東京・丸の内の三菱一号館美術館で「フィリップス・コレクション展」が行われています。アメリカ・ワシントンDCにある世界屈指の個人コレクション美術館が誇る名品75点を、邸宅のような上質なインテリアの展示室で鑑賞できます。
日本での知名度は高いとは言えませんが、印象派など19cのフランス絵画を俯瞰するためには絶対に外せない美術館です。そんなすごいコレクションが日本にやってきています。これだけの規模で貸し出しが実現するのは、開設100周年を迎える今回のような機会以外は、極めてまれになるでしょう。とても貴重なチャンスです。
フィリップス・コレクションは、鉄鋼業で財を成したアメリカの大富豪一族のダンカン・フィリップスが1918年に自らの邸宅に設立した美術館です。ダンカンは1966年にこの世を去るまで、妻で画家のマージョリーと共に収集を続け、アメリカの近代美術も含め4,000点を超えるコレクションを形成しました。
ワシントンDCで各国大使館が立ち並ぶエンバシー・ローのそばに美術館はあり、隣はインド大使館です。私は以前訪れたことがありますが、三菱一号館と同じく赤レンガの瀟洒な建物です。展示スペースとして新設された建物を合わせると、個人のものとしてはとても巨大です。アメリカの大富豪の財力と収集に対する情熱に目を丸めたことを記憶しています。
大使館が立ち並ぶエリアは、日本はもちろんどの国もその国を代表する高級住宅街であることが一般的です。フィリップス・コレクションはそんなエリアにとても調和しています。
Washington DC フィリップス・コレクションの建物
フィリップス側は企画にあたって、一号館の邸宅風の展示室を気に入ったように思えてなりません。本拠と似た環境で鑑賞できるからです。作品の展示順が、制作年代やジャンル別ではなく、購入順であることも新たな試みとして注目されます。全所蔵品を見るわけではなくおおまかですが、ダンカン夫妻の嗜好や時代の変化をふまえて鑑賞するのも、興味深いものでした。
収集初期の1920年代までは19c印象派までのフランス絵画、1930年代はポスト印象派や20c初頭の作品、第二次大戦の混乱期でもある1940年代はそれらコレクションに厚みを増し、1950年代は戦後のモダンアートにも手を広げる、といった傾向が見て取れます。近代以降の絵画を俯瞰する基本を外さず、丁寧に収集している印象を受けます。
【The Phillips Collection 公式サイトの画像】 ルーヴシエンヌの雪
シスレー「ルーヴシエンヌの雪」は、1923年と収集最初期の購入です。印象派表現の王道を進んだシスレーらしい穏やかな光で雪景色を表現しています。
【The Phillips Collection 公式サイトの画像】 スペイン舞踊
1928年購入のマネ「スペイン舞踊」は、踊り子の腕が円形に動くポーズをとらえています。マティスの「ダンス」のポーズを思わせることが目を引きます。リズミカルで生き生きとした作品です。一目でマネとわかる正統派の作品です。
【The Phillips Collection 公式サイトの画像】 犬を抱く女
ダンカンはアメリカで最初に、ナビ派のピエール・ボナール作品を購入したコレクターでした。アメリカで画家の評価が定まる早い段階から購入し、「実験場」と呼んだ自らのギャラリーで美術愛好家に提案していたのです。パイオニア精神にあふれた人物と言えます。
1922年購入のボナール「犬を抱く女」はダンカンが最初にボナールに魅了された作品です。女性の顔は感情がわからないほど抽象的に描かれていますが、強い存在感があります。女性の赤い服が構図として効いています。
三菱一号館とブリックスクエア
【The Phillips Collection 公式サイトの画像】 サン=ミシェル河岸のアトリエ
「サン=ミシェル河岸のアトリエ」は、マティスとしてはかなり写実的な表現をしています。色使いも落ち着いており、言われなければマティス作品と気付きにくいくらいです。とても貴重なマティス作品でしょう。1940年購入です。
【The Phillips Collection 公式サイトの画像】 水浴の女(小)
1948年購入のアングル「水浴の女(小)」は、ルーブル美術館にある著名作「欲女」と同じポーズです。こちらはルネサンス絵画のように、何かの寓意を現したような背景が描かれています。小さいですが、アングル独特の肩や背中の絶妙なラインで虜にさせ、背景を描いた理由をも創造させてしまう”魔力”を感じる作品です。
【The Phillips Collection 公式サイトの画像】 ジェンツァーノの眺め
1955年購入のコロー「ジェンツァーノの眺め」は、真夏の陽光にあふれたイタリアの風景を描いています。コロー作品としては明るい光が作品全体に表現されている珍しい作品です。
美術館の近くはルーフトップ観光バスのりば
上質な展示にこだわる三菱一号館らしい展覧会に仕上がっています。近くにたくさんいた欧米人観光客にも鑑賞してもらい、展覧会の質について意見を聞いてみたいと思ったほどです。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
メトロポリタンにはなぜあれだけの名品が揃っているのか?
________________________________
三菱一号館美術館
全員巨匠! フィリップス・コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:三菱一号館美術館、フィリップス・コレクション、読売新聞社、日本テレビ放送網
会期:2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月)
原則休館日:月曜日、12/31-1/1
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金・第2水曜~20:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
JR「東京」駅下車、丸の内南口から徒歩5分
JR「有楽町」駅下車、国際フォーラム口から徒歩6分
東京メトロ・千代田線「二重橋前〈丸の内〉」駅下車、1番出口から徒歩3分
東京メトロ・有楽町線「有楽町」駅下車、D3/D5出口から徒歩6分
都営・三田線「日比谷」駅下車、B7出口から徒歩3分
東京メトロ・丸の内線「東京」駅下車、改札口・地下道直結徒歩6分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:5分
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません
________________________________
→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal