3年後に迫った最澄の1,200回忌を記念し、比叡山延暦寺が持つ一級の文化財をラインナップした「至宝展」が、延暦寺の文化財を保管・展示する国宝殿で行われています。最澄が唐から持ち帰った国宝や信長による焼討を免れた強運の仏像など、延暦寺に伝わる仏教美術がフルに公開されるまたとない展覧会です。
日本史に絶大な影響を与え続けた延暦寺の文化遺産は、どこか風格のある銘品が揃っています。わざわざ山に登る価値は充分にあります。
延暦寺バスセンターから見える国宝殿(左の建物)
延暦寺の国宝殿は1987(昭和62)年に、麓の坂本の里坊も含めた比叡山全体の文化財を保管・展示する施設として開設されました。天台宗の開祖・最澄が唐から持ち帰った文書や袈裟など、平安時代の仏教文化と日本の歴史を伝える数多くの国宝が所蔵されています。これらは延暦寺の歴史を象徴する最も大切な逸品ばかりであり、とても見応えがあります。
比叡山は1571(元亀2)年の信長の焼討ですべてが焼失してしまったイメージが強いですが、それ以前の文化財も少なからずのこされています。焼討を免れたとされる建物は西塔の瑠璃堂(るりどう)だけですが、本当に免れたかは諸説あります。
平安時代の経箱や袈裟、最澄自筆の文書といった国宝は9件ものこされています。持ち運びしやすいため、焼討の際に持って逃げたか、あらかじめどこかに隠してあったかのいずれかでしょう。
仏像には国宝はありませんが、重要文化財は焼討以前に制作されたものが多数のこっています。仏像は文書よりは持ち運びしにくいため、根本中堂の本尊のように焼討後の再建時に比叡山以外から移されてきたものもあるでしょう。それでも残された数の多さから、本当に焼討から守られた仏様も少なくないと思われます。
主に3地区に分かれる延暦寺の広大な境内の中で、延暦寺の本堂である根本中堂(こんぽんちゅうどう)がある東塔(とうどう)地区に、国宝殿はあります。バス停や駐車場があり、延暦寺全体の交通の拠点となる延暦寺バスセンターから歩いて2分とすぐです。
国宝殿入口
エントランスでは常設展示の釈迦如来坐像が観る者を迎えます。信長焼討の際に救出された伝承があり、落ち着き払った表情が印象的です。比叡山の苦難の歴史を象徴するような意志の強さを感じさせます。
展覧会のチラシに採用された「持国天」や「毘沙門天」は、本尊を護る四天王らしい風格を備えた銘品です。「千手観音」はお顔の表情に緊張感があり、眼差しの鋭さが印象的です。「大黒天」は、堂々と建っている姿が珍しく特徴的です。最澄が唐の通行許可証として発給された「入唐牒」は、1,200年前の国宝のビザです。
出展作品の画像が公式サイトで公開されていないため、ご紹介することができません。出展作品のリストにも作品を特定する情報が明示されていないため、事実上リストとして機能していません。
仏像ほか日本美術の作品名は、江戸時代以前にはモチーフの名称を付けただけのものがほとんどで、制作時期・作者・所蔵先といった付加情報がないと特定できません。延暦寺国宝殿は残念ですが、この付加情報が展覧会場内の解説パネルだけしか公開されておらず、鑑賞レビューを詳細にお伝えするにはすべて会場内で付加情報を手書きでメモしなければなりません。
メジャーなお寺は、所蔵する仏教美術を特定する付加情報と画像をWeb上で公開しているのが現代では一般的です。秘仏の特別公開の場合でも、専用サイトで情報公開するのが一般的です。どこまで情報公開するかは所蔵者の任意ですが、相対的に比叡山は情報公開に閉鎖的である印象を持ってしまいます。情報公開が少ないと、やはりWeb上で情報が拡散しにくくなります。
素晴らしい文化財を持っているだけに、比叡山への関心が薄れることがないよう願ってやみません。至宝展は日本の歴史をリードしてきた比叡山の文化財をフル公開する素晴らしい展覧会なのです。
大改修中の根本中堂
平成の大改修の真っただ中で2018年10月現在、根本中堂は完全に屋根に覆われています。しかし拝観は可能で内部には屋根の高さに設けられた「修学ステージ」から、国宝の屋根の修理を見学することができます。近年は姫路城のように修理の様子を公開することがよく行われています。修理中だけしか体験することができません。
この機会に、高野山と並ぶ日本仏教の歴史的聖地・比叡山にぜひお出かけください。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
別冊太陽は比叡山をどう見るか?
延暦寺 国宝殿
伝教大師1200年大遠忌記念 至宝展
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:延暦寺
会期:2018年8月1日(水)~11月30日(金)
原則休館日:10/1-2
入館(拝観)受付時間:8:30~16:30
※9/30までの前期展示、10/3以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
延暦寺 国宝殿
【公式サイト】https://www.hieizan.or.jp/keidai/kokuhoden
※国宝殿には常設展示があり、通年公開されています。
◆マナー教室◆
◇室内を見学する場合、持ち物が無意識に壁や置物に触れ傷つけてしまいます。
手荷物は預ける、リュックは前に抱える、レンズの大きい一眼レフカメラは持ち込まない、など配慮しましょう。
◇靴を脱いで室内を見学する場合、床汚れ防止のため、裸足なら靴下を持参しましょう。
◆おすすめ交通機関◆
比叡山ドライブバス・比叡山内シャトルバス「延暦寺バスセンター」下車、徒歩2分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間30分
京都駅烏丸口C6バスのりば→比叡山ドライブバス→延暦寺バスセンター
【公式サイト】 アクセス案内
※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることを強くおすすめします。
※この施設は、有料道路を経由して無料の駐車場を利用できます。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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