鳥無き里の蝙蝠☆改

独り言書いてまーす

【アニメ視聴感想文】不滅のあなたへ シーズン2

2023-07-01 01:34:43 | 感想文
※!!ネタバレ注意

アニメ版を見始めたきっかけは、主題歌「PINK BLOOD」が宇多田ヒカルによるものだからだった。シーズン1公開当初にチェックしていたが、確かジャナンダ辺りの記憶が無かったのでおそらく何かしらの理由で見なくなっていたのを、その辺りをおさらいして今し方シーズン2を視聴し終えた。ここ一週間ほどで。ちなみに聲の形も三度目ぐらいになるけどもう一度見た。

鬼滅の刃、呪術廻戦、チェンソーマンなど、昨今では作画に力が入っている作品が多く、中でもチェンソーマンは特に凄かったね。決してこれはアンチ的なレビューではないことを先に書いておくんだけど、鬼滅の刃やチェンソーマンは暇つぶしとしては退屈しないかなって思った。声優の演技力も絵の力も半端じゃないんだけど、ただ綺麗で動かせば良いってものじゃない。だからいち消費者としては「めちゃ面白い」とは思えなかった。

ここ数年で面白いと思った作品は「メイドインアビス 」「映像研には手を出すな」「Dr.Stone」。きっかけは知人の勧めもあるけど、自分がこのアニメを観ようと思う時はそのほとんどが岡田斗司夫さんの紹介動画。不滅のあなたへシーズン2全話公開からだいぶ経った今チェックしようと思ったのも、結局のところ聲の形の作者大今良時さんを岡田さんが絶賛している動画を見て思い出したかのように「そういえばシーズン2見てないな」と思ったところからである。

「不滅のあなたへ」のアニメは、実際のところ鬼滅の刃やチェンソーマンに比べて作画コストがかかっているようには見えない。平均からすればめちゃめちゃ動いているけれど、昨今の作画おばけアニメを見慣れた人からしたら「なぁんだ大したことないじゃん」みたいな感想を抱かれてもしょうがない。ちなみに言えば、作画が良いに越したことはないがキャラデザが崩れても楽をしてくれてもなんとも思わない派である。尺稼ぎはイラっとするけど、必要な演出に足りた絵ならば良いと思ってる。

過去の記事でも似たようなことを言っているが、僕は一貫して「色気に頼ってない」ことをものすごく評価する。色気要素が欲しい時はその方面に尖った作品を摂取するから別腹である。可愛さや格好よさにも種類があるし、そのこだわりっぷりに唸る時ももちろんある。不滅のあなたへに対しては「物語」としての部分を極めて評価している。大今良時さんの作品はグロテスクではない汚さや醜さ、ホラーではない"怖さ"の描き方が凄まじくて、この感覚は少し洋画の「セッション」に似ている。この"目を背けたくなるような"感覚は漫画でも映画でも見る人をガツンと殴ってくれるし、時に滅多刺しにしてくれる。画面を超えることなど本来はあり得ない痛みや、つんとくるような臭さまで香ってくる気がしてくる。こうした演出が凄まじい作品が見たいし、そういう部分に唸りたい。うまく言語化できない自分の拙さがもどかしいが、こうした作品からしか摂取できない栄養素が、エンターテイメントとしては極めて優れている鬼滅の刃やチェンソーマンなどからは摂取できないような気がしている。

海外ドラマ「ゲームオブスローン」の面白さは、"最後に誰が生き残っているか分からない"という"読めなさ"と圧巻のスケール。次の瞬間誰が死んでいてもおかしくない展開の連続。「不滅のなあたへ」でも"読めなさ"による面白さが得られた。ボンがまさかあそこまで重役だとは思わなかった。演じている声優の知名度によってある程度のメタ読みができてしまうのは致し方がないとは言え、シーズン2終盤の展開はまるで読めなかった。これに関しては自分がアホなだけだったからかもしれないが。

