読書の森

お天気姉さん その2


台風が近づいてきた。
通過するコースを分かり易く説明しなくてはいけない。
奈央子の出番が近い。

リハーサルは充分、夕方の本番はもうすぐだ。
キャスターの二宮辰巳はいつも真面目くさった顔をしてる。
奈央子が挨拶しても、にこりともせず会釈するだけだ。
メインキャスターの都村沙織はツンと澄まして辰巳に寄り添う。

又二人ともシカトしていると、奈央子は傷ついてしまった。

奈央子の抑えに抑えていた何かが切れた。

「ちょっと外に」
言うが早いか身を翻した。

裏手から出るとムッと熱気が包む。
奈央子は迷わず角の自販機の前まで歩いて行く。
ただの自販機ではない。

独身の男性社員などが勤め帰りに買う酒缶の自販機なのだ。


実は奈央子は下戸である。
小ジョッキ一杯のビールで真っ赤になって陽気に騒ぎ立てる。
これが面白くて、学生時代の仲間は彼女を飲みに誘った。

今は遊んでる時でないし、飲んだらどうなるかよく分かっていた。

だが、奈央子は缶ビールを手に入れた。
よく冷えたビールが喉を気持ち良く通り抜ける。

「ウイー。バカらしくてバカらしくて、呑まずにやってられないの!」
勿論心の中で叫ぶだけだが、奈央子はかなりいい気分になってきた。

だが、放送開始時間は迫っているのだ。
前後の見境もなく、勤務中に飲酒したのは、これも暑さのせいだろうか?
彼女は自分の顔がみるみる桜色に染まっているのにも気づかず、スタジオに急いで戻った。

読んでいただき心から感謝いたします。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「創作」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事