ベラスケス(Velázquez, Diego Rodríguez de Silva y)は、ヨーロッパにおける17cバロック絵画の黄金時代をリードした巨匠です。マドリードのプラド美術館にある代表作「ラス・メニーナス」は世界で最も著名な絵画の一つです。スペインだけにとどまらず人類の“宝”として、世界中の人々の称賛を集め続けています。
まもなく神戸の兵庫県立美術館でベラスケスを主役にした「プラド美術館展」が始まります。その前にあらためて巨匠の足跡を振り返ってみたいと思います。
プラド美術館正面を飾るベラスケス像
ベラスケスは1599年、アメリカ新大陸との交易の中心だったスペイン南部・アンダルシア地方のセビリアで生を受けます。当時は太陽の沈まぬ国・スペイン帝国が衰退し始める頃でしたが、セビリアは依然、オランダのアムステルダムと並んでヨーロッパ随一の大都会でした。
セビリアで頭角を現し始めたベラスケスは、24歳の若さでマドリードに出、時の国王・フェリペ4世の宮廷画家に抜擢されます。美術を愛し、現在のプラド美術館のコレクションの礎を築いたフェリペ4世との出会いが、ベラスケスが世界トップクラスの画家としての経歴を築く出発点となったのです。
【公式サイトの画像】 プラド美術館「東方三博士の礼拝」
「プラド美術館展」にも出展される「東方三博士の礼拝」は、セビリア時代に描いたベラスケス最初期の作品です。主役である聖母マリアとキリストを浮かび上がらせるように光のスポットをあて、聖書のテーマを映画のシーンのように描くバロック絵画のトレンドを見事に表現しています。
セビリアには、当時スペイン領だったナポリで活躍したカラバッジョが切り開いた写実的なバロック絵画の魅力が伝わっていたのでしょう。ベラスケスはそんなトレンドを着実に吸収していたのです。
ベラスケスは王室の絵画ニーズに斬新に応えていきます。宮廷画家は権威づけのために王族の肖像画を主に描くのが一般的です。しかしベラスケスのモチーフは、宮廷画家になった後も王族の肖像画にとどまらず、非常に多岐にわたっています。
- 外交官のような働きをしており、国外にも顔が広い
- 上流階級のプライベート空間を飾る絵を“内密に”多く描いた
の2点がその背景です。
【公式サイトの画像】 ドーリア・パンフィーリ美術館「教皇インノケンティウス10世」
ベラスケスは1648年、2回目のイタリア旅行に出ます。芸術の最先端だったローマで、自らの表現にさらに磨きをかけます。その到達点がヨーロッパ肖像絵画の最高傑作と言われる「教皇インノケンティウス10世」です。
当時76歳の教皇は猜疑心が強いことで知られていました。ベラスケスはそんな内面をあえて鏡のように映し出し、観る者を圧倒します。そんな挑戦的な表現を教皇はいたく気に入ります。ベラスケスの名声はヨーロッパ中で不動のものとなりました。
【公式サイトの画像】 ロンドン・ナショナルギャラリー「鏡を見るヴィーナス」
ローマで学んだ絵画表現のもう一つの到達点が「鏡を見るヴィーナス」です。この作品のモチーフは、ヨーロッパでも最も敬虔なカトリック教国だった当時のスペインの価値観ではありえなかった“ヌード”です。国王の寵臣のプライベート空間を飾るために描かれたと考えられています。
【公式サイトの画像】 プラド美術館「セバスティアン・デ・モーラ」
現実の人間の欲望をモチーフにする絵は、他にも多く描いています。宮廷で道化師として雇われていた矮人(わいじん、小人症の人)を描いた「セバスティアン・デ・モーラ」は、幼い皇太子のために描かれたと考えられています。写真のようにリアルに描かれていますが、その目には鋭いエネルギーがあります。矮人本人の言いようのない怒りの感情を秘めていると感じさせます。
ベラスケスの表現の多様性と革新性の原点は、彼の人望にあります。人望があったからこそ、国外から情報収集でき、ヌードや矮人のように公になっては都合の悪い注文もこなせたのです。
代表作「ラス・メニーナス」は晩年の作品で、彼の絵画表現の集大成が凝縮されています。印象派の巨匠・マネは、ベラスケスを「画家の中の画家」と呼んだことはよく知られています。1865年にスペインを訪れた際に「ラス・メニーナス」をきっと目にしたのでしょう。
ベラスケスは、太陽が沈みゆくスペイン帝国を芸術で支えました。その偉業は400年近くたった現在もスペイン人の心の中に語り継がれています。
若きベラスケスも見ていたセビリアの「黄金の塔」
【Wikipediaへのリンク】 ディエゴ・ベラスケス
ベラスケス(1599-1660)と同世代の画家は多数います。
- ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1583-1652)フランス
- ホセ・デ・リベーラ(1591-1652)スペイン
- フランシスコ・デ・スルバラン(1598-1664)スペイン
- ヴァン・ダイク(1599-1641)フランドル
- レンブラント(1606-1669)オランダ
- 狩野山雪(1590-1651)日本
- 狩野探幽(1602-1674)日本
ベラスケスが生涯隠し続けた大きな秘密とは
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