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百恵は志賀輝彦が好きだった。
淡い交際に心を弾ませた。
就職先はZ書店と決めていた時、志賀に婚約者がいる事を知った。
かなりショックを受けた百恵は、気持ちを一新する為に転居した。
しかし、百恵は志賀輝彦が忘れられなかった。
ストーカーはひょっとしたら志賀本人かもしれないと甘い期待を持った。
送別会の際の、輝彦の気遣う様な眼差しが忘れられなかったからだ。
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百恵は恐る恐る輝彦にメールを送り、
「ストーカーに追われてるようで、ノイローゼ気味」と冗談半分に伝えた。
何の返事もない。
誰ともしれないストーカー行為は続いている。
本当にノイローゼになった百恵は気分転換にペーパークラフトを習い始めた。
手仕事は好きだった。
習い事のあった金曜日、後ろからついてくる男に気付いた。
嫌らしい息づかいが聞こえる錯覚に陥った。
その男はいつものストーカーに違いない。
あの男が私に変なメールを打たせて、輝彦の気持ちを冷えさせたのだ。
そう思い込み、男が無性に憎かった。
振り返るとそばに寄ってきた男を衝動的にクラフトばさみで刺した。
男の顔が月明かりで仄かに見えた。
うめき声を上げた男は輝彦だった。