2.8独立宣言書
三・一独立宣言に大きな影響を与えた導火線と言われている2.8独立宣言書は明治学院の先輩李光洙が起草します。今日は3月1日です。あらためて謙虚な気持ちで2.8独立宣言書と決議文を読みたいと思います。
1919年1月、朝鮮青年独立団が組織され、2.8独立宣言書と決議文、民族大会召集請願書を作成します。李光洙が2.8独立宣言書を起草します。李光洙は独立宣言書を英訳する際、母校である明治学院を訪れ、かつての恩師であるランディスに添削を依頼しました。李光洙はこれらの文章を持って上海へ亡命し、上海から世界各国に独立宣言文を打電しています。2月8日、東京市神田在日本朝鮮基督教青年会(在日本朝鮮YMCA)会館で開催された「朝鮮留学生学友会総会」は約600人の朝鮮人留学生であふれかえります。朝鮮人留学生(早稲田、慶応、青山学院、東京高師など)は朝鮮青年独立団の名のもとに2.8独立宣言書と決議を採択し、日本政府・各国大使館・朝鮮総督府などに送付しました。独立宣言文決議ののちデモを始めた留学生たちを警官隊が暴力的に襲いかかり約60人も検挙し、10数名が負傷します。その後多くの学生がこの2.8独立宣言書と決議を携え、本国国内の運動に参加しようと帰国します。1919年3月1日、三・一独立運動が全国的に拡大します。3月~5月に独立運動参加者延べ約202万。日本政府は残酷に弾圧します。朝鮮民衆の死者が7,509名、負傷者が15,961名。三・一運動期間中、6月30日までに逮捕され起訴された総数は26,865人、第一審判決で最高15年から最低3月未満までの受刑者が22,275名もいます(朴殷植『朝鮮独立運動の血史』)。
独立宣言書
全朝鮮青年独立団はわが二千万の民族を代表し、正義と自由の勝利を得た世界万国の前にわが独立を期成せんことを宣言する。わが民族は四千三百年の長い歴史を有し、世界最古の民族の一つである。時には中国の正朔を奉じたことはあったが、これは両国皇室の形式的な外交関係に過ぎなかった。朝鮮は常にわが民族の朝鮮であり、いまだかつて一度として統一国家であることを失い、異民族の実質的支配を受けたことはなかった。
日本は朝鮮が日本と唇歯の関係にあることを自覚していると称して、一八九五年日清戦争の結果率先して韓国の独立を承認した。イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、ロシアなどの諸国もまたみな独立を承認しただけでなく、これを保全することを約束した。韓国もまたその恩義に感じ鋭意諸般の改革をおこない、国力の充実を図ったのである。
当時ロシアの勢力が南下し東洋の平和と韓国の安寧を脅かしたので、日本は韓国と攻守同盟を結び、日露戦争をはじめたが、東洋の平和と韓国の独立はこの同盟の主旨であった。ここにおいて韓国はいよいよその好意に感じ、陸海軍の作戦上の援助はできなかったが、わが主権の威厳までも犠牲にしておよそ可能な限りの義務をつくし、東洋の平和と韓国独立の二大目的を追求した。
しかしその戦争が終結するにおよんで、当時のアメリカ大統領ルーズベルトの仲裁によって講和会議が開かれたが、日本は同盟国である韓国の参加を許さず、露日両国の代表は日本の韓国に対する宗主権を任意に議定した。日本はその優越した兵力によって、韓国の独立を保全するという旧約に違反し、韓国皇帝および政府を脅かし、韓国の国力充実によって独立が得られる時期までという条件をおしつけて欺き、韓国の外交権を奪って、日本の保護国となし、韓国をして世界列国にたいし直接交渉する道を断たしめた。さらに相当の時期までという条件で司法・警察権を奪い、徴兵令実施までという条件で軍隊を解散し、民間の武器を押収して日本の軍隊と憲兵警察を各地に配置した。甚だしきは皇宮の警備までも日本人の警察を使用するに至った。このようにして遂に韓国を無抵抗なものにしながら、わが明晳な光武皇帝を放逐し、皇太子を擁立して利用し、日本の走狗をもっていわゆる内閣を組織し、ついに秘密と武力とをもって合併条約を締結した。ここにわが民族は建国以来半万年にして自己を指導し援助すると約束した日本軍閥の野心的政策の犠牲となった。実に日本の韓国にたいする行為は詐欺、暴力から出たものにして、このような詐欺による大きな成功は、まことに世界興亡史上特筆すべき人類の大恥辱といわねばならない。
かの保護条約を締結するとき皇帝と賊臣を除く数人の大臣はあらゆる反抗手段をつくし、その発表の後もわが全国民はみな素手でもって可能な限り反抗した。司法・警察権が奪われ軍隊が解散されたときもまた同じく反抗した。こうして合併の際には、手中に寸鉄の武器をもたず、可能な限りの反抗運動を試みたが、精鋭な日本の武器により犠牲となったものは数知れない。以後十年間、独立を回復するための運動で生命を犠牲にしたもの、また数十万に達した。かの惨酷な憲兵政治のもとで、手足と口舌の自由を奪われながらも、独立運動は間断なくつづけられた。これらによってみても、韓日合併は朝鮮民族の意思ではないことを知らねばならない。このようにして、わが民族は日本軍国主義の野心家の詐欺、暴力のもとに民族の意思に反する運命におかれた。それ故に正義、人道をもって世界を改造するこの時にあたり、その匡正を求むることは当然の権利であり、また世界改造の主人公であるアメリカ、イギリスは保護と合併にたいし率先して承認をしたという理由によって、今日その旧悪を贖う義務がある。
