大変にご苦労様でございました。また秋の漁には宜しくお願い致します」

番頭が平伏して、一番高く詰まれた札束の山を船頭に渡した。

「これでしばらくのんびりできるよ。女房と草津温泉にでも行ってくるかな。

まあそれにしても、新しい機関長が良く働いてくれたので、船のトラブルもなく良い漁だった」

船頭は、横にいた耕一の肩を笑顔でポンポンと叩きながら、札束を紙袋に入れた。

 

 

突然、若い男が大きな声を出した。

「おい、番頭さんよ。俺の取り分はこんなに少くねえのかよ。ちょっと帳簿を見せてくれ」

「末松さん、あんたには前貸金がこんだけあるんだぜ。利息は取ってねえから有り難く思え。これからは、あんまり夜遊びしねえこったな」

番頭が帳簿を見せながら、若い男に云った。

その他にも、前借した男が数人いて、帳簿とにらめっこしながら、少ないお札を真剣な顔で数えていた。

 

皆に手当ての分配が終わると、奥座敷の襖がサッと開いた。

「さあさあ皆さん、お酒の用意ができましたよ。今夜はパーとやりましょう!」

船主の女将さんが明るい声で、海の男達を奥座敷に招き入れた。

「船頭さんと機関長、こっちへどうぞ」

床の間を背に座っていた船主が、二人に声をかけた。

船主の脇には、一人娘の智子が艶やかな着物姿で座っていた。

 

 

 

 

続く・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (7)
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