(1939/エルンスト・ルビッチ監督・製作/グレタ・ガルボ、メルヴィン・ダグラス、アイナ・クレアー、シグ・ルーマン、フェリックス・ブレサート、ベラ・ルゴシ/110分)
同じルビッチ監督の「桃色(ピンク)の店」と一緒に買った1コインDVDの鑑賞です。
主演はスウェーデンが生んだ永遠の美女、グレタ・ガルボ。サイレント時代からの絶大な人気に陰りが見えはじめ、「椿姫」の後2年間のブランクを経た34歳の時の出演作であります。魅力的な容姿なのに、いちいち話すことが事務的、分析的なロシアの堅物の共産党員に扮していて、その言動が妙に可笑しく、漫画的な女性です。“ガルボが笑った”との話題にもなったらしいですから、それまでの彼女は悲劇のヒロイン役が多かったということでしょうか。
舞台はパリですが、台詞は全て英語。街の人々はフランス語、ロシア人同士の会話はロシア語のはずですが、ハンガリーが舞台の「桃色の店」と同じく、そういうことに拘らずに全編英語で通しています。
高級ホテルのエントランスを、明らかにソ連人と判る風体の男が3人、入れ替わり立ち替わり覗いていく。3人はソ連の貿易担当の役人で、本国の指定したホテルではなく、高級ホテルに泊まろうかどうしようかと思案している所。政府への言い訳をあれこれ考えたり、面子にこだわったり、と彼らの掛け合いがのっけから笑わせる。
結局、最高級のスイートに泊まることになるが、この3人の使命がソ連の共産体制が確立した時にロシア貴族等から没収した宝石を売却すること。ソ連のスターリン時代の経済危機を補填するための外貨獲得の仕事でありますな。
このパリのホテルには没落したロシア貴族が従業員として働いていて、貿易担当のずっこけ3人組と宝石商との電話を聞いた彼は、急遽タクシーを飛ばしてある婦人の元へ走る。彼女は、今回売られようとしている宝石の元の持ち主、大公妃スワナ。それを聞いたスワナの愛人レオンは、彼女の為に3人組の所に押しかけ、この宝石は不当に取り上げられたモノであり、パリの裁判所に取引の差し止めの訴状が出されていると言う。宝石商は一旦商談を保留し、その後レオンは3人組に対して懐柔策をしかけ、まんまと彼らを丸め込むことに成功する。
ソ連本国は3人の不手際を察知し、早速特権使節を寄こしてくる。3人はあわてて駅に迎えに行くが、列車から降りてきたのはニノチカという女性党員だった・・・。
ニノチカは冒頭で紹介したように、まるでロボットのように利口で共産主義の申し子のような考え方の持ち主。駅では他人の荷物を運ぶような仕事(赤帽)は不公平ではないかと言うし、ホテルの売店に飾られている変な形の帽子を見て『あんなモノを被るような文化は滅びる』とまで言う。
そんな彼女が、その後偶然にレオンと街中で知り合い、奇妙な美女ニノチカに惹かれたレオンが彼女をエッフェル塔へ案内したり、我が家へ招いたりして急速に接近する。レオンの甘い口説き文句にも一向になびかないニノチカが、レオンにキスされた時に、『安らぐわ。もう一度して』と言ってしまうのがなんとも色っぽいシーンでした。
ところが、キスの真っ最中に例の3人組から電話が入り、ニノチカが今回の特権使節だと分かり、彼女も彼の身分を知るところとなる。勿論、ニノチカはすぐにホテルに帰ってしまうわけですが、彼女に恋をしたレオンは、次の日からも堅物の彼女に近づいていき、ある事件をきっかけに相思相愛の間柄になるというストーリーです。
その後は、スワナの策略により一旦は別れ別れになる二人ですが、ラストには急展開のハッピーエンドが用意されています。
ソ連の共産主義をおちょくりながら、そのうえに大人の男女関係を洒落た会話とユーモアあふれる展開で描いたロマンチックコメディですね。1939年は第二次世界大戦勃発の年ですが、その頃はナチス・ドイツの方に脅威を感じていただろうに、このようなソ連を皮肉った映画が作られるというのも面白いです。
観客の想像力を刺激するのがイイ映画だと言わんばかりの、洒落た演出がそこかしこに見られる楽しい作品でもあります。
例えばレオンが3人組を懐柔するのに、酒や食事での接待をするシーン。
3人が宿泊している部屋に贅沢な料理が運ばれるところをカメラは廊下の方から写していて、3人組の喜びはドア越しに歓声を聞かせることで表現しています。料理の後には高いお酒が運ばれ、更に歓声が響き、ミニスカートのメイドが煙草を運んでくると、更に・・・というような演出です。
