新・アドリアナの航海日誌

詩と散文、日記など。

夕暮れのバス

2014-03-26 21:43:41 | ポエム



それはいつもの仕事帰りのことだった
ようやく膨らみかけた桜のつぼみが
まだ冷たい風に揺れていたが
あらがいようもなく春は
すぐそこまで来ていた

ふと見上げた眼に
ビルの間に沈む赤い夕陽が映る
(もう冬はおわったのだわ)
たくさんのガラス窓に鮮やかな反射をくりかえし
私のくるぶしまで届くひかり
それは揺れながら近づく小さなバスを
一枚の赤い布に染めていた

少し疲れていただけで
祈りたいほどの思いがあったわけではない
ただ
降りてきた夜の闇に紛れて
次第に輪郭を失っていった
小さなバスの後ろ姿が
いつまでも私の目の中で揺れていた
(すぐに行ってしまったのに)

ひとときはこうやって
なにげなく過ぎていくが
日常の中には
紙くずほどの永遠が潜んでいる
それは
夕暮れの中を赤い小さな点になって
消えていったバスの後ろ姿にさえ
そうして
ひとは
遙かなものに出会うことがある