muscat night
男はバーのカウンターで、目の前のウイスキーのグラスの氷を鳴らした、
代々木小次郎は京都でキャンパスライフを過ごし、その時に恋愛した彼女と結婚して
地元、岡山の一部上場企業に就職して、マイホームを持ち、3人の子宝にも恵まれた。
趣味はジムカーナ、フライフィッシング、登山、サーフィン、ニャン2倶楽部への投稿、と
多彩だったが、飽き性ではなく、やり始めるとトコトン追求するタイプだった、
彼はこの所、虚無に苛まれていた、20代は恋愛就職、結婚、30代では子育てに仕事と、
全力で走ってきた、そして中年と言われる歳となり、一息付いた時、自分の将来が
会社の上司達を見ていると、安易に想像できて、何となく先が見えて気がした・・・・
そう思うと、自分にはもっと他の人生が有ったのではないか?
初恋の彼女と結婚していたら、どの様な家庭を作っただろう?
そう彼は、中年男性の誰もが思う、虚無が心を支配していた。
その日もバーのカウンターで、4杯目のウイスキーを空けていた、
隣に始めてみる顔の、女性が座り声を掛けてきた、30代の初めぐらいだろうか、
酔いも手伝い、話が弾み、息が投合した、2人は自然と店を出て、ホテルに入った、
男と女、自然な形だと思ったが、違和感があった、彼女の中心に自分と同じ物が
存在した、それでも代々木は酔いと、相手の巧みな誘導に拒否する事が出来ずに身を任せた。
自分が、相手に進入する感覚は身に付いていたが、相手が我が身に入ってくる感覚は
初めてだった、この時、代々木は大きな波に翻弄されていた、
一度でピークを迎える射精をウエットオルガスムスとすれば、何度も波のように押し寄せる
この感覚を、ドライオルガスムスと言うのだろうか、何度目かに波に飲み込まれて、深遠の淵に沈んだ。
半年後、マイホームを妻に譲渡して、家庭と言うしがらみを脱ぎ捨て、
代々木小次郎は、夜のネオン街に溶け込んでいった。
この物語はノンフィクションで、登場人物、団体等は全て架空の物です。