京都・泉涌寺(せんにゅうじ)の境内の最も奥に、雲龍院(うんりゅういん)があります。皇室の菩提寺で御寺(みてら)と呼ばれる泉涌寺の山内寺院の中でも、特に皇室との関係が深いことが、この寺を特別な存在にしています。
- 境内や室内は京都の寺でも有数の上質な空間、皇室の菩提寺にふさわしい
- 真言宗寺院だが、蓮華の間や悟りの窓では、禅寺のような趣の中で庭と向き合うことができる
- 台所に置かれている「走り大黒天」は明王のような憤怒相、奇妙ながらも存在感は抜群
生け花など空間を彩る演出も、きわめて上質です。参拝者があまり多くないため、京都駅の近くで極上の空間を独り占めしやすいことも”隠れた”魅力です。
書院・蓮華の間
雲龍院は、南北朝時代の北朝・後光厳(ごこうごん)天皇の勅願により、1372(応安5)年に創建されました。次の後円融(ごえんゆう)天皇は写経道場として1389(康応元)年に龍華院(りゅうげいん)を創建します。
雲龍院には続く後小松・称光まで4代の天皇が分骨され、泉涌寺山内でも別格の地位を確立します。応仁の乱による全焼後に再建されますが、慶長の大地震で再び倒壊、現在の本堂は江戸時代初めに後水尾天皇の援助で再建されたものです。この再興時に雲龍院と龍華院は開山が同じだったこともあり合併します。寺名は雲龍院となりましたが、龍華院の名は本堂にのこることになりました。
本寺の泉涌寺には奈良時代末期以降のすべての天皇の位牌が置かれています。雲龍院には北朝の4代の天皇に加え、後水尾天皇から孝明天皇に至る江戸時代のほとんどの天皇の位牌が置かれています。泉涌寺別院、真言宗泉涌寺派別格本山を名乗る由縁がよくわかります。泉涌寺山内寺院の中でも雲龍院だけは、塔頭と呼ばれません。
正門から本堂へ至る石畳
雲龍院の所在地はかなりわかりづらいことが、参拝者が少ない大きな要因と思われます。東大路から緩やかな上り坂が続く泉涌寺道を上りきると、泉涌寺の駐車場と泉涌寺参拝受付のある大門が見えてきます。雲龍院は泉涌寺道をさらに先に進むのですが、駐車場に設置されている案内標識がとてもシックで目立ちません。
泉涌寺は京都の寺でも山の中にあるため静寂さが特徴ですが、雲龍院はさらにその上を行く静けさです。泉涌寺よりも高所にあり、裏は江戸時代の歴代の天皇陵である月輪陵(つきのわのみさぎ)です。
玄関
玄関では正面に龍の衝立が見えます。この龍、寺ではマスコットのように随所で使っています。公式麩インスタグラムのプロフィール画像もこの龍です。
【雲龍院 公式Instagram】
重要文化財の本堂・龍華殿は、普段は写経の会場として使われています。雲龍院は現存最古の写経道場であり、写経をとても大切にしています。写経に使う机は後水尾天皇から寄進されたものを現在も使用し続けています。
【雲龍院公式サイトの案内】写経体験
龍華殿は近年、秋の紅葉期の特別拝観時に、水墨画家・堂野夢酔の「双龍風雷図」の襖絵が公開されています。夜間ライトアップも併せて行われるこの特別公開の際は、龍華殿の室内に入ることができるため、本尊の薬師三尊にも間近でお参りできます。
【雲龍院公式サイトの案内】昨年2018年の秋の特別公開
雲龍院にはもう一つ重要文化財があり。不定期に龍華殿で公開されることがあります。百年忌に際し土佐光信が描いた後円融天皇の肖像画です。肖像画の名手として知られる光信の傑作の一つです。天皇として気品あふれる顔立ちに描いています。
本堂と霊明殿に囲まれた庭
本堂の横には霊明殿があります。雲龍院にある歴代天皇の位牌を安置しており、孝明天皇らの援助で1869(明治2)年に建立されました。本堂と霊明殿に囲まれた庭は、禅寺の庭のように白砂が美しく、菊の御紋の砂文様が中でも目を引きます。雲龍院の寺紋は皇室の家紋と同じなのです。砂文様の中心に建てられている石灯篭は、徳川慶喜の寄進です。雲龍院に関わる人のネームバリューは別格です。
【雲龍院公式サイトの画像】悟りの窓
書院では、円形の悟りの窓から見る庭の眺めが絶品です。悟りの窓は鷹峯・源光庵(げんこうあん)が著名ですが、雲龍院の方がより静かに空間を味わうことができます。美しさでは甲乙つけられません。
蓮華の間の4つの障子窓からのぞむ庭の眺めも絶品です。椿/灯籠/楓/松がそれぞれ見えます。庭を眺めるためには通常は障子を開けますが、ここは閉めたまま庭を眺める方がいい、稀有な空間です。
【雲龍院公式サイトの画像】走り大黒天
庫裏の台所には「走り大黒天」がさりげなくおまつりされています。大きな袋を背負っているので大黒様なのですが、顔が憤怒相であり、奇妙に感じます。鎌倉時代の制作と考えられており、その頃までは大黒様は憤怒相でした。室町時代から現在のように笑顔に変わります。福をもたらす七福神の一員としてはやはり笑顔の方がいいという、マーケティング上の判断があったのでしょう。
雲龍院は真言宗の寺院ですが、言われなければ禅寺だと思ってしまいます。龍の絵、白砂の庭、悟りの窓、通常は禅寺にあります。一方雲龍院には禅寺ではあまり見かけないものがあります。生け花です。室内の随所に、センスの良いどこか控えめな生け花が飾られており、雲龍院の空間をことさら上質にしています。
真言宗寺院は花の美しさを積極的に取り入れます。境内に桜が多いのは真言宗の寺です。華美なものを避ける禅寺では、花や桜を売り物にするところは多くありません。雲龍院には真言宗と禅寺のいいとこどりをした空間があります。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
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泉涌寺 雲龍院
【公式サイト】http://www.unryuin.jp/
原則休館日:法要日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30
※この寺は観光目的で常時公開されています。
※夜間ライトアップ拝観は例年、春にも行われています。2019年は3/30~4/4です。
◆おすすめ交通機関◆
JR奈良線・京阪電車「東福寺」駅下車、徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→JR奈良線→東福寺駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には無料の駐車場があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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