部屋の中でカメラを廻してもほとんどつまらない場面でしょうが、全てを見せないこんな描き方によって、ユーモアに溢れた洒落たシーンにしていました。
ビリー・ワイルダーはルビッチを師匠と仰いでいたらしいですが、アイディアにつまった時には『ルビッチならどうする?』と考えをめぐらしたそうです。
1939年のアカデミー賞では、作品賞、主演女優賞、脚色賞等にノミネート。脚本は、ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケット、ウォルター・ライシュの共作です。
又、カメラのウィリアム・H・ダニエルズはガルボ映画のほとんどを撮影している人のようです。
メルヴィン・ダグラスは口髭がクラーク・ゲーブルのような二枚目ですが、その後も活躍が続いていて、63年には「ハッド」で、79年には「チャンス」で、2度アカデミー助演男優賞を受賞した名優でした。
3人組の一人、フェリックス・ブレサートは「桃色(ピンク)の店」のクラリクの先輩店員ビロヴッチを演じていた人。ルビッチ作品の常連さんです。
尚、この作品の日本公開は終戦後の1949年。当時、双葉さんは『この旧作が現在のどの映画よりも面白いとは。』と評されたとのこと。そして、57年のアステア、チャリシー共演のミュージカル「絹の靴下」は本作のリメイクなんだそうです。
※ micchiiさんのブログ、「愛すべき映画たち」には、この映画の洒落た台詞が数多く紹介されています。読み返すと、場面が浮かんで来てニンマリしてしまいますね。
同じルビッチ監督の「桃色(ピンク)の店」と一緒に買った1コインDVDの鑑賞です。
主演はスウェーデンが生んだ永遠の美女、グレタ・ガルボ。サイレント時代からの絶大な人気に陰りが見えはじめ、「椿姫」の後2年間のブランクを経た34歳の時の出演作であります。魅力的な容姿なのに、いちいち話すことが事務的、分析的なロシアの堅物の共産党員に扮していて、その言動が妙に可笑しく、漫画的な女性です。“ガルボが笑った”との話題にもなったらしいですから、それまでの彼女は悲劇のヒロイン役が多かったということでしょうか。
舞台はパリですが、台詞は全て英語。街の人々はフランス語、ロシア人同士の会話はロシア語のはずですが、ハンガリーが舞台の「桃色の店」と同じく、そういうことに拘らずに全編英語で通しています。
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高級ホテルのエントランスを、明らかにソ連人と判る風体の男が3人、入れ替わり立ち替わり覗いていく。3人はソ連の貿易担当の役人で、本国の指定したホテルではなく、高級ホテルに泊まろうかどうしようかと思案している所。政府への言い訳をあれこれ考えたり、面子にこだわったり、と彼らの掛け合いがのっけから笑わせる。
結局、最高級のスイートに泊まることになるが、この3人の使命がソ連の共産体制が確立した時にロシア貴族等から没収した宝石を売却すること。ソ連のスターリン時代の経済危機を補填するための外貨獲得の仕事でありますな。
このパリのホテルには没落したロシア貴族が従業員として働いていて、貿易担当のずっこけ3人組と宝石商との電話を聞いた彼は、急遽タクシーを飛ばしてある婦人の元へ走る。彼女は、今回売られようとしている宝石の元の持ち主、大公妃スワナ。それを聞いたスワナの愛人レオンは、彼女の為に3人組の所に押しかけ、この宝石は不当に取り上げられたモノであり、パリの裁判所に取引の差し止めの訴状が出されていると言う。宝石商は一旦商談を保留し、その後レオンは3人組に対して懐柔策をしかけ、まんまと彼らを丸め込むことに成功する。
ソ連本国は3人の不手際を察知し、早速特権使節を寄こしてくる。3人はあわてて駅に迎えに行くが、列車から降りてきたのはニノチカという女性党員だった・・・。
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ニノチカは冒頭で紹介したように、まるでロボットのように利口で共産主義の申し子のような考え方の持ち主。駅では他人の荷物を運ぶような仕事(赤帽)は不公平ではないかと言うし、ホテルの売店に飾られている変な形の帽子を見て『あんなモノを被るような文化は滅びる』とまで言う。
