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大阪にさりげなく鳥獣戯画登場_中之島香雪美術館「明恵」展 5/6まで

2019年03月25日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島香雪美術館で京都・高山寺(こうざんじ)ゆかりの超一級の文化財が登場する展覧会「明恵(みょうえ)の夢と高山寺」が始まりました。あの鳥獣戯画も四巻すべてが出ます。

  • 明恵は鎌倉時代初期の高山寺の実質的な開祖、夢を記録した「夢記」から超人ぶりがうかがえる
  • 鳥獣戯画に加えて国宝の明恵上人像と仏眼仏母像も登場、高山寺の文化財の最高峰が勢揃い
  • 神護寺と並んで高山寺はわが国有数の中世文化財の宝庫、鎌倉時代の様子がとてもよくわかる


4年前に完成した鳥獣戯画の全面修理を朝日新聞社の財団が支援しており、その縁で中之島香雪美術館にこれだけの質の出展が実現しました。次の機会はいつあるかわかりません。


美術館のあるフェスティバル・タワー・ウエスト

高山寺所蔵の国宝・重要文化財がこれだけまとまって出展されるのは、2014年から2016年にかけて、京都・東京・九州の各国立博物館で行われた「鳥獣戯画展」以来です。鳥獣戯画は日本で最も有名な絵画の一つであり、漫画の元祖とも言われるように誰でも親しみが持てる描写がなされています。そのため先の展覧会では3時間以上の入館待ち行列が発生していました。

中之島香雪美術館はオフィスビルの中にある美術館です。そのような行列が発生すれば大混乱に陥るため、とっておきの演出が行われているようです。展覧会のタイトルに「鳥獣戯画」を入れていないのです。「明恵」「高山寺」とも知名度はさほど高くないので、ネット上の検索では「鳥獣戯画」の出展に気付きにくくなっています。

私は展覧会開幕直後に訪れたこともあり、混雑は全くなく、逆に拍子抜けしました。しかし展覧会は終わりに近づくほど評判が高まり、”早く行かなきゃ終わってしまう”とみんな焦りだすので混雑します。美術館側も入口に行列用のガイドポールを用意していましたが、人気に火が付いたらとても足りません。入場整理券の配布と言った特別な措置が取られることもあるでしょう。

展覧会タイトルに「鳥獣戯画」を入れなかった影響がどのように現れるかはわかりませんが、とにかく早めの鑑賞をおすすめします。なお4/16以降の後期展示で目玉作品が大きく展示替えされます。今回の展覧会は前後期どちらかだけを選べるような代物ではありません。前後期の2回、いずれも早めの鑑賞をおすすめします。



京都の西北、愛宕山の奥深い山中にある高山寺は、奈良時代からあった山岳修行の僧房を前身に、鎌倉時代初めに明恵が中興しました。明恵は西大寺の叡尊と並んで、鎌倉時代に戒律の復興に力を注いだことでも知られており、実直な学問僧でした。高山寺に鳥獣戯画など主に鎌倉時代の文化財が多くのこされているのは、明恵の人徳が大きく影響していると思われます。

【展覧会公式サイト】ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

展覧会の入口では、前期は耳を切り落としたという明恵の肖像画・久米田寺蔵「明恵上人持経蔵」が展示されています。戒律や仏堂に厳格だった割には穏やかな表情で描かれており、ゴッホのような狂気の印象は全く受けません。自分に厳しく、他人には厳しさを見せなかった人物かもしれません。後期では高山寺蔵の国宝「明恵上人樹上坐禅像」が替わって展示されます。

「夢記」は数多く残されています。一回の夢をかなり詳細に記しており、毎朝起きてすぐ、忘れない内に書き留めていたのでしょう。夢を分析することで自らの仏道の到達レベルを知ろうとするとは、驚くべき発想です。

「子犬」は高山寺のアイドルのような彫刻作品として人気です。明恵が夢の中で何度も犬を見ていることから、常に傍らに置いていたと伝えられています。円山応挙や長澤芦雪のような愛くるしい表情が、見る者のハートをわしづかみにします。顔に似合わず重要文化財です。

【高山寺公式サイトの画像】鳥獣人物戯画

鳥獣戯画は独立したコーナーにまとめて展示されています。前期は甲・乙巻、後期は丙・丁巻が展示されます。前後期期間内でも展示場面が変更されます。擬人化された兎・蛙・猿が描かれて特に有名なのは前期展示の甲巻です。乙巻は空想上も含めて動物の様子を博物標本のように忠実に描いています。

甲・乙巻は平安時代末期の制作と考えられています。タッチが異なることから、複数の絵師の作品を一つの巻物のように仕立てたとする説が現在は有力です。古来ささやかれる鳥羽僧正覚猷を作者とする説は、現在は否定的です。何のために描いたのかもまったくわかっていないため、絵の上手な画僧が即興的に描いたものが高山寺に集まり、大切に保存されてきたのでしょう。

平安時代までの絵巻や仏画で動物を描いたものはほとんどありません。オフィシャルな絵画のモチーフとして採用する発想自体がなかったのだと私は思います。

動物は古今東西、身近にいて豊かな表情を見せてくれます。そんな豊かな表情を絵にしようと思いつく画僧がいても不思議ではありません。オフィシャルな絵ではないので、収め先の反応を気にせず自由に遊び心たっぷりに描くことができます。擬人化した構図は遊び心そのものです。動物の写生的な描写や、風俗画のように人が遊ぶ姿を描くのも、自由に表現した非公式作品がのこされた結果です。

このような自由な絵は、実際もっとたくさんあったものの、非公式な絵なので保管はなおざりにされがちです。高山寺の鳥獣戯画は、奇跡的にのこされた自由な作品なのです。

以上、私の仮説です。
みなさんなりに鳥獣戯画を推理してみてください。
推理すればするほど、この傑作の魅力の悪魔に洗脳されていきます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



写経ではなく”写戯画”も面白そう

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中之島香雪美術館
特別展「明恵の夢と高山寺」朝日新聞創刊140周年記念
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:香雪美術館、高山寺、朝日新聞社
会期:2019年3月21日(木)〜5月6日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※4/14までの前期展示、4/16以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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