この春にオープンした大阪の中之島香雪美術館で、開館記念展II「美しき金に心をよせて」の後期展示が始まりました。第II弾の目玉作品である長谷川等伯「柳橋水車図屏風」と並んで、狩野元信・永徳による「四季山水図屏風」が展示されているのが後期展示の魅力です。
メインテーマとなっている金を基調とした出展作品は、仏画から屏風、茶道具、蒔絵まで多岐にわたります。村山コレクションのすそ野の広さをあらためて伝えてくれる展覧会です。
美術館でもデジタル・サイネージがすっかり定着
展示の最初は仏画です。開館記念展第1弾「I 美術を愛して」を観た時にも感じましたが、村山龍平は仏画をとても愛したのでしょう。ヨーロッパの聖書の場面をモチーフにした作品も、日本の仏画も同じですが、宗教画には観る者にその絵の意味を考えさせるように作られています。信仰の促進が宗教画の主な目的だからです。
経営者として成功した村山龍平は、仏画が問いかけてくる意味と向き合うことに、至福を感じた人のように思えてなりません。今回展示の「普賢菩薩十羅刹女像」「阿弥陀三尊像」はいずれも、仏の持つ精神性を金で巧みに表現しています。この金の光線は何を示しているのか? なぜこれほど荘厳なのか? 時間が経つのを忘れて絵と向き合っていると、心がとても軽くなります。
【公式サイトの画像】 長谷川等伯・柳橋水車図屏風
長谷川等伯の「柳橋水車図屏風」は、六曲一双のワイドな幅に連続して宇治橋を描いています。当時人気を博したモチーフで、MIHO MUSEUM・東博・京博などでも所蔵されています。
江戸初期に宇治は景勝地でしたが、風光明媚というよりも浄土世界を表現したような奥の深さが絵にあります。平安貴族が憧れた浄土世界という、復古的な感性を絵に含めたのかもしれません。荘厳さと華やかさが絶妙なバランスで表現されています。金の使い方がとても上手な作品です。
朝日新聞社グループとしてもこの絵を大切にしているようです。美術館向かいのフェスティバルタワー内に2013年にリニューアルオープンした「フェスティバルホール」の緞帳の図柄に採用しています。幅30m、重さ1.8tと圧巻の大きさです。
【朝日新聞の記事】フェスティバルホールの緞帳
「四季山水図屏風」は水墨画で描かれることが多いため、後期展示の狩野元信・永徳による金地屏風は不思議なオーラを感じさせます。等伯の静かな「柳橋水車図屏風」とは対照的に、とてもシンプルな描写ながらも狩野元信らしい躍動化が備わっています。じっくり見比べてみてください。
野々村仁清の茶碗にはわずかに金の細工が施されており、上品さを引き立たせています。「蓮池蒔絵硯箱」は、蓮の花の醸し出す仏の世界が硯箱を開けようとする者の心を落ち着かせるように見えます。絶妙な繊細さを金箔で見事に表現しています。
堀江物語絵巻は、岩佐又兵衛が追及した絵巻のリアリズムの究極の作品であり、又兵衛らしい人間を理想化しない描写が観る者を惹きつけます。
【公式サイトの画像】 岩佐又兵衛・堀江物語絵巻
美術館ロビーからは水と緑にあふれた大阪のビジネスセンター・中之島の美しい都市美が楽しめます。東京の出光・三菱一号館・三井記念美術館のようなビジネスセンター立地の美術館は関西では初めてです。いつもと違うお出かけを楽しめること間違いなしです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
長谷川等伯の生涯を描いた直木賞受賞作
中之島香雪美術館
開館記念展「珠玉の村山コレクション ~愛し、守り、伝えた~」
II 美しき金に心をよせて
http://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/exhibition/2018_2/
主催:香雪美術館、朝日新聞社、朝日放送
会期:2018年4月28日(土)~2018年6月24日(日)
原則休館日:月曜日
※5/27までの前期展示、5/29以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:メトロ四つ橋線肥後橋駅、京阪中之島線渡辺橋駅下車、各徒歩3分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅→メトロ四つ橋線→肥後橋駅
公式サイトのアクセス案内
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