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京都・並河靖之七宝記念館 ~世界を席巻した明治ニッポン工芸の生き証人

2018年08月19日 | 城・屋敷・歴史遺産

並河靖之(なみかわやすゆき)は、京都で活躍した日本を代表する七宝焼(しっぽうやき)の作家です。七宝焼とは金属素材に彩色を施した焼き物で、明治大正ニッポン工芸の一つとして欧米でとても人気を博しました。

並河が住宅兼工房として建てた京町屋が現在、博物館として公開されています。並河の七宝作品も展示されています。裏には小川治兵衛作の庭が、現在も琵琶湖疎水から引いた水により生き生きとした姿を見せています。

七宝ファンでなくても、明治大正ニッポン工芸の輝かしい時代を学べる興味深いスポットです。


明治の京町屋の玄関が、記念館の入口に

並河靖之は1845(弘化2)年に京都の武家に生を受け、宮家に仕えた並河家に養子に入ります。七宝焼に関心を持ったきっかけはよくわかっていませんが、1873(明治6)年頃から制作を始めます。

外貨獲得のために伝統工芸品の輸出が明治新政府から奨励されていた時代でもあり、並河は国内外の博覧会に出品を続けます。また当時七宝では京都より高水準だった尾張の職人や、日本の窯業技術の近代化に大きな足跡をのこしたお雇い外国人・ドイツのワグネル博士からも学びます。

1896(明治29)年には、美術工芸分野の最高峰として国家から「帝室技芸員」に任命され、外国人にも高額な作品が飛ぶように売れるようになっていきます。当時、並河と並んで日本を代表する七宝作家で、東京を拠点にしていた濤川惣助(なみかわそうすけ)と名字の読みが同じであることから、欧米では日本の七宝焼のことを「Namikawa」と呼んでいます。

七宝焼は国内よりも欧米でより人気があったため、作品は国内には多く残っていません。そんな中、明治の超絶技巧工芸品のコレクションで知られる京都・清水三年坂美術館が、近年になって欧米から七宝焼を買い戻しています。並河靖之七宝記念館と並んで、まとまった作品を所有する国内の数少ない美術館になっています。


記念館は美しい京町屋の風情を今も保つ

記念館は、道路に面した店舗と奥の住宅を、玄関から続く細い通路でつないだ「オモテヤ造り」と呼ばれる典型的な京町屋です。1894(明治27)年の建築です。外国人客が多かったことから明治の和風建築としてはとても鴨居が高く造られており、開放的な印象を受けます。

展示されている並河の七宝作品は、色彩の豊かさと発色の美しさが目を引きます。ライバルの濤川惣助の作品は色の境界がないグラデーションの美しさに特徴がありますが、これは両者の製法の違いによるものです。


町屋の庭とは思えない松の使い方

小川治兵衛は並河邸の西隣に居を構えており、日頃から並河とは親しかったようです。並河邸の庭は小川治兵衛の最初期の作品です。直後に山形有朋の無鄰菴の作庭を行い、明治を代表する庭師となっていきます。

町屋の中庭であり、無鄰菴とは大きさでは比べ物になりませんが、石の配置や松の見せ方がとてもダイナミックです。しかし奇をてらうような落ち着きのなさは全くありません。空間設計のセンスの良さには驚愕です。


縁側

奇抜なデザインに見えますが、庭とは全く違和感がない縁側も印象的です。この縁側から見る庭を並河はさぞかし愛したことでしょう。

日本の七宝焼 Namikawa は、大正になって第一次世界大戦が始まると欧米からの需要がほぼなくなります。並河は大きな損失を出す前に1923(大正12)年に工房を閉鎖、日本の七宝輸出も終焉を迎えます。華やかな時代は決して長くはありませんでしたが、現在も世界中の美術館や富豪の家に明治ニッポンの七宝焼は収蔵されています。

並河靖之七宝記念館は、輝かしい時代を今に伝える生き証人なのです。

こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。



並河靖之七宝記念館 公式ガイド


並河靖之七宝記念館
【公式サイト】http://www8.plala.or.jp/nayspo/

原則休館日:月曜日、木曜日、春季・秋季展開催期間以外の夏季と冬季
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

※2018年秋季展は9月7日(金)~12月16日(日)開催



おすすめ交通機関:
地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩3分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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