写真・ジャーナリスト 東海林智さん
(2024年6月22日連合通信・隔日版No9926より)
働く現場から!!
大久保製壜闘争に見る原点
ジャーナリスト 東海林智さん
「俺たちはロボットじゃない」
そんなスローガンを掲げ、障害を持って働く人々などが差別是正を求めて闘った労働争議が約半世紀前にあった。
「大久保製壜闘争」(1975~97年)だ。争議をけん引したリーダーの一人、労組委員長を務めた杉田育男さんが今年2月、73歳で亡くなられ、6月に東京・葛飾区で偲ぶ会が開かれた。会では争議の記録映画も上映された。筆者もこの集会で約15年ぶりに映画をみたが、改めて争議の先進性、大衆性に労働組合の原点を思った。
舞台は、墨田区の製瓶メーカー「大久保製壜」。リポビタンDなど製薬会社のドリンク剤のガラス瓶などを製造する会社で、争議が発生した当時、身体や知的障害を持つ人などを多数雇用し「福祉(労働)のモデル会社」などと評されていた。その一方、同社で働いていた杉田さんら障害を持つ人たちは、同じ仕事をしながら「障害者」であることを理由に賃金やボーナスで差別を受けていた。さらに日常的に暴力や虐待を受けたり、蔑視の言葉を投げつけられたりしていた。
そんな状況に労働者の怒りが爆発する。75年11月に検査職場の障害者ら36人(健常者3人含む)が、職場での暴力をきっかけに、差別的扱いに抗議して職場に籠城した。妨害に抗して、籠城場所を日本基督教団堀切教会に移し、労組を結成する。10日間、仕事をボイコットして籠城、差別の撤廃と一律2カ月のボーナスを勝ち取った。
しかし、会社側は労務屋を雇い入れ、徹底的な組合つぶしを行った。組合役員の覚醒剤所持をデッチ上げるなどありとあらゆる手段を使った。組合は地域住民や全国の仲間に訴えながら全国一般東京東部労組の支部として闘い続け、97年に全面解決に至る。
感動的なのは、会社が争議をやめさせようと籠城場所に障害者の親を呼んだ場面だ。説得に訪れた親に杉田さんは「自分の子どもが会社からも世間からもゴミのように扱われ、そんな人間になり下がるか、それとも自分で考え自分で行動し本当に人間として生きてゆくのか、自分の子どもがかわいいなら真剣に考えてほしい」と訴えた。親たちは受けいれ、"説得"を断念した。彼らの籠城を炊き出しや運営で多くの市民、労働者が支援した。
仲間を大切にしているか
「イチリーツ(一律)
ニカゲーツ(2カ月)」何度も、何度も叫ばれるシュプレヒコールは、差別を許さないとの彼らの思いの象徴だ。「最低賃金 全国一律1500円」。今、非正規春闘などで非正規の仲間が叫ぶこのスローガンは根底でつながっている。
杉田さんと共に争議を闘った長崎広さんは「今、さまざまな労働の現場で声を上げられずに苦しい思いをしている仲間、障害者、非正規雇用、若者たちにぜひ大久保闘争を知ってほしい。闘えるんだと知ってほしい」と偲ぶ会を企画した意図を話した。
生前、杉田さんは「仲間を大切にしよう。それが私の好きな言葉です」と言っていたという。東部労組の須田光照書記長は「今の日本の労働運動は仲間を大切にしているか」と問いかけた。近年では最高の賃上げと浮かれた24春闘。中小、非正規の仲間はどうだったのか。不当な解雇があってもストも打てないのか・・・・。その問いかけに答えるように、集会の最後には、参加者全員でインターナショナルを歌った。
記録映画「人間を取り戻せ! 大久保製壜闘争の記録」(製作・ビデオプレス)は、同社からDVD(税込み3千円)で販売されている。