音信

小池純代の手帖から

雑談62

2025-03-08 | 雑談


玉城徹『近世歌人の思想』に良寛の詩が出てきた。
訓読文は次のとおり。

 已に情の起る無し  已:すで
 山水倶に鄰を為す。
 雲は途中の影を埋め
 鳥は石上の身を掠む。
 寒村雙履の雪    雙履:さうり
 晴野一筇の春。   筇:きよう
 清浄深く探り得ば  清浄:しやうじやう
 花も還世上の塵。  還:また



玉城氏による「わたし流儀で口語訳」したものがこちら。

 人の世の浮ついた思いはもう起こらぬ。
 自然が俺の友だちだ。
 雲が出ると、歩いてゆく影がなくなる
 石に坐ると、鳥が掠めてとぶ。
 雪を踏んでの村歩き
 晴れれば春の野の散歩。
 自然のこころがわかってみれば
 花に惚れたも俗情さ。


たのしいのが中盤の四行。

 雲が出ると、歩いてゆく影がなくなる
 石に坐ると、鳥が掠めてとぶ。


「途中の影」「石上の身」がこうなるのかと驚いた。

 雪を踏んでの村歩き
 晴れれば春の野の散歩。


「寒村」の雪の冷たさも「一筇」(竹の杖)のこころもとなさも
どこへやら。読んでいるだけで足が軽くなる。
七五七五の音律もここでは聞き慣れた歌謡のように軽い。

岩波文庫『良寛詩集』から以下白文。訓読文とともに
比べてみると「わたし流儀」がいかに自由な流儀かが分かる。
  
  贈国上村原田氏

 已無華情起 
 山水倶為鄰 
 雲埋途中影 
 鳥掠石上身 
 寒村雙履雪
 晴野一筇春
 清浄深探得 
 花還世上塵


詩を贈られた「原田氏」は原田鵲斎のこと。越後の医者にして文人。
良寛の詩友であり飲み友達だった。

『近世歌人の思想』には折口信夫「近代短歌」からの引用が
多く登場する。いまごろ気がついたのだが、
『近世歌人の思想』と、「近代短歌」を含む『折口信夫全集 第十一巻』(文庫版)
のカバーの色合いが偶然のことながら通い合っている。どちらもうれしそうだ。







コメント    この記事についてブログを書く
« 日々の微々 250223 | トップ |   

雑談」カテゴリの最新記事