ユングとスピリチュアル

ユング心理学について。

ユング 「霊の信仰の心理学的基礎」 を読む。ユングスタディ報告

2021-08-31 01:08:26 | 心理学

ユング心理学研究会

ユングスタディ報告

2021年8月5日 特別企画

ユング 「霊の信仰の心理学的基礎」 を読む

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■ 講読テキスト:

  C.G.ユング「霊の信仰の心理学的基礎」安田一郎訳

        (ライン、ユング他『超心理学入門』青土社、1993.10 所収)            

   ・ 適宜、英語原文、ドイツ語訳文、他の邦訳も参照

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● テキストと背景

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 「霊の信仰の心理学的基礎」は、1919年7月4日、ロンドンの心霊研究協会における英語での講演記録です。翌1920年に協会の機関誌に掲載、ドイツ語訳は1928年に公刊されます。その後、様々に加筆や注釈が加えられて、最終となる1948年版がドイツ語版・英語版それぞれの全集第8巻に収録されています。

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 今回取り上げたテキストは、1920年版の邦訳となる安田一郎訳「霊の信仰の心理学的基礎」です。その他、1948年版の邦訳である島津彬郎・松田誠思訳「霊への信仰の心理学的基礎」も適宜参照しています。本論文の邦訳のリストは以下の通りです。

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 1920年版テキスト邦訳:

  安田一郎訳「霊の信仰の心理学的基礎」

   ・雑誌「imago」特集=超心理と気の科学、1990.3

   ・ライン他『超心理学入門』青土社、1993.10(今回テキスト)

 1948年版テキスト邦訳

  島津彬郎(あきら)・松田誠思訳「霊への信仰の心理学的基礎」

   ・『ユング オカルトの心理学』、サイマル出版会、1986.9

   ・『ユング オカルトの心理学』、講談社プラスアルファ新書、2000.6

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 ユングは心霊的なものと深い関わりを持っていました。母方の女性はほぼ全員が霊媒体質という環境で育ち、1902年の博士論文「いわゆるオカルト現象の心理と病理」は、いとこの霊媒ヘリー・プライスヴェルクについてのケーススタディでした。自身も心霊的気質があり、1916年「死者への七つの説教」の元となる出来事など様々な心霊的体験をしています。「霊の信仰の心理学的基礎」講演の翌年となる1920年には、ロンドンで宿泊した家で霊体験をしており、この時の様子をユングは仔細な記録に残しています。

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● 「霊の信仰の心理学的基礎」の内容

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 霊の信仰は、文明人も含めていたる所で広く認められるものですが、ユングは現代のヨーロッパ人特有の状況として、それを心霊的なものというよりも病的なものと理解することにあると指摘します。続いて、霊の信仰の主要な源として、幽霊を見ること、夢や幻想、心の病的障害、魂の観念などが挙げられていきます。

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 その上でユングは、霊的な現象とされているものは、心理学的には無意識の自律的コンプレックスの現れであるとします。無意識コンプレックスは、私たちの内にありながらも、比較的自我からは独立かつ自律的に活動し、自我の活動を阻害するものとして現れる心の特定の部分のことです。そうしたコンプレックスは、自我にとって異質なものなので外のものに投影されてしまい、私たちにはあたかも外界に存在している独立の存在のように感じられます。外界からやってきて私たちを乗っ取ってしまう「霊」とは、実のところ私たち内部の無意識的・自律的コンプレックスであるわけです。

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 またユングは、自身の心理学理論と重ね合わせる形で、霊(spirit)と 魂(soul)という二つの観念を比較します。喪失してしまうと病気になるのが「魂」であり、これは個人のアイデンティティに関わる個人的無意識のコンプレックスに相当します。他方で、取り入れたり、乗り憑られてしまうと病気になるのが「霊」であり、これは自我を圧倒してしまう集合的無意識のコンプレックスに相当します。従って、「魂」を取り戻すこと、「霊」から離れることが、治癒を意味します。

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 ユングは最後に、霊の実在の根拠とされるものは、一般的には心理的産物として説明できる、とします。霊と呼ばれる事実そのものには実在性はあるが、それをいわゆる「霊」が独立に実在する証拠とすることには保留が必要だ、としてこの講演は締めくくられます。

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● ユング自身による問い

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 後になってユングは、この講演の内容について、いくつかの修正を加えることになります。それはひとことで言えば、「霊」を心理学的に理解するだけでいいのか、という問題です。

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 ユングは、1948年「霊の信仰の心理学的基礎」改訂版の注釈にて、「もはや1919年のときほどの確信は抱いていない」「心理学的な研究だけで問題の現象を正当に扱えるかどうか、私は疑問に思う」と書きます。この時ユングはすでに、いわゆる「共時性」の概念を提唱していて、心と物質とを統一的に扱う観点から、心霊的と呼ばれるような現象が物理的に起きうる可能性も認めているからです。

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 またユングは晩年、こうした霊的な問題については、心理学的解釈よりもあえて「霊」の体験として素朴に受け取る方が、むしろ当人にとって意味のあることにつながるのではないかという考えも示しています。現代では、たとえば東日本大震災に関連し、現地での様々な「霊体験」の報告がなされて注目されています。ユングの視点はこれらの体験を、当人の生との関連でどう受け取るかについての示唆に富むものだと思われます。

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※ 画像は、16世紀の魔術師ジョン・ディーによる死霊の召喚を描いた有名な版画です。


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