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読書の森

永遠の嘘 その7

「荏田、何間違えてるんだ。俺だよ、坂下だ、今お宅にお邪魔してるところなんだ」
(こんなに遅い時間まで?)
訝しく思いながら、卓も元気な声を装った。
「おお、久しぶりだね。コロナ禍通っても景気良さそうで何よりだ」
「済まん、ずっとご無沙汰した挙句、こんな時間迄上がり込んで。実は親父とおふくろが相次いで亡くなって、誰とも連絡出来ない状態だった」
「それはご愁傷様でした。こんな事聞くべきでないが、コロナでかい?」
「、、、コロナじゃない。両親とも癌だった」
坂下の声のトーンが落ちた。

「今日は花金だろう、会社帰りに同僚と呑んだ後、渋谷をうろついてたら、ばったり奥方と会ってしまった。
(それで酔って勝手に人の家に入りこんだのか?)
渋谷と言えば、検査した外科クリニックのある所だ。滅多に繁華街に出ない愛は何の用事で行ったのだろうか。
第一、昔馴染みに会ったからと言って家にいる引き入れるとは愛は何を考えているのか?
そう言えば、坂下は卒業後、大手企業に入社して美人で才媛の学友と結婚したが、共稼ぎがうまくいかずに、家庭不和の果てに離婚したと聞いた。
という事は。

卓は又疑心暗鬼に駆られた。
「今奥さんは薬買いに行ってるよ。俺の為の胃腸薬だ。ホントに申し訳ない」
「なんだ。それ?」


「屋台で一杯引っかけて帰ろうと思ったんだ」
(とっとと帰りゃいい)
「いつも平気なのに、目の前がクラクラしてきた。止せば良いのにチャンポンで呑んじゃった」
聞いてる内に卓は腹が立ってたまらなくなって来た。
「そこへ、『あーら坂下君、久しぶり。ほら高校で一緒だった荏田です。、、どうしたの?顔色悪いよ』
って奥さんが寄って来たんだけど」

一体愛も坂下も学校の成績は優秀な筈だが、とんでもない馬鹿だ、常識外れだ。
「それでうちの奴が、心配して家に引き入れたという訳か?」
「よく分かるな。と言いたいところだけど、俺のほうで頼んだんだ」

「どういう意味でだ?非常識だよ」
「癌の話ですよ」
坂下は急に真面目な調子になった。
「荏田、この前渋谷の病院で内視鏡の検査を受けたよな。実は俺も、そしてお前の奥さんも受けていたのだ。
もっと以前に」
「、、、」
「俺はセーフだったが、奥方大変な事態なんだ。相当に胃癌が進行してるので入院する必要があると言われたそうだ。ところが直ぐ後にお前がポリープを切除して非常にナーバスだったので話すことが出来なかったんだ」




読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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