銀閣寺へ向かう参道に、橋本関雪(はしもとかんせつ)が愛した邸宅・白沙村荘(はくさそんそう)がのこされています。橋本関雪は大正から戦前にかけて京都画壇をリードした画家で、四条派らしい繊細な表現で動物や文人画を描き、明るいタッチが魅力的です。
関雪はアトリエとして用いたこの邸宅を、美意識を表現するかのように自ら設計し、30年に渡って少しずつ造営していきます。庭園・建築とも非常に洗練されており、実業家や政治家の邸宅にはないセンスが感じられます。
併設された美術館では関雪作品と共に企画展を楽しむことができます。美術館2Fから間近に見える東山の眺めは極上です。京都の庭園は寺にあるイメージが強いため、白沙村荘は案外知られていません。穴場とも言えますが、その美しさの水準は間違いなく一級です。
アトリエだった存古楼
関雪は1883(明治16)年に神戸で生まれ、20歳の時に竹内栖鳳に弟子入りします。1907(明治40)年から始まった政府主催の展覧会・文展に積極的に出品し、頭角を現していきます。大正に入ると文展のトップ評価を席巻するようになり、京都画壇をリードする画家としての地位を確立します。
関雪は儒学者だった父から中国の古典を学び、若い頃から文人画を描くようになります。関雪の文人画は日本画と中国画を融合したような画風が特徴で、四条派の画風の明るさの中に、文人画的な深い精神性を表現した作品が多く見られます。
【白沙村荘公式サイトの画像】 木蘭
【白沙村荘公式サイトの画像】 秋桜老猿
「木蘭」は1918(大正7)年の文展特選受賞作で、関雪の画家としての地位を確立したいえる記念碑的名作です。関雪の文人画の特徴がとてもよく表れており、幽玄な森の中に群青色の衣装の女性と白い馬が鮮やかに描かれています。
この作品は特選受賞後すぐに関雪の下を離れていましたが、所蔵していたDIC川村記念美術館が2018年に日本画をすべて売却した際に白沙村荘が入手しました。同時に「琵琶行」「秋桜老猿」も入手しており、いずれも白沙村荘の目玉作品になっています。
美術館では所蔵関雪作品を入れ替えながら、常設展と企画展の双方で展示を行っています。美術館1Fは関雪の作品や資料が展示され、画家としての人となりを理解することができます。2Fは企画展の会場で、関雪との関連にこだわらず柔軟なテーマや作家で企画展を行っています。
【白沙村荘公式サイト】 企画展
2Fの展望テラスからの眺めが絶景です。公開施設で東山がこれほど間近にのぞめるところはなかなかありません。カメラをお忘れなく。
美術館も関雪自ら構想していたもので、2014年にようやく実現しました。関雪も東山の絶景を楽しみにしていたことでしょう。
庭園への入口
白沙村荘は入口が庭園で、美術館が出口になっています。敷地全体が名勝に指定されています。この庭園は池の占める面積が大きく、植生が濃密なことが特徴です。建物はいずれも池のそばにあり、木々と共に水面に映える光景の美しさは京都でも随一です。回遊しながら間近で四季の植物を楽しめることも大きな魅力です。写真映えするスポットも随所にあります。
池に映える存古楼
庭園の中心にある存古楼(ぞんころう)はアトリエだった建物です。濃密な植生が屋根の楼閣を取り囲むように見え、とても上質な空間美を表しています。建物と植生の近さに何とも言えないセンスを感じます。1Fの障子のデザインも抜群です。関雪の美意識のレベルに圧倒されます。室内は通常非公開ですが、外観だけでも充分にうっとりできます。それだけの美しい空間になっています。
他に持仏堂や茶室、東屋と主家の瑞米山(ずいべいさん)もあります。すべて絵になる写真撮影スポットです。
【白沙村荘公式サイトの画像】 茶室
関雪は絵を描くのも庭を造るのも同じことだと考えていました。そんな考えは、一流の画家が自ら設計した庭の個性から体感することができます。
今出川通り沿いの庭園入口に隣接する「はしもと」では御膳や麺類をいただけます。しかしこの店の注目は、予約が必要ですが白沙村荘の庭園をのぞむ座敷で会席料理がいただけることです。私も近いうちに体験してみたいと思います。
【白沙村荘公式サイト】 お食事どころ はしもと
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
関雪はなぜ中国の大地を愛したのか?
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白沙村荘 橋本関雪記念館
http://www.hakusasonso.jp/
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※この美術館は、常時公開している常設展示があります。
※美術館以外の建物は、不定期の特別公開時以外は室内を見学できません。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄「今出川」駅下車、3番出口から市バスに乗換「銀閣寺道」バス停下車、徒歩3分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅→市バス59/102/203系統→銀閣寺道
【公式サイト】 アクセス案内
※京都駅から直行するバスもありますが、地下鉄とバスを乗り継ぐ方が、時間が早くて正確です。
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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