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大阪・久保惣美術館「土佐派と住吉派」 ~やまと絵が時代の荒波を乗り越えた

2018年10月14日 | 美術館・展覧会

大阪の和泉市久保惣(いずみしくぼそう)美術館で「土佐派と住吉派」展が開催されています。平安時代から続く日本の伝統的な絵画様式である「やまと絵」の存在感を、桃山時代から江戸時代初期にかけてあらためて定着させた画派の軌跡を俯瞰できる名品が揃っています。

近年は複数の美術館が共通するテーマで展覧会を連携開催することが増えています。この「土佐派と住吉派」展も、近隣の堺市博物館で開催されている「土佐光吉」展とコラボしています。

久保惣美術館は緑が豊かな美術館で、回廊を散策するだけでとてもすがすがしい気分になります。やまと絵の美しい彩とともに秋の一日をお楽しみください。



久保惣美術館は繊維業で財を成した久保家のコレクションを元に1982(昭和57)年に開館しました。大阪府南部は明治以降繊維産業が盛んでした。京都・細見美術館を開館した細見家も和泉市に隣接する泉大津市で繊維産業で財を成しました。

案外知られていませんが久保惣美術館は、国宝2点・重要文化財29点を所蔵し、個人コレクションとしては日本有数の質と量を誇ります。日本と中国の書画・陶磁器を中心に浮世絵や19c西洋絵画も充実しており、特別展開催時以外の常設展も必見です。他館の展覧会からの所蔵品貸出依頼も頻繁に行われています。

久保惣美術館の「土佐派と住吉派」展では、室町時代から江戸時代初期にかけてのやまと絵作品を俯瞰できます。古典を主に題材にした日本の伝統的な絵画表現であるやまと絵が、土佐派と住吉派の手で中世から近世へどのように変貌していったかを学ぶことができます。全国の美術館や個人所蔵家から作品が集まっており、久保惣美術館の企画力と運営力への信用の高さがうかがえます。

【公式サイトの画像】 東京国立博物館 浜松図屏風

展示のプロローグは、室町時代のやまと絵屏風です。重文「浜松図屏風」(展示~10/28)は土佐派の作品とも考えられています。浜辺の人々の営みや四季の移ろいを描いた、いわば風俗画ともいえるモチーフです。しかし遠景と近景を交えて描いており、全体としての印象はやまと絵としての壮麗さが保たれている名品です。


展示会場・本館の入口

足利義政以降の室町将軍に仕えた光信(みつのぶ)・光茂(みつもち)親子は、厳しい戦国の世で平安時代以来の古典的なやまと絵のスタイルを最後に華咲かせました。光茂作「桑実寺(くわのみでら)縁起絵巻」は、水の青と山の緑の対比が美しい作品です。緻密な描写は次の光吉(みつよし)の代に受け継がれていくことが分かります。

【公式サイトの画像】 久保惣美術館 源氏物語手鑑 手習一

光吉といえば、源氏物語の絵師です。重文「源氏物語手鑑(てかがみ)」は鮮やかな彩色、中でも金の雲と植物や畳の緑が効いています。古典をモチーフにしながら、桃山時代のニーズに合わせた豪放で写実的な表現です。やまと絵の新しい展開を彷彿とさせる名品です。

光吉・光則(みつのり)に続く光起(みつおき)は堺から京都に拠点を移し、戦国時代に失った宮廷御用絵師の職である絵所(えどころ)を取り戻します。京の都で栄えていた寛永文化のリード役でもあった後水尾上皇に気に入られ、源氏物語や三十六歌仙などの古典のモチーフを中心に、光吉の画風よりさらに洗練された彩色で写実的に描きます。

光起の作品は全般的に構図がシンプルでわかりやすい印象を受けます。茶道資料館蔵「朝儀図屏風」は天皇に拝謁する公家たちをクローンの映像のように上空から斜めに見た角度で描いています。余白として広く描かれた地面に、身分の上下で色が異なる衣装でひれ伏す公家たちの姿は、日本画には珍しい幾何学的な構造で斬新です。

京都市立芸術大学芸術資料館像「源氏物語画帖下絵」は、制作にあたって手本とするために、モチーフの輪郭線だけを描いたものです。製作の品質を保つため、工房の絵師たちが下絵を元に大量の注文をこなしていたものです。現代のマンガや映像作品のコンテに相当します。当時の工房の活気が伝わってくる見事な芸術品でもあります。

【公式サイトの画像】 久保惣美術館 三十六歌仙画帖 斎宮女御

住吉如慶(すみよしじょけい)は土佐光吉の弟子で、東照宮縁起絵巻を制作するために江戸に下ったことで頭角を現しました。鎌倉時代に途絶えた絵所の名門・住吉家の再興を後西天皇に命じられ、土佐派から独立して住吉派を起こします。

住吉派は土佐光吉が切り開いた新しいやまと絵表現を江戸で定着させ、嫡男の具慶(ぐけい)は幕府の御用絵師となります。狩野派が独占してきた幕府御用絵師のポジションに、やまと絵の住吉家が風穴を開ける画期的な人事でした。

「三十六歌仙画帖」は、モチーフは古典的ですが、構図がとても斬新です。現代のグラビア写真のようにモデルが見せる自由な一瞬のポーズを、実にコミカルに描いています。余白とのバランスも江戸時代の作品らしく洒脱に見えます。


庭園の中を回廊が進む

近世初期の日本画は狩野派や長谷川等伯が脚光を浴びがちです。一旦は下野しながらも伝統の画風を改良し、着々と新規クライアント獲得につなげていった土佐派と住吉派の創作には、時代のニーズに応えようとした愚直さも感じられます。

伝統の価値と時代のニーズを両立させる。現代人にも常に求められている変革を成し遂げた軌跡を、どこか頭が下がる思いで鑑賞できる素晴らしい展覧会です。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



住吉如慶「源氏物語手鑑」全54場面掲載、人物相関図と年表付きで全体理解に最適


和泉市久保惣記念美術館「土佐派と住吉派」
特別展 土佐派と住吉派 ―やまと絵の荘重と軽妙―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:和泉市、和泉市教育委員会、和泉市文化振興財団、和泉市久保惣記念美術館、文化庁
会期:2018年10月13日(土)~12月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※11/4までの前期展示、11/6以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。



◆おすすめ交通機関◆

泉北高速鉄道「和泉中央」駅下車、1,3番乗場から南海バス「美術館前」下車、徒歩すぐ
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間20分
JR大阪駅(梅田駅)→なんば駅→南海高野線→中百舌鳥駅→泉北高速線→和泉中央駅→南海バス→美術館前

【公式サイト】 アクセス案内

※バスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることを強くおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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