また合併以来の日本の統治政策をみると、かの合併当時の宣言に反し、わが民族の幸福と利益を無視し、征服者が被征服者にたいするような古代の非人道的な政策を襲用し、わが民族にたいし参政権、集会・結社の自由、言論・出版の自由などを一切許さず、甚だしきは信教の自由、企業の自由に至るまでも拘束している。行政、司法、警察などの諸機関で朝鮮民族の私権さえも侵害しないものはない。公的にも私的にもわが民族と日本人との間に優劣の差を設け、わが民族には劣等の教育を施し、永くわが民族を日本人の使役者にしようとしている。歴史を書き改め、わが民族の神聖な歴史的、民族的伝統と威厳を破壊し、さらに凌辱を加えている。少数の官吏を除くほかは、政府の諸機関、交通、通信、兵備などの諸機関の全部あるいは大部分には日本人を使用し、わが民族に永遠に国家生活の智能と経験を得る機会を与えないようにしている。わが民族は、このような武断専制の不正、不平等の政治のもとでは、決してその生存と発展を享受することができない。それだけではない。人口過剰の朝鮮に無制限の移民を奨励し、土着のわが民族が海外に流離するのやむなきにいたらしめた。また政府の各機関はもちろん私設の諸機関にまでもことごとく日本人を使用し、一方でわが国民に職業を失わしめ、また他方ではわが国の富源を日本に流出せしめた。また商工業においても日本人に対してのみ特殊な便益を与え、わが民族にはその産業発展の機会を失わせている。このようにあらゆる方面でわが民族と日本人の間の諸般の利害は互いに相反し、その害を受くるものはわが民族である。故にわが民族は生存の権利のために独立を主張するのである。
最後に東洋平和の見地からみても、かの最大の脅威であったロシアはすでにその軍事的野心を放棄し、正義と自由にもとづき新国家の建設に従事している。中華民国もまた同様である。さらに今後国際連盟が実現すれば、再び軍国主義的侵略を敢行する強国はなくなるであろう。とすれば韓国併合の最大の理由はすでに消滅している。これより、もし朝鮮民族が無数の革命の乱をおこすとすれば、日本に合併された韓国は却って東洋平和を乱す禍根となるであろう。わが民族はただ一つの正当な方法によってわが民族の自由を追求する。もしこれが成功しなければ、わが民族は生存の権利のために自由な行動をとり、最後の一人に至るまで必ずや自由のために熱血をそそぐであろう。これがどうして東洋平和の禍根とならないであろうか。わが民族は一兵ももっていない。わが民族は兵力をもって日本に抵抗する実力はない。しかしながら、日本がもしわが民族の正当な要求に応じなければ、わが民族は日本にたいし永遠の血戦を宣布せざるを得ない。
わが民族は高度の文化をもってからすでに久しい。そしてまた半万年にわたる国家生活の経験をもっている。たとえ多年の専制政治の害毒と境遇の不幸がわが民族の今日を招いたものであるにせよ、今日より正義と自由にもとづく民主主義的先進国の範に従い、新国家を建設するならば、わが建国以来の文化と正義と平和を愛好するわが民族は必ずや世界の平和と人類の文化にたいし貢献するであろう。ここにわが民族は日本および世界各国にたいして自決の機会を与えることを要求する。もしその要求が入れられなければ、わが民族はその生存のために自由な行動をとり、わが民族の独立を期成せんことをここに宣言する。
一九一九年二月八日
朝鮮青年独立団代表
崔八鏞 尹昌錫 金度演 李琮根 李光洙 宋継白
金喆寿 崔謹愚 白寛洙 金尚徳 徐 椿
決議文
一、韓日合併はわが民族の意思によるものでなく、わが民族の生存と発展を脅かし、また東洋の平和を乱す原因となっている。それ故に本団は、わが民族の独立を主張する。
二、本団は、日本の議会と政府にたいし朝鮮民族大会を召集し、その大会の決議をもってわが民族の運命を決定する機会を与えられんことを要求する。
三、本団は、万国平和会議における民族自決主義をわが民族にも適用せんことを請求する。またその目的を達するために、日本に駐在する各国大使、公使にたいし、本団の意思を各自の政府に伝達することを要求する。同時に委員二人を万国平和会議に派遣し、わが民族全体の派遣委員と一致した行動をとる。
四、以上の諸項の要求が不幸にも失敗すれば、わが民族はただ日本にたいし永遠の血戦をなすのみである。これによって生ずる惨禍についてわが民族はその責任を負わない。
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「2・8独立宣言、3・1独立運動と明治学院」資料集
明治学院中学校・明治学院東村山高等学校 社会科教諭
明治学院大学キリスト教研究所 協力研究員
佐藤 飛文
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