旅に行かない?
君は突然言った
急に思い立ったようだった
疑うことを知らない僕は答えた
どこがいい?
そうね 京都がいいわ
僕は普段アナログの一眼レフを使っている
仕事用のものだ
しかし、今回は小型のデジカメを買っていった
古都の町で妙にはしゃぐ君を僕は丹念に押さえていった
そして帰りの新幹線
君は再び突然言った
あのね お見合いしたの
だから 結婚するの
今回は卒業旅行ね
いつも彼女のマイペースに振り回されてきた僕だが さすがに驚いた
でも 軽く言った ふうん そうなんだ お別れだね
東京駅のプラットホームで 元気よく手を振り去ってゆく君に
僕は少しばかり心が痛んだ
今手元にデジカメがある
現像するつもりはない
PCに落とすこともない
ただ小さな液晶の中の君を時々見るだけ
その時 見つけた
はしゃいでばかりの君の写真の中に
一枚だけ真っ直ぐ僕を見ているショットがあった
それは怒ってるようにも 涙ぐんでいるようにもみえた
そのとき 彼女の見合いの原因が 僕の煮えきらなさにあったことを知った
僕はもう取り返せない宝物を失ったのだ