随分久々にひろしま美術館を訪れました。西洋と日本の近代絵画コレクションは日本有数の充実ぶりで、常設展示でいつでも鑑賞できるのが何といっても魅力です。
- 地域最大の銀行・広島銀行によって1978年に開館、中心繁華街の紙屋町にあって交通の便が良い
- 私立の美術館だけに近代西洋絵画の著名画家の作品が揃っており、コレクションのバランスが良い
- 企画展はともかく、展示作品の入れ替えが少ない常設展がとても見応えがある
中四国・九州の西洋絵画コレクションは、倉敷の大原美術館と並んでひろしま美術館が双璧です。常設展でいつでも見られます。地元のみなさんはもちろん、広島を訪れた方にもぜひおすすめします。
ひろしま美術館は、広島市の中心繁華街・紙屋町交差点から北へ歩いて5分ほどのところにあり、原爆ドームから歩いても10分もかかりません。美術館の北にある広島城から平和記念公園にかけて一連の巨大な公園になっており、繁華街は近いものの緑豊かな静寂の空間の中に美術館はあります。
入口正面にある円形の本館が常設展、本館奥の別館が企画展の会場です。私が訪れた際は企画展「みんなのレオ・レオーニ展」が行われていました。イタリア系ユダヤ人で絵本作家、アート・ディレクターだったレオ・レオーニの心温まる作品が印象的でした。
【美術館による展覧会公式サイト みんなのレオ・レオーニ展】
広島城から見たひろしま美術館と高層のリーガロイヤルホテル
本館は中央に円形のホールがあり、ホールを取り囲むように4つ展示室が設けられています。公式サイトでは4つ展示室すべてが西洋絵画の展示と案内されていますが、訪問時には第4展示室が日本の近代洋画に割り振られていました。いつから変わったかは確認できていませんが、日本人洋画家の作品の人気も相当に高いと考えたのでしょう。
【ひろしま美術館公式サイト】 2019/4/10以降のコレクション展示 作品リスト.pdf
本館展示室の作品は、ほとんどが写真撮影OKです。気に入った作品を記憶にとどめるには、写真がとても有効です。鑑賞マナー共に撮影&Web公開マナーが浸透するような仕掛けが期待されます。
本館展示室(写真撮影OK)
第1展示室は、印象派、ポスト印象派、世紀末の画家の作品です。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 ゴッホ「ドービニーの庭」
展示室中央にゴッホらしい明るい緑の色彩が輝いています。ゴッホが尊敬していたバルビゾン派の風景画家・ドービニーの家を訪ねた際に描きました。ゴッホが謎の死を遂げる2週間前の作品で、どこか穏やかさを感じさせます。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 ムンク「マイスナー嬢の肖像」
「マイスナー嬢の肖像」は1907年、ムンクが精神を病んでいたころの作品です。同時代の作品に比べ凶器を感じさせる表現は見られませんが、深く沈んだ眼からは強烈な訴えがあるような複雑な心情が感じられます。
同じ部屋にはマネのパステル画の名作「灰色の羽根帽子の婦人」のほか、多くの女性像が展示されています。画家たちの個性を前にして時間の経つのを忘れそうになります。
第2展示室は、20cのフォービズム、キュビズムの画家たちの作品+ピカソです。ピカソ「女の半身像(フェルナンド)」はパリ時代の最初の恋人をキュビズム風に描いています。人物のデフォルメは極端ではありませんが、体のパーツのバランスのとり方は見事です。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 デュフィ「エプソム、ダービーの行進」
ラウル・デュフィはフォービズムの画家たちの中でも、色彩表現に透明感とリズム感があるのが特徴です。「エプソム、ダービーの行進」は画家の個性をよく表しており、上流階級の男女がファッションを競い合った競馬場の華やかな様子をリズミカルに描き出しています。
第3展示室は、エコール・ド・パリの画家たちです。フジタ「アッシジ」は晩年の作品で、イタリアの巡礼の街の風景をかなり写実的に描いています。建物の白壁の色使いが見事で、悠久の時間の流れまでも表現しているようです。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 パスキン「緑衣の女」
「緑衣の女」はパスキンがアル中で苦しんでいた頃の作品です。物憂げな女性の目は、自らの苦しみを重ね合わせて描いたのでしょうか、とても深いオーラを感じます。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 モディリアーニ「男の肖像」
「男の肖像」は一目見て誰もが「モディリアーニだ!」とわかる、人物を細長くデフォルメした典型的な作品です。体は妙にくびれているものの、構図としては絶妙にきまっています。モディリアーニが”すごい”と思えるところです。
キスリング「ルーマニアの女」も、民族衣装に身を包んだ女の挑発的にも見える目線の描き方が印象的な名品です。
第4展示室は、日本の近代洋画です。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 岡田三郎助「水辺の裸婦」
岡田三郎助が黒田清輝やフランス留学から学んだ明るい外光表現で裸婦を描いた傑作です。水辺の裸婦像はギリシア神話の題材でよく描かれますが、日本人女性が凛として立っている姿は、女神の中の女神のようにとても特別な女性に見せています。
【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 小出楢重「地球儀のある静物」
小出楢重(こいでならしげ)の名品です。地球儀/グラス/果物/ノートと雑多に描かれていますが、静物の配置は絶妙で非常に引き締まった静物画に仕上がっています。地球儀を主役にするための入念な構図でしょう。
平和記念公園はいつも人が絶えない
本館は緑に囲まれており、明るい陽光を感じさせるような設計になっています。印象派作品に敬意を表したのでしょう。平和記念公園で原爆の悲劇についてしっかりと学ぶとともに、ひろしま美術館が誇る素晴らしいコレクションからも、近代絵画の魅力をしっかりと学ぶことができます。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
ひろしま美術館コレクションの充実ぶりがわかる
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<広島市中区>
ひろしま美術館
【公式サイト】http://www.hiroshima-museum.jp/
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
※コレクション展示は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
◆おすすめ交通機関◆
広島電鉄市内電車「紙屋町東」「紙屋町西」駅下車、徒歩5分
アストラムライン「県庁前」駅下車、徒歩3分
JR広島駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR広島駅→広島電鉄市内電車1/2/6系統→紙屋町東
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には無料の駐車場があります。
※渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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