部屋の模様替えをした永年放置してあったLPプレイヤーをアンプにつなぎ、書斎のラックからアルバムを一枚とりだした別に何が聞きたいわけではなかったので、たまたま手に触った一枚
ビリー・ホリデイ/奇妙な果実25年ぶりに聞く有名なジャズボーカリストだ泣き叫ぶような声が僕の心を叩く
A面の最後の曲に差しかかった「LOVER.COME BACK TO ME」彼女と別れた後、寂しさを紛らわすために、この曲が . . . 本文を読む
梅雨入りした
昨日からずっと雨が降り続いている湿った空気が家の中まで忍び込んでくる
梅雨の季節は紫陽花の季節でもある
僕は着替えた
赤いポロシャツとチノパン
電車を乗り継いで、とある駅に降り立った
透明の傘を開き、小雨の歩道を黙々と歩くなだらかな坂道を登っていくと、目的の場所に着いた
「あじさい寺」この時期、この寺はそう呼ばれている
小道を辿 . . . 本文を読む
プロローグ
お盆が過ぎた。いつもみたいに窓を開けっ放しにして、布団も掛けずに寝てしまった。明け方、寒さに目が覚め、急いで窓を閉め、布団をかぶったが、遅かった。起きて布団をはいだ途端、寒気が襲ってきて、ぶるぶる震えた。体温を計ると、39.7度あった。急いで医者に行った。9時に開く医院は空いていた。まだ8:00だ。診察は9時だが、扉は開いている。震えはまだ止まらない。なじみの看護師が通りかかった。名 . . . 本文を読む
6
降り注ぐ光の中、カートはゆっくりと走る。やがてテラスのような所に着いた。5段ほど階段を上がると、そこはオープンバーとマリンスポーツのデスクだった。もう、夕方に近いので、マリンメニューはすべて終わっている。人影はない。テラスの上には、木造りの白い屋根があり、そこから落ちてくる光りが縞模様となって、真白いデッキチェアーやテーブルを照らしている。僕は思わず、その光景をCanon Eos1Dに納めた . . . 本文を読む
プロローグ
僕は小浜島の海を見ていた。透き通るように蒼い、海を見ていた。この海に、冬美は眠る。永遠に。5年前、冬美の遺灰を、この海にまいた。漁師に舟を出して貰って、冬美の好きだったプリメリアの花弁を、灰と共にまいた。海面に真白い花が咲き、広がっていく。冬美がまだ健康だったとき、僕らはこの島に来た。透明度の高い海に潜り、色とりどりの魚たちを見た。冬美はマスクの中で目を輝かせていた。美しい珊瑚礁の中 . . . 本文を読む