身体どころかメンタル迄やられてる」
「失礼過ぎる!少なくとも俺は愛の夫だ。確かに子供っぽい女だが、メンタル狂ってとは言えない」
「、、、」
長い沈黙の末に坂下は呟いた。
「確かに。お前はれっきとした愛さんの夫である。しかし俺は家が近いので彼女の小さな頃からよく事情を知ってるんだ。何もかもと言っていい」
「何言ってる!ずっと前の同窓会で愛がどうしてる?って聞いてたじゃないか。大学休学のも知らなかったじゃないか」
「違う。わざととぼけていたんだ。俺全部知ってる」
「何だよ」
「愛さんは義兄に犯されて錯乱した!」
「そんなん嘘だ」
「彼女実は捨て子だったんだ」
「何だって」
酔いも手伝ってか、坂下は愛に関する驚くべき事実を話してくれた。
坂下が5歳の時、近くの家に可愛い女の子が引っ越して来た。その家には老夫婦と成人した男子が住んでいて、彼らの親戚の子だと思っていた。
その子が養女で、施設の前に捨てられた子だという事を、坂下が両親から聞いたのはもっと後である。それ娘のいない老夫婦が哀れんで引き取ったという事だ。
杉野家と坂下家は昔から親しい間柄で他の家族は知らないらしい。
物語の主人公のような愛が不憫で幼い頃から坂下は愛が好きだった。
無邪気な愛は坂下にとても懐いたが、それは妹が兄に対するような馴れた感じだった。
年頃になって、意図的に坂下は意図的に愛と同じ高校に進学した。
かなり敏感な筈の彼女は、こと恋愛に関する限り相当奥手で坂下の思いに気づかない。わざとでないらしい。
おまけに別の男子に熱を上げていた。学年のスター的な存在の、つまり荏田卓にである。
平凡な容姿、それほど才気があると見えない己を彼はとうに自覚していた。
それでも坂下は彼女をずっと見守ってやろうと思っていたのである。
志望の大学に入学した後、愛の身の上に悲劇が起きた。
愛の戸籍上の両親、老夫婦は歳を重ねて心身が弱ってきた。そこで遺言を作る話が出たのである。
実子の男性は愛と比べてかなり出来が悪く勤めに付かず家でゴロゴロしていた。
同じ家に希望に燃えた初々しい女がいる、元来赤の他人だ、小さな頃から自分の親の愛情を独り占めしてる、その子が憎かった。
可愛い顔して財産が欲しいのか?歪んだ気持ちがある夜爆発して、夜中愛の部屋に忍び込んで陵辱してしまったのである。
突然起きた非道な暴力は、愛にとってショック以上の事で、彼女はこの時突然耳も目も口も機能しなくなって、汚れた寝巻きのままで外に飛び出してしまったのだった。