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大阪・堺市博物館「土佐光吉」展 ~桃山時代のやまと絵は堺で保たれた

2018年10月13日 | 美術館・展覧会

大阪の堺市博物館で、安土桃山時代を代表するやまと絵師「土佐光吉(とさみつよし)」の展覧会が始まっています。やまと絵とは、絵巻物に代表される日本の伝統的な絵画様式です。土佐派は将軍家や朝廷の絵画工房である絵所(えどころ)の御用を、室町時代を通じて務めていました。

戦乱の世、お上の御用がなくなったことで、土佐派は日本随一の国際貿易都市だった堺に活動の拠点を移しました。江戸時代になって土佐光起(みつおき)が再び京都で朝廷の御用を務めるようになりますが、それまで堺でやまと絵の命脈を綿々と保っていました。

土佐派が伝統的に得意とする肖像画の描写の質の高さには驚かされます。当時の権力者が好んだダイナミックな画風とは対照的に、彩色が綺麗で細密な描写の古典の屏風や色紙は、国際貿易都市・堺ならではの自由さを感じさせます。京都で狩野派が勢いを増した時代に、主に堺で制作された土佐派の伝統が伝える名品が揃っている展覧会です。


堺市博物館を臨む

やまと絵は、平安時代に遣唐使が廃止され、国風文化が栄えた時代に発達しました。源氏物語絵巻や伴大納言絵詞が代表例です。鎌倉時代以降は平安時代の様式による絵画表現として、中国の画風で表現された唐絵(からえ)とともに上流階級で愛され続けます。

土佐派は平安時代から続くやまと絵の本家本流と考えられていますが、推定の域を出ません。伴大納言絵詞は、画風的に土佐派の祖先の一人とされる常盤光長(ときわみつなが)の作と考えられていますが、確証は見出されていません。日本の中世絵画は落款がのこされておらず、ほとんど作者が確定できないのです。



土佐派はこのように平安時代から宮廷画家として重要な位置を占めていたと推測されていますが、記録に現れるのは室町時代になって朝廷の絵所を務めるようになってからです。

足利義政以降の3代の将軍に仕えた土佐光信(みつのぶ)の時代が土佐派の全盛期で、展覧会にも代表作の後円融天皇像(雲竜院蔵)が出展されています。足利義満と対立したものの実権はなかった、北朝の後円融天皇の百回忌に描いたもので、細い線の描写が端正で気品のある顔立ちを表現した名品です。

光吉は光信の嫡男・光茂(みつもち)の弟子でしたが、絵所の職を失い、失意の中で堺に移り住んだ光茂から土佐派の後継を託されます。光吉は古典をモチーフとする土佐派の伝統に再び脚光を浴びせるべく努力します。都ではなく自由都市だった堺の方がしがらみが少なく、新しいクライアントを獲得しやすかったのかもしれません。

【公式サイトの画像】 京都国立博物館 重文・源氏物語絵色紙帖「藤裏葉」
【公式サイトの画像】 渡辺美術館 曽我物語図屏風

源氏物語絵色紙帖は、平安時代の絵巻物を思わせるように床をはっきりとした緑色で描くことで、登場人物を細密かつ鮮やかに描いています。シーンの瞬間の描写がとてもわかりやすく、桃山時代の王朝趣味を象徴するような名品です。

曽我物語図屏風は、洛中洛外図のごとくパノラマのように複数のシーンを、一双の屏風に集約して表現した傑作です。絵巻よりも大人数が見やすい屏風が桃山時代のニーズに合ったのでしょう。登場人物の衣装は桃山時代の最新トレンドを取り入れており、クライアントに受容されやすい心配りも注目されます。

【公式サイトの画像】 国立歴史民俗博物館 足利義輝像

一方、土佐派が得意とした肖像画の名品も多く出展されています。肖像画は写真のなかった時代に後世に姿を伝えるべく、故人の年忌法要の際などに根強い需要がありました。

国立歴史民俗博物館所蔵の足利義輝像は、室町幕府末期に権威復活を目指して奮闘したものの結局は暗殺された13代将軍の年忌法要の際に、光吉が描いたと伝えられている重要文化財です。名門の足利将軍としての気品があふれる顔立ちに描いていることが見事な作品です。実権を失っていたことをうかがわせない絶妙な表現です。

土佐派が年忌法要の需要に備えて残した、肖像の元となる「粉本(ふんぽん)」も数多く展示されています。筆による細い線だけで表現されていますが、写真の輪郭をトレースしたように思えるほどのリアルな描写です。今井宗久(いまいそうきゅう)ら、当時の堺を代表する商人の肖像からは、激動の時代を生き抜いた人物の息吹が伝わってくるようです。



堺は戦国時代以前にも日本史上脚光を浴びた歴史がありました。世界遺産登録を目指す百舌鳥(もず)古墳群(もずこふんぐん)です。堺市博物館では、世界最大級の墳墓と考えられる大仙陵古墳(伝・仁徳天皇陵)をはじめ、数々の古墳史料が展示されています。堺市博物館は大仙陵古墳の目の前にあります。あわせて悠久の日本の歴史をお楽しみください。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



デッサンの手本となった粉本(ふんぽん)から土佐派絵師の肖像画の魅力を明らかに


堺市博物館
特別展 土佐光吉 ―戦国の世を生きたやまと絵師―
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2018年10月6日(土)~11月4日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30

※展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。



◆おすすめ交通機関◆

JR阪和線「百舌鳥」駅下車、西口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:50分
大阪駅→JR大阪環状線内回り→天王寺駅→JR阪和線→百舌鳥駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。


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