今の数秒のシーン必要だったか?と思うようなシーンが殆ど無かったのもとても評価したいポイント。物語に影響しないキャラクター同士のクソみたいなぷち漫才が個人的にかなり嫌いなのだが、不滅のあなたへでは伏線の細かさが凄まじく、しかもそれらがきっちり回収されていく。その後一切登場しないキャラクターは殆どいなかったように思う。なので数秒の何気ないぷち漫才がいかに意味無さげに流れていっても目を離せないという状態は、構成がとても良くできている証拠なのだろうと思った。ミステリーでは当然の技法(?)だろうけど、展開の予想が気になるというフックが効いていなければそれはまるで効果が無い。「この人が生き残るとしたらその理由は?この人はなぜこのタイミングで死んだ?」視聴者は釘付けになればなるほど勝手に推測しようとしてくれる。彼らが叩き出した自信満々な予想を裏切れば裏切るほど、悔しいと同時に痛快でたまらなくなる。

観測者のCVは津田健二郎。僕は彼の大ファンであり立派な虜である。そしてOPを宇多田ヒカル、彼女の大ファン。シーズン2のEDを浜渦正志、彼の大ファン。僕をとことん殺しに来たのかと思うようなキャスティング。漫画のアニメ化というのは見方を変えれば色をつけ音をつけ動くようになった紙芝居のようなものである。オープニング曲もエンディング曲も能力の高い声優を選ぶのも、絵画の価値を損なわないまたは高めるために用意する額縁、つまりアニメ化はいわば"装飾"のようなもの。宇多田ヒカル浜渦正志津田健次郎、他豪華声優陣などは突き詰めてしまえば物語の質には干渉できない。彼ら彼女らの手がけた不滅のあなたへでの音楽や演技は大変素晴らしいし、一言で言えば最高だが、それらすらおまけと言っても過言ではないほど不滅のあなたへのストーリーは面白かった。どえらい豪華な"装飾"に全く劣らない内容。強烈で重厚で繊細で、五感にザクザクとくる。

一番好きなキャラクターはピオラン。そしてそういう風に描いた作者の演出が最高に愛おしい。泣き喚いてじたばたしたり悔しがったり落ち込んだりするという風には一切描かず、死の直前になって初めて「こんな老いぼれではなく、もっとフシの役に立つ者へと生まれ変わらせてくれ」と観測者へ命令することによって「こんなにもフシの役に立ちたいと思う者が自分のような老いぼれなのか」という悔しさや憤りが明らかになる。老いの醜さと美しい器と、静かな言葉なのに強い思いが描かれたあのシーンを生涯忘れることは無いと思った。不滅のあなたへのアニメであそこが個人的な最高のシーンだった。

人間の永遠のテーマである"老い"。生きることとは?死ぬとは?魂とは?記憶とは?伝え継ぐとは?

死んだ者を生き返らせることができるようになったことで、生きていることの価値は揺らぐのか?死ぬことのリスクがゼロになったらそれまで尊い筈だった営みはどうなる?忘れ去られる=本当の死という考え方。

科学が発展し、文明が進み、寿命が延びて生活が豊かになっても、人の世は常に支配と争い。攻殻機動隊では少佐は人々に対し「久世を失ってまで本当に救う価値があったのだろうか?」と自問するようなシーンがある。シーズン2の終盤では、フシが疲れ呆れてそうなる展開を予想したがそうならなかった。次の現世編かさらに先でそうなるのだろうか。

不滅のあなたへに対する関心度は今が最高潮なので続きをチェックしてみようと思う。ネタバレを避ける形で検索しようとすると不穏なワードがちらついているが、聲の形の「目を背けたくなるような」感覚がさらに濃くなっていくのかなぁと予想。コクや心地よい食感が失せて、不快な舌触りと苦味だけが口の中を満たすようになって…それって面白いのでは?
コメント
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