そんな彼女が、その後偶然にレオンと街中で知り合い、奇妙な美女ニノチカに惹かれたレオンが彼女をエッフェル塔へ案内したり、我が家へ招いたりして急速に接近する。レオンの甘い口説き文句にも一向になびかないニノチカが、レオンにキスされた時に、『安らぐわ。もう一度して』と言ってしまうのがなんとも色っぽいシーンでした。
ところが、キスの真っ最中に例の3人組から電話が入り、ニノチカが今回の特権使節だと分かり、彼女も彼の身分を知るところとなる。勿論、ニノチカはすぐにホテルに帰ってしまうわけですが、彼女に恋をしたレオンは、次の日からも堅物の彼女に近づいていき、ある事件をきっかけに相思相愛の間柄になるというストーリーです。
その後は、スワナの策略により一旦は別れ別れになる二人ですが、ラストには急展開のハッピーエンドが用意されています。
ソ連の共産主義をおちょくりながら、そのうえに大人の男女関係を洒落た会話とユーモアあふれる展開で描いたロマンチックコメディですね。1939年は第二次世界大戦勃発の年ですが、その頃はナチス・ドイツの方に脅威を感じていただろうに、このようなソ連を皮肉った映画が作られるというのも面白いです。
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観客の想像力を刺激するのがイイ映画だと言わんばかりの、洒落た演出がそこかしこに見られる楽しい作品でもあります。
例えばレオンが3人組を懐柔するのに、酒や食事での接待をするシーン。
3人が宿泊している部屋に贅沢な料理が運ばれるところをカメラは廊下の方から写していて、3人組の喜びはドア越しに歓声を聞かせることで表現しています。料理の後には高いお酒が運ばれ、更に歓声が響き、ミニスカートのメイドが煙草を運んでくると、更に・・・というような演出です。
部屋の中でカメラを廻してもほとんどつまらない場面でしょうが、全てを見せないこんな描き方によって、ユーモアに溢れた洒落たシーンにしていました。
ビリー・ワイルダーはルビッチを師匠と仰いでいたらしいですが、アイディアにつまった時には『ルビッチならどうする?』と考えをめぐらしたそうです。
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1939年のアカデミー賞では、作品賞、主演女優賞、脚色賞等にノミネート。脚本は、ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケット、ウォルター・ライシュの共作です。
又、カメラのウィリアム・H・ダニエルズはガルボ映画のほとんどを撮影している人のようです。
メルヴィン・ダグラスは口髭がクラーク・ゲーブルのような二枚目ですが、その後も活躍が続いていて、63年には「ハッド」で、79年には「チャンス」で、2度アカデミー助演男優賞を受賞した名優でした。
3人組の一人、フェリックス・ブレサートは「桃色(ピンク)の店」のクラリクの先輩店員ビロヴッチを演じていた人。ルビッチ作品の常連さんです。
尚、この作品の日本公開は終戦後の1949年。当時、双葉さんは『この旧作が現在のどの映画よりも面白いとは。』と評されたとのこと。そして、57年のアステア、チャリシー共演のミュージカル「絹の靴下」は本作のリメイクなんだそうです。
※ micchiiさんのブログ、「愛すべき映画たち」には、この映画の洒落た台詞が数多く紹介されています。読み返すと、場面が浮かんで来てニンマリしてしまいますね。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】
部屋のドアだけ映すシーンはほんとに見事でしたね。
映さないことによって映す、これが世に言うルビッチタッチかと唸りました。
台詞もほんとにお洒落でした。最近は“説明台詞”ばかりでうんざりしていますが、たまにはこんな粋な台詞を聞きたいものですね。
ルビッチといえばmicchiiさんですから、過去記事にお邪魔しましたが、楽しい台詞がちりばめてあって・・・。
ガルボのその他の作品も観たくなりましたネ。